« 「終物語(中)」西尾維新/著 | トップページ | 「あなたを抱きしめる日まで」みた。 »

2014/03/08

「それでも夜は明ける」みた。

12_years_a_slave

第86回アカデミー作品賞、助演女優賞、脚色賞の3部門の受賞作品。
奴隷制度が廃止されるまでにはまだ30年近い年月が必要な1841年のお話で、自由な身分にも拘らず意図的に誘拐され、南部の農園に売られた黒人ソロモン・ノーサップの自伝に基づいた作品。
遣り切れない思いが常に付きまとう作品。まずはアカデミー賞のブランドにつられて気楽に見る作品ではないといっておく。

とはいえ、観ながら心底から怒りや嫌悪感が込みあがってくるほど悲惨で悲劇的な内容には感じられないところはあったかもしれない。しかしそれは邦題の「それでも夜は明ける」を、なんとなく”救われるときはやって来る”みたいな希望めいた意味としてとらえていたからではなく、「夜が明ける」とは「明日が来る」ということで”生き続ける”ために努力し懸命に生きているソロモンに思えたからと思う。
それでもやっぱり白人の黒人に対する扱いは酷いの一言に尽きるもので、理不尽この上ないことには違いない。最終的には、確かにソロモンは無事に解放されて家に戻ることになるのだけれど、全体を見れば決してハッピーな気分では終われない。残された奴隷たちが解放されるまでにはまだまだ歳月がかかるのだから。

恥ずかしながら、相変わらずアメリカ史には疎い自分で、この時代でも”自由黒人”という立場の人たちがいたということも知らなかった。主人公のソロモンがそうした立場にあったことは(言葉は適切ではないかもしれないけれど)新鮮な感覚だった。
拉致され「自分は奴隷ではない。自由黒人だ」と訴えるソロモン自身の言動にも実は差別がしっかりある。自由黒人として暮らしていた時は奴隷の黒人に対して何もしていないだろうから。
首つり状態で放置されているソロモンを遠目に見ながらも誰も手を差し伸べようとしなかった出来事は、誰もが持っている「触らぬ神に祟りなし」を痛感させるシーンだった。
良心的な白人役でベネ様とブラッドが登場したけれど、それでもやはりまずは自身の保身を考えていることが語られていた。
これってイジメの話と同じで、表向き奴隷のようなあからさまな制度は時代と共に消えたかもしれないけれど、人間の中から”差別”や”偏見”が消えてなくなる日は永遠に来ないんだろうなと思う次第。

決して見て楽しい作品ではないけれど、それほどの長尺ではないし、この手の作品としては見やすいかもしれない。先が見えず疲れてきたころに登場するブラッドは美しい救世主に見えるしね。

好感度:★★★★

ラスト、赤ちゃんを抱えた男が奥さんの再婚相手だと思いこんでいた。だって理由も解らず失踪扱いだったわけでしょ?可能性あるよね?だから「ああ、折角戻ったのにまだこんな試練が・・・」と思ったら、あれれ?そういえば12年も経っていればそっちもありなのか~と、ようやく安堵した私だった。

| |

« 「終物語(中)」西尾維新/著 | トップページ | 「あなたを抱きしめる日まで」みた。 »

コメント

自由黒人が描かれた作品って『アミスタッド』くらいですもんね。

それにしてもこの映画の持つ静かなパワフルさ。
ここまで明日が来ることを力強く語った映画は久しぶりでしたよ。

投稿: にゃむばなな | 2014/03/09 00:00

大昔のドラマ、ルーツみたいな作品かと思ってたんです。
突然アフリカから拉致された、クンタ・キンテ(だったよね)みたいな・・・。
自由黒人を拉致して売買する、そういうことだったんですね。

わたしも怒りを感じると言うより、感じたのは重苦しさでした。北朝鮮の拉致問題とか、現代の誘拐とか、自分に直接関係ないからかもしれません。

ブラッドの立ち位置は、やっぱり釈然としないです。

投稿: mariyon | 2014/03/09 08:59

■にゃむばななさん、こんにちは
人種差別問題とか過去の黒歴史を知るのは大事なことだけれど、切なくなりますね。
こうした作品が残るのが嬉しくもあり。
缶詰を缶切りで開けたことのない今の子何処たち。そんな彼らにも語りつないでいかなくちゃないわけだし・・・

投稿: たいむ(管理人) | 2014/03/11 13:38

■mariyonさん、こんにちは
なかなか予告編も見る機会がなくって、私もどういう作品か良く分かっていなかったのだけど、ああ・・・という感じでした。

他人事。この一言で片づけられないのは理解できても行動に移すのは難しいものですね。
まぁそれをしてくれたブラッドの立ち位置は美味しすぎかしらね、やっぱ。

投稿: たいむ(管理人) | 2014/03/11 13:41

たいむさん☆
アカデミー賞作品のわりにレディースデイにあまり入ってなくてビックリしました。

自由黒人に関しては私も知らなくて、帰宅して調べちゃいました。紙切れひとつでこれだけ違う人生って、本当に恐ろしいことです。
現代でも自らの保身にばかり気を取られて、見て見ぬふりばかりですね。改めて考えさせられる映画でした。

投稿: ノルウェーまだ~む | 2014/03/13 16:33

こんばんは。

自由黒人って、一般市民という捉え方になるから、怒りや嫌悪感より、疑似体験させられるかのような感覚がありました。
同じテーマの映画はたくさんあるけど、新感覚な見方で、色んなことを考えさせられました。
キャスティングも成功してますよね~。
あのチョイ役たちが上手いのなんの!
確かに、ブラピは美味し過ぎたね~~(笑)

投稿: オリーブリー | 2014/03/14 00:55

■ノルウェーまだ~むさん、こんにちは
北部と南部にこんなに格差があったなんてね。
だからこその南北戦争なのでしょうが。

見てみぬふりしてしまう気持ちがわかってしまうから痛い。そんな映画でした

投稿: たいむ(管理人) | 2014/03/14 16:56

■オリーブリーさん、こんにちは
そうそう、まさに疑似体験に近い感覚でした。
その境遇になって初めて解る事、有難さ。
なんだか身につまされる感じ。

ブラッド以外は地味ながら良い役者さんが揃ってましたね。

投稿: たいむ(管理人) | 2014/03/14 16:59

こんばんは。
観ていて辛く悲しくなる作品でした。
事実に基づいた作品だけに、尚更強く感じましたね。

投稿: FREE TIME | 2014/03/17 00:32

■FREE TIMEさん、こんにちは
人間が誕生して以来、黒歴史は多々あるれ、これもまたその一つで、つくづく人間ってなんだろうって思ったりも。
思うところの多い作品でした。

投稿: たいむ(管理人) | 2014/03/19 17:19

遅ればせながら、本日鑑賞してきました。

一応ソロモンにとってはハッピーエンドだったかもしれませんが、
他の黒人奴隷たちにとっては、これからが真っ暗な闇に突入していくワケで…
そういったことを諸々考えると、複雑な気持ちになりますね。

投稿: BROOK | 2014/04/12 17:17

■BROOKさん、こんにちは
ほんとうに、後味はあまりよくないのだけれど、だからこその重みを感じるものでした。
EDはその後の活動が語られていて納得。やはりそうなりますよね。

投稿: たいむ(管理人) | 2014/04/16 17:46

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 「それでも夜は明ける」みた。:

» 『それでも夜は明ける』 [こねたみっくす]
これは黒人監督による黒人奴隷を描いた映画。それゆえに他の作品とは全く違う世界に到達した映画。 辛い、苦しい、怖い、逃げ出したい。でもこの人類の負の歴史を見なければなら ... [続きを読む]

受信: 2014/03/09 00:03

» それでも夜は明ける/12 YEARS A SLAVE [我想一個人映画美的女人blog]
ランキングクリックしてね larr;please click 12年、奴隷として。 史実に基づく実話を映画化。 本年度アカデミー賞作品賞で見事受賞 ちなみに アカデミー賞受賞作品 2013年度 「それでも夜は明ける」 2012年度 「アルゴ...... [続きを読む]

受信: 2014/03/09 00:46

» それでも夜は明ける [心のままに映画の風景]
1841年、奴隷制廃止以前のニューヨーク。 生まれながらの自由黒人である音楽家ソロモン・ノーサップ(キウェテル・イジョフォー)は、妻子とともに、白人を含む多くの友人に囲まれ幸せな日々を送っていた。 ある日、2週間の興行に参加したソロモンは、興行主に騙され拉致された末、ルイジアナの奴隷市場に送られてしまう。 自由黒人だと必死に訴えるが、南部の奴隷オーナー、フォード(ベネディクト・カ...... [続きを読む]

受信: 2014/03/09 01:32

» スティーヴ・マックィーン監督『それでも夜は明ける(12 Years a Slave)』 [映画雑記・COLOR of CINEMA]
『それでも夜は明ける(12 Years a Slave)』監督は『SHAME -シェイム-』のスティーヴ・マックィーン。主演のソロモン役をキウェテル・イジョフォーが演じる。共演にはマイケル・ファスベン [続きを読む]

受信: 2014/03/09 20:18

» 映画:それでも夜は明ける 12 Years a Slave 圧倒的! アカデミー賞「本命」と判断。 [日々 是 変化ナリ 〜 DAYS OF STRUGGLE 〜]
まずオープニングで驚く。 基本プロットは予想がつく通り、主人公はNYに住む、自由証明書で認められた自由黒人。 地位、名誉、家族とともに幸せな生活を送っていたが、ある白人の裏切りによって拉致され、南部に連れて行かれる。 そして奴隷にされてしまう、 のだ...... [続きを読む]

受信: 2014/03/13 01:53

» 『それでも夜は明ける』 [京の昼寝〜♪]
□作品オフィシャルサイト 「それでも夜は明ける」□監督 スティーヴ・マックィーン □脚本 ジョン・リドリー □キャスト キウェテル・イジョフォー、マイケル・ファスベンダー、ポール・ダノ、       ベネディクト・カンバーバッチ、ポール・ジアマッティ、ブ...... [続きを読む]

受信: 2014/03/13 08:34

» 「それでも夜は明ける」正義の危うさ [ノルウェー暮らし・イン・原宿]
アカデミー賞作品賞を見事勝ち取った作品は、映像も素晴らしい、役者の演技も本当に素晴らしい、テーマも見事だ。 場面展開もよく、134分の長さも感じさせないストーリーは、観る者の心をつかんで離さない。... [続きを読む]

受信: 2014/03/13 16:34

» 『それでも夜は明ける』 不自由の中にあるものは? [映画のブログ]
 仮面ライダーは何のために戦うのか? 平和のため? 正義のため?  そのいずれでもない。  『仮面ライダー』のオープニングで、ナレーションの中江真司氏はこう述べている。  「仮面ライダー本郷猛は改造人間である。彼を改造したショッカーは世界制覇を企む悪の秘密結社である。仮面ライダーは人間の自由のためにショッカーと戦うのだ!」  そう、仮面ライダーは自由のために戦っているのだ。  ...... [続きを読む]

受信: 2014/03/15 09:11

» それでも夜は明ける [ダイターンクラッシュ!!]
2014年3月11日(火) 13:20~ TOHOシネマズスカラ座 料金:1250円(チケットフナキで前売りを購入) パンフレット:700円(買っていない) 果てしなく続く絶望感。 『それでも夜は明ける』公式サイト 「キリング・フィールド」に激似。果てしなく続く絶望感。兎に角過酷な話だ。 これに比べると、「アミスタッド」なんて、大したこと無かった。 アカデミー賞を取っているが、目を覆わんばかりの内容が続くので、優しい人や弱い人には厳しい。 後の方に出てくるブラッド・ピットが、ナイスガイを演... [続きを読む]

受信: 2014/03/15 13:54

» それでも夜は明ける : これに投票した私は善良です的な [こんな映画観たよ!-あらすじと感想-]
 何だか、木曜日から急に仕事が忙しくなってきた。なかなか映画を観れないが、やっぱり仕事は忙しくないとね。では、水曜日に観た映画の記事をアップします。 【題名】 それ [続きを読む]

受信: 2014/03/15 21:18

» それでも夜は明ける [こんな映画見ました〜]
『それでも夜は明ける』---12 YEARS A SLAVE---2013年(アメリカ)監督:スティーヴ・マックィーン出演:キウェテル・イジョフォー、マイケル・ファスベンダー、ベネディクト・カンバーバッチ 、ポール・ダノ 、ポール・ジアマッティ、ルピタ・ニョンゴ 、サラ・...... [続きを読む]

受信: 2014/03/15 23:55

» それでも夜は明ける  監督/スティーヴ・マックィーン [西京極 紫の館]
【出演】  キウェテル・イジョフォー  マイケル・ファスベンダー  ベネディクト・カンバーバッチ  ルピタ・ニョンゴ 【ストーリー】 1841年、奴隷制廃止以前のニューヨーク、家族と一緒に幸せに暮らしていた黒人音楽家ソロモンは、ある日突然拉致され、奴隷として南...... [続きを読む]

受信: 2014/03/16 20:18

» 映画「それでも夜は明ける」 [FREE TIME]
映画「それでも夜は明ける」を鑑賞しました。 [続きを読む]

受信: 2014/03/17 00:14

» それでも夜は明ける  12 YEARS A SLAVE [映画の話でコーヒーブレイク]
先日発表されたアカデミー賞で作品賞を獲得 英国のスティーブ・マックィーン(往年の俳優さんと同姓同名です)監督は、アカデミー作品賞を獲得した 初の黒人監督になりました。 本作は、主人公ソロモン・ノーサップ氏ご本人の回顧録をもとにした真実の物語だそうです。 3月...... [続きを読む]

受信: 2014/03/17 23:55

» それでも夜は明ける [映画的・絵画的・音楽的]
 『それでも夜は明ける』をTOHOシネマズ渋谷で見ました。 (1)本作は、今度のアカデミー賞で作品賞を獲得したというので映画館に行きました(注1)。  映画の時点は1841年で、1863年の奴隷解放宣言よりも前のことです。  場所は、ニューヨーク州のサラトガ。  バイオ...... [続きを読む]

受信: 2014/03/21 21:52

» 「それでも夜は明ける」正義の危うさ [ノルウェー暮らし・イン・原宿]
アカデミー賞作品賞を見事勝ち取った作品は、映像も素晴らしい、役者の演技も本当に素晴らしい、テーマも見事だ。 場面展開もよく、134分の長さも感じさせないストーリーは、観る者の心をつかんで離さない。... [続きを読む]

受信: 2014/03/28 14:31

» 「それでも夜は明ける」本年度アカデミー作品賞作品の実力 [soramove]
「それでも夜は明ける」★★★★ ウェテル・イジョフォー、マイケル・ファスベンダー、 ベネディクト・カンバーバッチ、ポール・ダノ、 ポール・ジアマッティ、ルピタ・ニョンゴ、 ブラッド・ピット、アルフレ・ウッダード出演 アレクサンダー・ペイン監督、 134分 2014年3月7日公開 ギャガ (原題/原作:12 YEARS A SLAVE) 人気ブログランキングへ">>→  ★映画のブログ★どん... [続きを読む]

受信: 2014/03/29 18:15

» 劇場鑑賞「それでも夜は明ける」 [日々“是”精進!]
「それでも夜は明ける」を鑑賞してきました遅ればせながら、ようやく行きつけのシネコンで公開。南北戦争前の19世紀前半に実在した黒人男性ソロモン・ノーサップの自伝を映画化した... [続きを読む]

受信: 2014/04/12 19:46

» 劇場鑑賞「それでも夜は明ける」 [日々“是”精進! ver.F]
生き残る… 詳細レビューはφ(.. ) http://plaza.rakuten.co.jp/brook0316/diary/201404120001/ 【送料無料】「それでも夜は明ける」オリジナル・サウンドトラック [ (オリジナル・サウンドト...価格:2,592円(税込、送料込) [Blu-ray] SHAME -シェイム- スペシャル・プライス価格:...... [続きを読む]

受信: 2014/04/13 06:01

» 映画「それでも夜は明ける」 感想と採点 [ディレクターの目線blog@FC2]
映画 『それでも夜は明ける』 (公式)を3/7の劇場公開日からだいぶ経ちましたが、やっと先日、劇場鑑賞。採点は、 ★★★★ ☆ (5点満点で4点)。100点満点なら75点にします。 ざっくりストーリー 舞台は1841年、南北戦争によって奴隷制度が廃止される以前のニューヨーク。家族と共に幸せに暮らしていた黒人音楽家ソロモン(キウェテル・イ...... [続きを読む]

受信: 2014/04/13 20:28

» 映画『それでも夜は明ける』を観て〜アカデミー賞受賞作品 [kintyres Diary 新館]
14-25.それでも夜は明ける■原題:12 Years A Slave■製作年、国:2013年、アメリカ・イギリス■上映時間:134分■料金:0円(ポイント利用)■観賞日:3月15日、TOHOシネマズみゆき座(日比谷) □監督:スティーヴ・マックイーン□脚本:ジョン・リドリー◆キウェテ...... [続きを読む]

受信: 2014/04/21 16:22

» 「それでも夜は明ける」 [ここなつ映画レビュー]
「これがアカデミー賞作品賞だ!」と言われても、「そうですか」としか言いようがない…。いや、悪い作品ではない。丁寧に作り込まれている。騙されて、自由人から奴隷の身に落とされてしまった黒人の主人公ソロモン・ノーサップ(キウェテル・イジョフォー)の悲しみ、怖れ、足掻き、などが胸を打つ。だが、この違和感は何なのだろうか?騙されて奴隷、といっても…。それまで自由人であった事実が落差の激しさを表してはいるものの、アフリカの故郷から突然連れて来られた、という、多くの日本人の歴史認識としてあった奴隷とは異なる立ち位... [続きを読む]

受信: 2014/04/22 14:37

» それでも夜は明ける [C’est joli〜ここちいい毎日を♪〜]
それでも夜は明ける 13:米・イギリス ◆原題:12 YEARS A SLAVE ◆監督:スティーブ・マックイーン「HUNGER ハンガー」「SHAME シェイム」 ◆主演:キウェテル・イジョフォー、マイケル・ファスベンダー、ベネディクト・カンバーバッチ、ポール・ダノ、ポール・ジアマ...... [続きを読む]

受信: 2014/05/31 22:27

« 「終物語(中)」西尾維新/著 | トップページ | 「あなたを抱きしめる日まで」みた。 »