「セッション」みた。
第87回アカデミー賞ではJ・K・シモンズが助演男優賞に輝き、ほか2部門を受賞。
常々音楽モノにはハズレなしと思っているけれど、この作品に限っては”楽しい音楽の時間”なんてとんでもない、生半可な気持ちではしっぺ返しをくらいかねず、覚悟を決めて臨んで欲しいと思う。
でも、すさまじい狂気に畏怖の念を抱きつつも、震えがくるあの凄まじいラストの演奏。やはり音楽は楽しいものらしいという〆にホッとする、至極の音楽映画だと思う。
ストーリーは簡単。プロのドラマーを目指す、夢と希望に満ち満ちた音楽学校の新入生:アンドリューが、その道では有名なフレッチャー教授の目に留まり、誰もが羨む彼のスタジオ・バンドへの加入を許される。しかし有頂天でいられたのもつかの間、フレッチャー教授の容赦のない罵声に執拗なしごき、少しのミスも許さない厳しいばかりの指導に打ちのめされ、さながら下剋上という過酷な正奏者争いではその身を削り合う耐久戦を強いられる。
学生は才能と実力と努力のすべてを求められ、やがてアンドリューも精神的に追い詰められていく。そして目的も手段もごちゃまぜとなり、正奏者に固執するアンドリューの妄執が最低な事態を引き起こし、その結果、アンドリューのプロへの道は絶たれ、フレッチャー教授も引責辞任を迫られるという最悪の結末を迎えることになる。
しかし、そこでは終わらない。けれど、そこから感動の再起ともならない。それが、曲者揃いのこの物語の肝。
とにかく和解したと見せかけての教授の陰湿な報復には背筋が凍る思いがし、もはや土壇場だというのにこの映画がどこへ向かおうとしているのか掴めずハラハラ。
けれど、アンドリューの冷静かつ見事な応酬、何かに憑かれたかのようなドラムの演奏は延々とつづく。そしてその変化に気が付かない教授ではない。それこそが彼が求めてきたものだった。
これがゾーンってヤツか。アンドリューの神懸り的なドラム、止まらないスティック捌きに目が離せず、次第に全身に力が入っていくのが分かった。彼は”行っちまった”のだと思った。
前評判どおりの最高のラスト9分19秒。そうして最後の2人のニヤリにようやく肩の力を抜いた。憎しみ合いながらも一線を越え、ホンモノとなった彼ら。漸く解り合え彼らだけの素晴らしいアチラ側の世界に彼らがたどり着けたことに安堵した。
苦痛も多いけれど、最後の最後にはきちんと救ってくれるので大丈夫。ジャズとかよく知らなくても、素人でもその凄さは感じられるはず。見て損はないと思う。
好感度:★★★★+
まぁとにかくシモンズの怪演がすごいのなんの。
フレッチャー教授の容赦なきシゴキは『アメリカン・スナイパー』でのネイビー・シールズの鬼教官を彷彿。実際にやられたらトラウマになりそう
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サンダンス映画祭でグランプリと観客賞、アカデミー賞では5部門にノミネートされJ・K・シモンズの助演男優賞を含む3冠を獲得した作品。名門音楽学校に通うジャズドラマーと、彼に理不尽なまでの教育をする教授の姿を描き出した人間ドラマだ。主演は『ダイバージェント』などのマイルズ・テイラーと『JUNO』などのJ・K・シモンズ。監督はデイミアン・チャゼルが務めた。... [続きを読む]
受信: 2015/04/18 00:08
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J・K・シモンズはそりゃオスカー獲るわ。
もうサイコっぷりが堪らない。
罵声飛ばしたり、ピリピリと指導したりと目が離せない。
音楽学校の先生なのにハートマン軍曹みたいだも ... [続きを読む]
受信: 2015/04/19 22:44
» 『セッション』 [こねたみっくす]
ドラム版『フルメタル・ジャケット』という評価に偽りなし!
ただ映画を見ているだけなのに、まるで自分自身も時間制限なしにドラマを叩かされているような、この全身に襲い掛か ... [続きを読む]
受信: 2015/04/19 23:23
» セッション / Whiplash [勝手に映画評]
名門音楽学校での狂気じみたレッスン、そして、その後の生徒と教師の確執を描く。
原題の『Whiplash』は、元々は曲名なんですね。なるほど。その曲が、アンドリューとフレッチャーの接点にもなるのですから、そうかと言う感じもします。邦題もそれで良かったのではないか...... [続きを読む]
受信: 2015/04/20 22:25
» セッション 監督/デイミアン・チャゼル [西京極 紫の館]
【出演】
マイルズ・テラー
J・K・シモンズ
【ストーリー】
名門音楽学校へと入学し、世界に通用するジャズドラマーになろうと決意するニーマン。そんな彼を待ち受けていたのは、鬼教師として名をはせるフレッチャーだった。ひたすら罵声を浴びせ、完璧な演奏を引...... [続きを読む]
受信: 2015/04/23 00:15
» 映画:セッション Whiplash 予想外に見過ごせない、究極の体育会系教師と弟子のガチバトル [日々 是 変化ナリ 〜 DAYS OF STRUGGLE 〜]
正直、ここまで面白いとは思わなんだ。
体育会系教師 vs 弟子 のバトル、という構造を聞いただけで、よくある予定調和の物語を想像していたので。
これでやっと、なぜアカデミー賞で5部門にノミネートされ、それも「作品賞」「脚色賞」含む、というのに、ナットク。
...... [続きを読む]
受信: 2015/04/29 07:42
» いや〜、ドッと疲れた。(^_^;)〜「セッション」〜 [ペパーミントの魔術師]
これはもう完全に、周りの方が好印象だったので興味本位で首突っ込んだ作品で
バードマン同様、おそらく自分じゃチョイスしない作品だった。
いやもう、息止めてるわけじゃないんだけど、映画が終わって
エンドロールが流れ出したとたんに力が抜けたというか、ドワッと...... [続きを読む]
受信: 2015/04/29 23:21
» ジャズは死なず~『セッション』 [真紅のthinkingdays]
WHIPLASH
父子家庭に育ち、幼い頃からドラムに親しんでいたアンドリュー(マイルズ・
テラー)は、全米屈指の音楽大学、シェイファー音楽院に入学する。伝説の
ジャズドラマーになる夢を抱いていた彼は、名物教授フレッチャー(J・K・シ
モンズ)と出逢い、彼のバンドの練習に呼ばれるのだが・・・。
ある時はピーター・パーカー(ことスパイダーマン)...... [続きを読む]
受信: 2015/04/30 13:04
» セッション [心のままに映画の風景]
ジャズドラマーを夢見て、全米屈指の名門であるシェイファー音楽院に入学したニーマン(マイルズ・テラー)は、鬼教師として名をはせるフレッチャー教授(J・K・シモンズ)の目に止まり、彼のバンドにスカウトされる。
自信と期待を胸に練習に参加したニーマンだったが、そんな彼を待っていたのは、わずかなテンポのずれも許さないフレッチャーの狂気のレッスンだった。
それでも頂点を目指すためと、罵声や理不...... [続きを読む]
受信: 2015/05/02 23:56
» セッション [映画に耽溺]
アマゾン 最安値 音楽 書籍 楽天 最安値 音楽 書籍 [続きを読む]
受信: 2015/05/10 18:18
» 『セッション』 [京の昼寝〜♪]
□作品オフィシャルサイト 「セッション」□監督・脚本 デイミアン・チャゼル□キャスト マイルズ・テラー、J・K・シモンズ、メリッサ・ブノワ、 ポール・ライザー、オースティン・ストウェル■鑑賞日 4月19日(日)■劇場 TOHOシネマズ川崎■c...... [続きを読む]
受信: 2015/05/12 07:52
» 「セッション」 [ここなつ映画レビュー]
キツイ作品だった。どうキツイのかは後述するとして、息詰まる熱い作品であった事は間違いない。強いパッションを感じるし、音楽の持つ底力に圧倒させられる。名だたる音楽学校で、何のコネも血筋もなく、ただひたすらドラムを叩く気の弱い青年。ただドラムが好きなだけだったのだが。火花散る師との闘いの中、抜擢、挫折、ひたすら文字通り血の滲むようなドラムの練習、自惚れ、自暴自棄…これの繰り返し。…これを我が息子にダブらせない筈もない。運動部の「シゴキ」では全くお馴染みの光景だ。何が正しいのか判らない。私はもうgive ... [続きを読む]
受信: 2015/05/13 13:01
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☆・・・これは凄い映画でした。 私は、このような、『4分間のピアニスト』を彷彿とさせる、情熱や根性、才能や激情の作品が大好きなのです。
・・・とあるジャズ評論家が、この映画に対し、そのエキセントリックさに「ジャズへの冒涜だ」と言い、 とある映画評論...... [続きを読む]
受信: 2015/06/05 09:50
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狂気と狂気のぶつかり合い…
詳細レビューはφ(.. )
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コメント
師匠と弟子が求めていた境地に達した瞬間に映画が終わる。
もう何て格好いい終わり方なんだ!と震えてしまいましたよ。
本当に今年は音楽映画にハズレなしですね。
投稿: にゃむばなな | 2015/04/19 23:11
■にゃむばななさん、こんにちは
ほんと、カッコよかったですね~。
あそこで終わるのが最高の余韻になりましたし。
「はじまり~」とも違う満足感を味わいました♪
投稿: たいむ(管理人) | 2015/04/20 17:20
こんにちは。
シモンズの鬼ぶりは楽しみにしていましたが、マイルズ・テラーも上手かったですよねー!
これは音楽映画と言うよりは、曲者たちの人間ドラマであって、映画としてとっても力のある作品だと思います。
投稿: オリーブリー | 2015/05/03 14:16
■オリーブリーさん、こんにちは
月並みだけれど、「凄い」としか言えないものをかんじた映画でした。
俳優陣の真剣勝負、あまりにリアルで怖くもありました。
>力のある作品
本当にね。久しぶりに熱くなって震えがくる映画でした。
投稿: たいむ(管理人) | 2015/05/04 07:42
いい作品ですよね~~。
金もかけないでも、短期間でも、すごい作品は生まれる。
まさに、最後にアンドリューが起こした奇跡のように、
芸術は、すべてを凌駕する。
若い監督の意気込みがばんばん伝ってくるような
そんな気分で、ほんと観ることができて良かったです。
フレッチャーは人間としては独りよがりなダメな奴でも
芸術を愛する心は誰に負けない。
シモンズさん、もう、そのものになりきっていて
恐ろしかったです。
投稿: mariyon | 2015/05/12 11:28
■mariyonさん、こんにちは
そうなんですよ。
こっちもぐーっと力が入ってしまうし、スクリーンからビンビン何かが伝わってくるの。
どいつもこいつも気迫がすごくて、人間としてどうよって登場人物ばかりで恐ろしくもあるのだけど、極めた彼らを見ると納得してしまうところでもあるし・・・
当たり前に観た人にしか分からないかもですが、見逃したら損って思える作品と思いました。、
投稿: たいむ(管理人) | 2015/05/14 09:01
>和解したと見せかけての教授の陰湿な報復
まさかそうくるとは…と、
フレッチャーの怖さが非常に良く描かれていましたよね。
そして、そこからのニーマンとフレッチャーの戦いが見事で、
最後は互いに認め合ったような感じでエンドロールへ。
絶妙な入り方だと思いました♪
投稿: BROOK | 2015/06/16 16:54
■BROOKさん、こんにちは
色々な意味でひきこまれて固まってしまうような映画でした。
人間コワイ。。。芸術家コワイ。
でも、あのラストに救われるんですよね(^^)
投稿: たいむ(管理人) | 2015/06/17 17:52