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2015/12/04

「黄金のアデーレ/名画の帰還」みた。

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第2次世界大戦時にナチスによって略奪された名画の一つ”黄金のアデーレ”の返還要求裁判をめぐる実話をもとに描かれた作品。
オーストリア政府と”黄金のアデーレ”の所有権を争うのが絵のモデルであるアデーレの姪:マリア。最終的に勝訴することは邦題からも判明しているけれど、ユダヤ系であるマリアの数奇な半生をも話に絡めてあることで、オーストリアの黒歴史にも触れた内容になっており、見応えのある映画になっていた。

ユダヤ系のマリアは、ナチスのオーストリア占拠時に夫と共にギリギリで出国してアメリカへ亡命、その後60年近くロサンゼルスで穏やかに暮らしていた。しかし実の姉の遺言から、ナチスに奪われ現在はオーストリアの美術館で展示されている、伯母をモデルにした名画:クリムトの”黄金のアデーレ”の返還請求が可能かもしれないとの情報を得たことで、弁護士をしている友人の息子に仕事を依頼をする。
ただ、”黄金のアデーレ”は「オーストリアのモナリザ」ともいえる象徴的絵画になっている現在で、その価値も計り知れないものになっている。オーストリア政府は「美術品の返還政策」を打ち出しているものの、”黄金のアデーレ”については正当な所有権を主張して返還を拒絶、結局、マリアは裁判で争うしかなくなってしまう。

まぁ”黄金のアデーレ”はそれだけの名画なのだし、オーストリア政府が手放したがらないのも無理もない話とは思う。実際アデーレ自身が「美術館に寄贈する」といった内容を記した遺言書も存在するわけだし。
けれど、”黄金のアデーレ”がマリアにとってどういう存在なのか、伯父・伯母夫婦と共に暮らしていた幼き日々の思い出、幸せな結婚生活も束の間に両親を置き去りにしたまま祖国を脱出しなければならなかった事実など彼女の苦悩や悔恨、消えることのない心の傷が明かされるにつれて胸がどんどん苦しくなり、涙が溢れてくる。
それでも、一筋縄とはいかなかったものの、裁判では新米弁護士:ランディや協力者の尽力によって人々の心が動かされていくところが心地よく描かれており、期待どおりの結果をもたらしてくれるので爽快な後味が味わえる。

オーストリアとナチス。
ナチスの非道は周知の事だけれど、オーストリア絡みで「そういえば・・・」と思い出せるのは『サウンド・オブ・ミュージック』くらいだろうか。当時のオーストリアについてその程度の認識しかない残念な自分であり、ドイツ人だけではないのだと、初めて意識に至ったように思う。

これもまた知る映画。『ミケランジェロ・プロジェクト』でも思ったけれど、本当にまだまだ知らないことが沢山あるのだとつくづく思う。
これは「ミケプロ」では語りつくせなかった、奪還した美術品の数だけあるその後の話の一つといったところで、とても良い映画だった。

好感度:★★★★+

さすがはヘレン・ミレンであり、ライアン・レイノルズも好演。概ねシリアスだけれど肩の力が抜ける遊びがあるのは良いね。カンガルーとか。

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コメント

「サウンド・オブ~」のヒットは、当時のオーストリアでは賛否あったみたいですね。
祖国を捨てて行ったとの解釈もあるみたいだし、なかなか難しい問題です。
亡命した人達にも私たちの想像以上に複雑で苦しい想いは多々あるでしょう。
簡単な事例ではないから、法廷劇を期待しすぎて物足りなく感じてしまいましたが、今作のマリアからもそれはひしひしと伝わりました。
そうそう、あのカンガルーはオーストラリアと勘違いしたってことだけ?
他に何か意味があるのかとしばらく考えちゃった(苦笑)

投稿: オリーブリー | 2015/12/04 21:27

■オリーブリーさん、こんにちは
敵対した立場だと、何もかもが180度違ってしまいますから、どっちの視点で見るかって話なわけで、ほんと難しですよね。マシてや人間に「総意」なんてあるわけもなく、どこ行ってもヒエラルキーが存在するわけで。

私は特別裁判劇を期待するでもなく見に行ったので、回想部にやられちゃいました。

カンガルーは私もちょっと意味を考えましたが、のんきな職員さんに微笑ましさを感じちゃったりしました。

投稿: たいむ(管理人) | 2015/12/11 15:35

たいむさん☆
ホント、知らない史実がまだまだいっぱいあるね~
それをこういった映画として見せてくれるのは、有り難い事だわ☆
映画になると全てが真実とは限らなくなるけど、この映画は結構史実に忠実なかんじが正直で良かったと思います。

投稿: ノルウェーまだ~む | 2015/12/12 00:24

回想シーンが秀逸でしたね。
あれがあるから、なぜ、あそこまで祖国に戻りたくないのかとか、
家族の絵だと思う気持ちとかが理解できる。
杉原千畝をみた後だったので、よけいにそのあたりが胸にずんと残りました。

投稿: mariyon | 2015/12/15 17:29

■ノルウェーまだ~むさん、こんにちんは
またまたすっかり遅くなってごめんなさい。

実話の映画化、本当に毎年毎年何かに驚かされますね。
ドラマ的に脚色はあれど、そうしたことがあったということを知る機会が得られるのは嬉しいことですね。
たまに痛みも伴いますが。。。

投稿: たいむ(管理人) | 2015/12/20 09:10

■mariyonさん、こんにちは
回想シーンと平行に進むことで、やや偏ってはいますが事実と真実との両方を見られてよかったと思いました。
名画であれ、幼児園児の子供の絵であれ、家族にしか分からない価値ってありますよね、やっぱ。

「杉原千畝」、見たいのだけどなかなか機会が・・・なんとか年内中には見たいものですが。

投稿: たいむ(管理人) | 2015/12/20 09:14

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