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2014/09/23

『明日の子供たち』 有川 浩 〔著〕

Asitanokodomotati

約1年半ぶりの新刊は、”児童養護施設”をテーマに執筆された小説。これまでも一般社会的に正しく認知されていない様々なものについて、分かりやすく噛み砕きつつ実情や過酷な現実を盛り込んできた有川作品ではあったけれど、今回はより強く、ストレートに啓蒙するかたちで描かれた作品に思う。
それというのもこの小説は、とある施設で生活している子供から有川先生に送られた手紙が切っ掛けとなって執筆されたとのことらしい。だとすればそうなってしまうのも理解できなくはないのだけど。
限りなくノンフィクションに近いフィクション作品。けれど重さはさほど感じられない。そこが有川マジックか。

内容は、とにかく児童養護施設の現状やとりまく問題で、そこに焦点が当てられたもの。そこに施設の子供たちの心情から実態や退所後の実状、職員たちの本音と建て前による葛藤、後悔から方針転換などの実例みたいなものが絡めてあるのだけど、とりあえずは新米職員を道案内人役にして、その失敗や習得した事柄をもとに話は進んでいく感じになっている。
ということで、テレビ番組に影響を受け、ありがちな幻想を抱いて児童養護施設に転職した元営業マンの三田村慎平がその新米職員。そんなだから意欲とやる気は人一倍なのだけど、残念ながら慎平ちゃんは世間一般にあるような勝手な思い込みや同情心しか持ち合わせていなかったものだから、聡い子供たちに上っ面の正義感を直ぐに見抜かれてしまうわけだ。

この作品での第1のキーワードは「かわいそう」。
まず慎平ちゃんは、施設の子供たちは不憫で不幸で可哀相な子供たちだから、親に甘えられない分、自分たちが甘やかしてもよいのでは?という考えを持っていた。けれど、それは大間違いだと指摘されることになる。
そのように”施設の子供”というだけで掛けられてしまうフィルター。「施設で暮らす子供が何故施設に入らなければならなかったのか?」ということを先に考える人は殆どいないだろう。でも原点はそこにあるわけで、それを知ることもなく憐れみ全開で「かわいそう」だと彼らをその一言で縛り、軽々しくも一括りにしてしまうのは傲慢だということを認識させられる。
また、子供として学ぶべきことや守るべきことは、施設の子であろうと一般家庭の子であろうと何ら変わらないという、当たり前であるはずのことの失念を自覚することになる。

そんなこんなで、慎平ちゃんは児童養護施設ならではの厳しい現実を学びつつ、先輩職員、あるいは子供たちにこれまでの価値観をひっくり返されながらも職員として成長していくことになる。

当事者や関係者、福祉関係に少しでも携わったことのある方々ならば頷きつつ、これまでまったく無関心だった方々は目から鱗、あるいは「そういうもの?」と思いつつ読み進むことになるであろう小説。
とはいえテーマがテーマだし、そもそもからして読者を選ぶようにも感じられ、逆の意味で当事者側に寄り添い過ぎだ印象も無きにしも非ず。
それでも「やっぱり有川作品だな」といった感じのノリなので、これまで同様読みやすい作品と思う。

前回『旅猫レポート』の時にも書いたけれど、最近はこの手の作品が続いているように思う。悪くはないけれど、スカッとするような勢いで楽しませ、転げまわりたくなるような作品もまた是非お願いしたい。『シアター!3』はいつになったら読めるのかな?とか思ったり・・。

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コメント

たいむさん こんにちは
慎平さん=有川先生なのかなと思いながら、レビューを読ませていただきました。

たいむさんのレビューはとても読みやすいですね。

投稿: サバサバ | 2014/10/18 17:01

■サバサバさん、こんにちはsun
お久しぶりです♪
そうですね~「読みやすい」といっていただき恐縮ですが、”慎平さん=有川先生”と受け取られてしまったようでは全然かもしれません。

有川先生も最初の最初は”慎平ちゃん”だったと頃もあるかと思いますが、以前から障害者や児童虐待をテーマに書かれていたことも有りますし、序盤の慎平ちゃんの言動は、一発でわざと言わせているなって感じで、かなり予定調和に書かれていたような印象が私にはありました。

それでも、だんだんいつもの有川作品男子になっていくのでほっとしましたが。

デリケートなテーマなだけに、良く纏められていたと思う作品ではありました。

投稿: たいむ(管理人) | 2014/10/18 19:15

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