「憑物語」西尾維新/著
シリーズファイナルシーズンとなる第1作目は『憑物語』【よつぎドール】。でもさすがに語り部は余接ちゃんにはならず、この話の実質的な中心人物である阿良々木暦の語りで話が進むことになる。
今回は特に意外性もなく、といった印象。強いて言うならば、異変に気が付いた時点から話はトントンと進み、あとは周囲によって勝手に始まり勝手に終わってしまったような、暦が何もしなかったというところが意外と言えば意外なところかもしれない。まぁ何もしなかったのには理由があり、それがこの物語なわけで、謂わば「憑」は続く『終物語(おうぎダーク)』、『続終物語(こよみブック)』における”序章”という位置づけとして妥当なところと思う。
ということで、話は至って簡単。暦自身に異変が起こり始め、影縫余弦・斧乃木余接がその相談相手となり、更に暦を狙う第3者の登場に余接がその力をもって対処する、というだけの話。(以下ネタバレ含む)
多少あらすじを肉付けするならば・・・
蛇神となった千石撫子の件も何とか落着し、大学受験を目前に控えた2月のある日、暦は自分の姿が鏡に映っていないこと、そして忍に吸血させた後でもないのに異様に回復力が向上していることに気が付く。つまり日常においても”吸血鬼”化してしまっていることが考えられた。しかし、真っ先に相談したい相手である忍野の所在不明のまま、そこで忍と話合った結果、忍野の旧友であり、不死身の怪異の専門家であり、かつての宿敵でもある影縫余弦&斧乃木余接にコンタクトをとることにした。・・というか、こちらから取るまでもなく、”何でも知っている”臥煙伊豆湖の先んじた取り計らいから、即刻暦は”吸血鬼度診断”を受けることになる。
結果は限りなく黒に近いグレー。暦は、影縫余弦に「もはや人間には戻れない」と宣告を受ける。ただし影縫余弦は、暦が完全には吸血鬼化しておらず、人間性を残すギリギリのところに踏みとどまっている状態であるとも告げ、これ以上進行させないために忍の存在維持に必要な最低限の吸血行為以外を一切禁じ、”吸血鬼の能力行使”を未来永劫封印することを暦に誓わせる。
原因は、簡単に言うなら”吸血鬼”のなり過ぎ。人間なのに度々”吸血鬼”化していたことで身体に耐性が付くようにして独自進化しちゃったということらしい。とにかく安易に”人ならざるモノ”の力を頼り、慣れてしまった結果を、その身で思い知ることになったわけだ。
とりあえず、「人間で在ること」を望む暦。けれどこれまで散々”阿良々木暦の正義”のため”吸血鬼”の力を当たり前のように使っていた暦だから、”力”の封印は想像以上に過酷な試練になると思われる。(現状、暦自身心底封印を誓ったワケではなく、自分自身が一番信用できないと自覚しているしね)。
ところが、そんな時に暦の命を狙う”不死身の怪異殺し”の手折正弦が現れる。そして暦の妹達と神原駿河を拉致した正弦は北白蛇神社に暦を呼び出す。でも、こちらもいち早く事態を察知した臥煙伊豆湖の命を受けた影縫余弦&斧乃木余接が暦の助っ人として参戦、暦は力を使うこともなく事なきを得る。
だがその際、余接の行動から暦は1つの教訓を得る。「怪異はあくまでも怪異である」、と。
それは暦がすっかり麻痺させていた感覚を呼び戻し、誓いを守り続ける上でもその目に焼き付ける必要があった光景かもしれない。けれど、あまりにも衝撃的で、理解はできるが混乱は避けられない事でもあった。
いつもならば、後日談や顛末を語ってひとつの区切りがつくところだが、ファイナルシーズンはどうやら3部作と思って良さそうで、そのまま”つづく”の様相。黒幕の思惑がハッキリと見え隠れし出しただけにどんより終わるかと思いきや、なかなか粋な計らいのオチだったんじゃないかなと。
ただ前半は相変わらずどうでもよいことでページを使っており、「目覚まし時計」も「ロン毛」も「お風呂」も正直言って苦痛でしかなかったし、話が動き出してからも想像の範疇にある事の出し惜しみ(百歩譲って「暦の葛藤による逃げ」と取れなくはないが)に疲れるばかりだったが、一瞬でキメてくれた最後は爽快だったし、オチによって後味だけは良くなったと思う。
2nd.シーズンはヒロイン達の怪異からの完全なる分離・解脱が描かれてきた。よって最後まで残されていた暦もまたその方向へ進むものと思っていたが、”人間”ではなくなっていると断言された今回だけに、もはや忍をどうこうすることで決着を付けられるものではなくなってしまったし、はてさて、いかなる結末を迎えることになるのか、残り2作でたっぷり終焉の物語を堪能させて欲しいと思う。(余計な部分を取り除けば、『傷物語』のように1冊に全部収まるんじゃないかって本当は思うし、そうして欲しかったけどね)。
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コメント
お久しぶりです^^
私は西尾信者ですが確かに余分が近頃多い気がするんですよね。。前々から取っていたネタを間に放り込むことはあったけど、近頃はページ稼ぎのために思いついたら放り込んでる節があるから信者じゃない人はかなり苦痛だとは思います^^;
今回はたいむさんの言われてる通り粛々と進んでいく感じだし終了への序章かなと感じましたね。だからこそ私もたいむさんと同様に3冊で1冊で収められそうな内容じゃないのかなっていう気はものすごくしますw作家の意思なのか出版社の意志なのかわかりませんが物語的にも経済的にもそろそろどうにかして欲しいですよね(´;ω;`)
臥煙とか忍野の苗字の伏線とか回収しきれるのかなぁとファンとしては不安でならないし^^;
次回もレビュー楽しみにしてます♪
PS マルドゥックスクランブルの前売り買ってるのに他県でしかないからまだ見に行けてないので羨ましいです^^;円盤待機になりそう(^^ゞ
投稿: 瞬光 | 2012/11/09 17:00
■瞬光さん、こんにちは
お久しぶりです(^^)
発売日に購入していたのだけど、いろいろ後回しになってしまい今頃になってしまいました。
今回は、待たされた割には内容のないもので、どんどん質が落ちてるのが残念です。
あとがきでは「こんなことになるとは・・・」とか言われてますし、力の入れ具合が違うのかもしれませんが、それすら言い訳に聞こえてしまうほどのやっつけ感なんですよね~(^^;
2nd.シーズンで時系列を弄ったのはともかく、その為に埋まらないピースがいつまでも残り続けているのも気がかりです。
2-3月の話がファイナルシーズンだとしたら、学習塾の喪失の理由はいつ明かされるのだろう?となると、「つづく」と見せかけて次はそうでもないのかもしれません。
全作アニメ化決定(予定?)によって、原作の完結までの期間がどんどん引き延ばされる可能性も高くなりましたし、いずれにせよ、こちらは待つしかないのですよね。
ならば時間を掛けてじっくりと作り込んで欲しいと思いますよ。
>マルドゥックスクランブル
前売券はあるのに公開が無いのは切ないですね。
なかなか良い完結編でしたし、見せ場のアクションは大スクリーンがオススメ。
遅れても地元公開されると良いですね。
投稿: たいむ(管理人) | 2012/11/10 00:20