「丕緒の鳥 十二国記」読んだ。
待望のシリーズオリジナル短編集が発売された。一応12年ぶりということになるらしいが、2008年と2009年に「yomyom」に掲載された2編を含んでいるので、厳密に言えば新作書き下ろしとしては4年ぶり。
けれどこの日をどれだけ楽しみにしていたか。昨年4月、もはや半分諦めていた長編新作や書下ろし短編を含む《完全版》刊行のアナウンスがあって以来、改めて既刊分を読み直しながら待っていた1年だった。
収録作品は、「丕緒の鳥」「落照の獄」「青条の蘭」「風信」。どの作品も王や麒麟、家族や友人、側近らが主人公になっているものはなく、一介の官や民にスポットが当てられており、彼らの視点から国や王が見つめられ、彼らも彼らで自分の人生を懸命に生きている、という話。
どれも読みごたえがあって、とても良かった。
「良かった」だなんてものすごく簡単だけど、私はこのシリーズの内容についての感想を文章に書き現すことが出来ない。あまりにも情報量が膨大で、感じることや考えてしまうことがあまりにも多いから。このシリーズはそれだけ我が身と現実を振り返らせてしまう力があると私は思っている。
なので表面的ななってしまうが、このシリーズは、それぞれ立場も環境も置かれた状況も異なるけれど、「絶望」から抜け出して「希望」にかえる力を持っているのは人間だけで、わずかでも希望の光を見出し、掴むことが出来るか出来ないかは、まずはその人次第だということをいつも言っている。また人がひとりで生きられないのは、もとより人はひとりでなんか生きていないということを忘れがちだということも思い出させてくれる。そしてそれは現実の世の中と変わらない。
物語だからそれを主人公に気が付かせるために、不合理な現状の有り様が示され、不条理の中に当たり前に暮らす人々と成す術もなく理不尽にも蹂躙されるがままで終わってしまう大勢の人々がいて、主人公自身も最初はその他大勢と変わりなく、間違えたり何度も踏みにじられたりするのだけど、それをちゃんと踏み台にして乗り越える主人公となり、だから読者もそうしたその他大勢の側から主人公側へと、そうありたいと感情移入していくのだと思う。まぁ自分自身としては気持ちの持ちようだったり考え方次第だというのは解っていてもなかなか実行の移すのは難しいし、頑張ってみてもそうそう上手くはいかないわけで、だからこそ主人公に託すみたいなところはあるけれど。
巨大な現実問題に直面した時、良い意味でまず自分ありき。そんな人間の強い想いは人に届き、人を動かす。そして理想に近い形が自然発生的に実現する。
「青条の蘭」はまさにそんな感じだった。ギリギリの状況の中でボロボロになりながらも前に進もうとし続ける男のひたむきな姿と熱き想いが人を動かし、人から人へと繋がっていく様子に涙が溢れた。
展開としては、シリーズファンならば尚隆が新王として雁国に起った頃の話ということで、この時点できっと帷湍にまで繋がると、そこから必ず王へ届くことを確信してしまうと思うのだけど、長い苦難の道から思わぬ形で(しかも主人公より早く)解放されていく何とも言えない心地良さを味わえるし、さらに判り切った結末も、冒頭に戻りそこからもっとも分かりやすく美しいカタチで報告するように、ダメ押し的に用意されている。本当に満足で幸せな読了感。
「風信」も、短命の王が続いた中で苦しんでいる慶の民に、「もう少しで陽子が正真正銘の王になるからっ!」という気持ちで読み続け、ようやく現れたはじめた明るい兆しがあのような形で示されたことが嬉しくてたまらなくなるようなものだった。
本当は早く続きが読みたい!と誰もが思っているだろうし、戴国はどうなってしまうのか、それを各国はどのように見つめているのかを知りたくて仕方がないのだけど、今回スピンオフの短編でも新しいお話を読むことが出来て嬉しく思っている。「丕緒の鳥」や「落照の獄」も久しぶりに読めて良かったし。
《完全版》の順次刊行から既刊分も買い直して読み返しているが、やはり何度読んでも面白いし、その時々でうっかり忘れてしまっていたことを思い出させてもらったり、改めて再確認しているこの頃でもある。
次は9月に「図南の翼」。「図南・・」は陽子が絡まない話だから、連鎖的に読み直すことが少ないのだけど、久しぶりにじっくり読み直す良い機会になりそうだ。
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コメント
たいむさん、こんにちは。
すっかり昨日まで発売されるの忘れてました。(苦笑)
会社の同僚に教えてもらって、早速、購入しました。
読むのは、やっと今夜ぐらいからかな?
あんまりにも久々で、載国の内容も忘れてたりして・・・。
今回は短編集なので、思い出すのに都合よいかも!?と思ってたりします。
民あっての国ならば、こちら側の観点があってもよいですね。
王と麒麟が主役の「十二国記」では外伝になるのでしょうが・・・。
TBおよびブログへの書き込みは読破後にでも・・・いつになる?(笑)
その時、また改めて!
たいむさんが一足先に行動してくれるので大助かりです。
投稿: Brian | 2013/07/02 12:29
■Brianさん、こんにちは
おおよそ本編には影すら登場することのないいち国民のお話です。そして本編のおさらいになるような短編集でもないけれど、要所要所にメインキャラや歴史の流れを感じさせてくれるところが絶妙だと思います。
雑誌のように次々更新されるものでもないし、ゆっくりご堪能ください。
投稿: たいむ(管理人) | 2013/07/03 09:34