『ビブリア古書堂の事件手帖⑤』 三上 延(著)
この小説は、本に絡んだ依頼を受けた栞子による本自体にまつわるお話と、関わる人々における隠れたドラマと真実を紐解くことで問題を解決するかたちで一つ一つ進行していくものと、やや水面下ながら栞子自身が抱えている問題という本線が同時進行されている。
今回もそれは変わらないのだけれど、今回は本線のストーリーが佳境に差し掛かったことから少し趣が違っていて、個別のエピソードをしっかり楽しむというよりは、漸く一大転機を迎えようとしているかの栞子と大輔の関係が気になって気になって、水面下の栞子の動向のほうに注目してしまうような読み方になってしまった。とにかくあのプロローグは反則的!
なんというか、個別の話は栞子によって大輔に課された待ち時間で、読者にとっては時間潰しのためのもどかしいエピソードみたいになってしまったような。もちろんそれぞれ興味深いし、面白いし、まったく無関係でもないのだけれど。
まぁ、そんな待たされ時間の流れの中では、読者にだけは栞子の本心とか、大輔を待たせてまで何をしようとしているのかは少しずつ明かされていくのでイライラすることはないし、安心して「時が来る」のを待つことはできるのだけれど、栞子は時々何をしでかすか分からないところもあるから最後まで油断ならないという気持ちもあるわけで。
それでも、随分と変わってきた、というか、心を開いてきたってことなのかな?心底鈍かったわけではなかったのがちょっと嬉しくもあり、どのみち変人の部類ではあるけれど前ほど嫌いじゃなくなった気がした。ひとえに大輔の献身的な愛のおかげか?
なんであれ、いろいろな楽しみ方ができる5巻で、構成といい、内容といい、これまでで一番好きかもしれない。
『ブラック・ジャック』は年代的に漫画もアニメも良く知っている。手塚作品もそれなりに読んでいるしね。手塚治虫は作中にも出てきたとおり、神様と呼ばれる一方でかなりの曲者であり、作品に手を加え続ける話も、不遇の時代があった話も知っていた。そこを家族の感動秘話に結びつけ、あの時代に「○○屋」だなんてカナリ強引な種明かしだったとは思うけれど、知っている話だとやはり理解度が全然違うにように思った。
いよいよ物語は終盤ということで(といっても6巻以降も取材中とのことだから次では終わらないようだが)、やはり個別の小さな事件を扱いながら、最初の人物と最終対決そして母親との決着?で大団円ってことになるのかな、と。
何はともあれ、「ヤラレタ!」が一番の感想。
いいところでブチ切られたプロローグから時間の遡り。そして矛盾しているエピローグとプロローグの仕掛けが腑に落ちた瞬間の心地良さ。
とにかく先が気になるのだけれど、これはこの流れで読むことに最大の意義があって意味を持つんだよね。飛ばし読みは厳禁!本当に早まらないで良かった。
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コメント
たいむさん、こんにちは。
「ひとえに大輔の献身的な愛のおかげか?」にうっかり笑ってしまいましたww
たしかに変人で自分勝手な印象が強かった栞子が随分まともになってきた感じがします。
まぁ彼女の場合は自分が自分勝手であることをある程度理解しているようなのでそのあたりが多少の救いでもあるかもしれませんね。
あのラストからするとあの人が返ってくる展開は見えているのですが、ラスボスがどう出るかですね。
あの人を捨て駒にして栞子の暗黒面をさらけ出した上で「こんな子でも一緒についてこれるの?五浦くん?」と投げかけるのかなと邪推してみたりww
プロローグからエピローグへのつなぎは、やはり途中の話があってこその返事であり、それがないとその言葉の重みが消えてしまうような気がします。
それこそTV版で美味しいとこ取りしようとした結果がなんとも薄っぺらいものになってしまったように。。。次回もいい意味で予想を裏切ってもらいたいと期待。
投稿: GAKU | 2014/02/15 08:12
■GAKUさん、こんにちは
1巻での栞子は「ちょっと友達にはなれないな」であり、大輔が辞めてしまうのも当然って感じでしたからね。
けれど、だいぶマシにになってきたのは大輔が撃たれ強くも寄り添い続けたからで、自分を顧みて他者の気持ちを慮ることが出来るようになったのは、やっぱり大輔のおかげかなぁって。
今回の”大輔”の嬉しくなるような答えもあって、なんとなくラスト(の方向性)はわかる感じですが、思いもよらないワクワクな展開だったら嬉しいですね。
TVドラマは結局最初の5分も見なかったです。
あったことすらすっかり忘れていました(笑)
投稿: たいむ(管理人) | 2014/02/15 08:36