« 「エヴェレスト 神々の山嶺(いただき)」みた。 | トップページ | 「バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生」みた。 »

2016/03/22

「リリーのすべて」みた。

The_danish_girl

第88回アカデミー賞では4部門にノミネートされ、アリシア・ビカンダーが見事助演女優賞を受賞した作品で、性同一性障害に苦しむ夫と夫を最後まで支え続けた妻の、夫婦を超えた愛と絆の物語。
実話をもとに描かれた、とてもデリケートな物語を見事にアリシアとエディが演じきっており、彼らをぎゅっと抱きしめたくなるような作品で素晴らしかった。

アイナー・ヴェイナーは風景画家としてそこそこ成功しており、妻ゲルダも主に肖像画を描く売込み中の画家。子宝を望み一般的な夫婦生活を送る充実した家庭を営んでいた。
ある日、アイナーはゲルダの為に都合のつかない女性モデルの代役をすることになる。戸惑いながらもストッキングを身に着け、女性らしい仕草でドレスをあてがうアイナーだった。しかし、この瞬間アイナーの中で何かが覚醒してしまう。
この事が引き金となりアイナーは自分の内に封印されていた女性の部分”リリー”の存在を自覚することになるのだが、そうとは知らないゲルダは、この時のアイナーのあまりの可愛らしさから悪ノリで本格的な女装を手伝い、”リリー”としてパーティに同伴までさせてしまう。
これ以後、アイナーの”リリー”化は急速に加速し苦悩するアイナー。そして夫の変化に気づいたゲルダは戸惑い、複雑な思いに駆られはじめる。

性同一性障害は「人として異常である」とされる時代。医者ですらほぼ無理解で一歩間違えば精神分裂と診断され隔離されかねない状況。
それでも出来ることなら元の夫に戻って欲しいと願うゲルダであり、アイナーも努力を試みるが、アイナーはもはや精神的に後戻りはできない位に女性を自覚したリリーになっていた。

ここから凄いのがゲルダという人物の懐と愛情の深さ。認めるとか認めないとかではなく、それこそが彼の本来の姿であるとして、最愛の人としてありのままを受け入れる覚悟を決めてしまう。けれど決して完全に割り切って開き直ったわけでも無く、最後までアイナー・ヴェイナーの妻という自負を残したままであり、意見しつつ、彼であり彼女が望む選択を理解し支援を惜しまないゲルダの姿勢に尊敬の念を抱いた。なんてタフな女性なのだろうと。

とにかく、アリシアとエディのによる渾身の演技によるところが大きいと思う。ゲルダとアイナーの困惑や葛藤、苦悩といった感情の部分がビシビシと伝わってきてすっぽりはまり込んでしまった。
今後どちらも注目の俳優さん、女優さんになった。
上映館が多くないのが残念だけれど、遠出しても一見の価値あり。

好感度:★★★★+

心と身体の不一致による苦悩。これは本当の意味では当事者にしか分からないことだと思うので、ゲルダ側からみた視点でしか感想がかけないのだけれど、先頃リアルに性同一性障害の男性と知り合う機会があったばかりの自分で、彼はこの映画を観るだろうか?ふとそんなことも考えながら観ていたように思う。
そうとは知らずに男の子だと思っていた彼と女子トイレで遭遇した際にカミングアウトされて、ただただ狼狽した自分を思い出す。あっけらかんとしていた彼だったけれど、彼がその時どんな思いで告白したのか、相続力の足りなかった自分を情けなく思い出すばかりだけれど。

| |

« 「エヴェレスト 神々の山嶺(いただき)」みた。 | トップページ | 「バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生」みた。 »

コメント

ほんと、ゲルダという女性の強さには驚きです。
そしてああいう強さは男には持ちえないものだとも思いましたよ。
女性ってやっぱり凄い存在です。

そしてそんな女性をも演じてしまうエディ・レッドメインには演じる事の出来ない役なんて存在するんでしょうかね?

投稿: にゃむばなな | 2016/03/23 21:03

■にゃむばななさん、こんにちは
もともと勝ち気な正確なようでしたがゲルダの強さは破格に思います。
芸術家であることも無関係ではない気がします。

エディは個性的な人物の演技が目を見張りますね。何をやらせてもきっと上手くやってしまうように私も思います。

投稿: たいむ(管理人) | 2016/03/25 10:38

たいむさん☆
ほんと、ゲルダの懐と愛情の深さに感服しましたねー
もう涙・涙でした。
レッドメインも絶妙に演じ分けをしていたけど、アリシアのあの心の揺れを繊細に表現する演技力は見事としか言いようがないですね。

投稿: ノルウェーまだ~む | 2016/03/26 00:39

■ノルウェーまだ~むさん、こんにちは
ええ、後半は涙ポロポロ流してみてました。

内容もとても良かったけれど、エディとアリシアのけん引力があってこそかもしれません。
彼らには、今後幅広いジャンルで見せてくれると嬉しいです。

投稿: たいむ(管理人) | 2016/03/29 14:57

こんにちは。

去年の「博士と~」より、これぞ夫婦なんだなーと言うような気がしました(苦笑)
色々と脚色されているのは承知の上で、世間の理解が難しいこの時代、妻の支えがあったからこそ貫き通せたと考えると、現在の私たちは障害やマイノリティに関してもっと理解を深めないと感じました。
愛物語だけでない深いメッセージがありましたね。

投稿: オリーブリー | 2016/04/16 13:38

■オリーブリーさん、こんにちは
障害やマイノリティと深く関わり合うって生半可じゃ出来ないなって。
結論はともかく「博士~」て妻が疲れてしまったのも理解出来ますし。
覚悟をもって向き合えないのならば、せめて見守るだけにしてって思うところです。

投稿: たいむ(管理人) | 2016/04/19 13:59

奥様の愛の深さに本当にただただ涙でした。
すごい愛をみたな~って思いました。

かなり好きな映画でした。

投稿: Nakaji | 2016/05/21 22:31

■Nakajiさん、こんにちは
ゲルダのおっきな愛には感服ですね。
あの強さはいったいどこからくるのでしょうね。

投稿: たいむ(管理人) | 2016/05/24 10:36

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 「リリーのすべて」みた。:

» 『リリーのすべて』 [こねたみっくす]
どんなに頑張っても男は女にはなれない。そして敵わない。 世界で初めて性別適合手術を受けたデンマークの画家アイナー・ヴェイナーことリリー・エルベと、彼から彼女へと変わり ... [続きを読む]

受信: 2016/03/23 21:05

» 「リリーのすべて」☆せつなさ100% [ノルウェー暮らし・イン・原宿]
妻のゲルダを演じたアリシア・ビカンダーが何しろ素晴らしい。 納得のアカデミー賞助演女優賞受賞だゎ。 せつなく唇を震わせて涙をこらえる妻の姿に、真実の愛を感じずにはいられない。... [続きを読む]

受信: 2016/03/26 00:39

» リリーのすべて/THE DANISH GIRL [我想一個人映画美的女人blog]
世界で初めて女性への性転換手術を受けたデンマークの画家リリーエルベの実話を 「英国王のスピーチ」ではアカデミー賞監督賞受賞「レ・ミゼラブル」などのトム・フーパーが映画化 名作を数本生み出してるけどまだ43歳。 原作は、デヴィッド・エバーショフの「...... [続きを読む]

受信: 2016/03/31 10:19

» リリーのすべて [心のままに映画の風景]
1926年デンマーク。 風景画家のアイナー・ヴェイナー(エディ・レッドメイン)は、同じく画家の妻ゲルダ(アリシア・ヴィキャンデル)に女性モデルの代役を依頼され、自身の内面にある女性の存在を感じ取る。 それ以来、リリーという女性として生活していく比率が増していくアイナーは、心と体の不一致に悩む。 夫の様子に困惑するゲルダだったが、次第に理解を深めていくことになり…。 世界初の...... [続きを読む]

受信: 2016/04/01 17:52

» リリーのすべて [C’est joli ここちいい毎日を♪]
リリーのすべて 15:イギリス ドイツ アメリカ ◆原題:THE DANISH GIRL ◆監督:トム・フーパー「レ・ミゼラブル」「英国王のスピーチ」 ◆主演:エディ・レッドメイン、アリシア・ヴィキャンデル、ベン・ウィショー、アンバー・ハード、マティアス・スーナールツ ◆...... [続きを読む]

受信: 2016/05/22 21:47

« 「エヴェレスト 神々の山嶺(いただき)」みた。 | トップページ | 「バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生」みた。 »