『海街diary』シリーズ(吉田秋生/作)を読んだ。
《マンガ大賞 2013》受賞の吉田秋生/作『海街diary』シリーズを読んだ。久しぶりに書店で目を留めての衝動買い。
中学生のころに月刊『LaLal』に掲載された『櫻の園』を読んで衝撃を受けて以来、気になる漫画家さんのひとりになったが、いかんせん男っぽい絵が好みじゃなかったので他の作品はほとんど読んでいない。でも大人になってからふと思い出して文庫版を購入した『櫻の園』を読み返してみれば「やっぱり良いなぁ」と思うわけで、この度の大賞受賞を機にシリーズを読んでみることにした。
久々に触れた吉田作品は、まず絵がだいぶ変わった(可愛くなった)印象を受けたが、何より、厳しくも優しくも人間の物語が絶妙に描かれていて、家族や恋人・仲間たちとの交流をとおして最後はいつもぽかぽか温かな気持ちにさせてくれる内容がとても良く、大賞受賞も納得の素敵な作品だと思った。
このシリーズ好きだな。
『海街diary』シリーズは現在既刊5巻になっているが、シリーズが作品名(タイトル)になっているのではなく、文芸作品のように短編のタイトルをそのままタイトルにして単行本化した、たぶんコミックスでは珍しいスタイルになっている。実際、時系列的に連続してはいるものの、視点が異なって描かれていることも多く、”短篇集”と言って良いこのシリーズだから、こんなカタチになったように思う。
でも、それに対して意見ははないが、私はこのシリーズがまったく初めてだったので、まず既刊順がサッパリわからなくて、山積みされた平台の前でアレ取ってコレ取ってを繰り返す羽目になったことは言っておきたいかも。(書店もPOPか何かで判り易く工夫してくれればいいのにね)。
既刊5巻は以下のとおり。
①『蝉時雨のやむ頃』
収録:「蝉時雨のやむ頃」「佐助の狐」「二階堂の鬼」
②『真昼の月』
収録:「花底蛇」「二人静」「桜の花の満開の下」「真昼の月」
③『陽のあたる坂道』
収録:「思い出蛍」「誰かと見上げる花火」「陽のあたる坂道」「止まった時計」
④『帰れないふたり』
収録:「帰れない ふたり」「ヒマラヤの鶴」「聖夜に雪降る」「おいしい ごはん」
⑤『群青』
収録:「彼岸会の客」「秘密」「群青」「好きだから」
物語は、まず鎌倉に暮らすの複雑な事情を持つ異母4姉妹を中心に(主に唯一腹違いで中学生の末っ子を中心に描かれていることが多くなっているが)家族間のエピソードがあり、そこから4姉妹それぞれの恋愛模様や仕事関係などにも話が派生していくことになる。といってもどんどん世界が広がっているにもかかわらず、実は互いは認識の無いところで同じ人物がニアミスしているという世間の狭さにニヤリとさせられちゃうところが満載だったりして、入り組んでいる割には一目瞭然な相関関係が良く出来ていて(『櫻の園』もそうだったが)、本線のほかに、点が線に繋がる爽快感も楽しめるストーリーになっている。
時に表裏のようにして、別視点から同じ日の出来事が描かれ、2つのエピソードが瞬間的にクロスしたりすることがあるのも良いんだなぁ。それぞれの事情が判るし、機微がハッキリと感じられるから、全体的に理解度がぐんと深まるんだよね。
離婚や死別再婚を繰り返す親だったり、身近に起こる病気など生死に関わる話だったり、財産や遺産の相続問題だったり、実は内容は結構ヘビーな感じのものが多いのだけど、キャラクター達の明るさであり、もやもやを残さない竹を割ったようなスパッとした描かれ方によって、必要以上に泣かされたり、重みを感じたりすることもなく、後味もすっきり、温かくも爽やかな読後感を得られる作品と思う。
名台詞もいっぱい。現実的に言ってやりたくてもなかなか口に出して言えないようなことをズバリ言ってくれる登場人物たちが爽快だし、忘れていた想いとか感覚とか、当たり前だった事を思い出させてくれるようなアレコレがいっぱい。(”真昼の月”なんかそうだったなぁ)。
強いて言うならば、あくまでも読んだ感覚としてだけど『3月のライオン』(羽海野 チカ)に近いかなと。内容はちっとも優しくないのに、優しくて温かい物語。『3月のライオン』の1巻には”様々な人間が、何かを取り戻していく優しい物語”と書かれているけれど、この『海街diary』もそんな物語だと思う。
話によると、舞台を同じにした関連する作品(『ラヴァーズ・キス』)があるとか。こちらも早く読まなくっちゃだ。
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