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2012/10/27

「終の信託」みた。

Tuinosinntaku果たして「安楽死は殺人か?」という、事実が必ずしも真実ではない場合での、非常に難しい問題を扱った作品で、実際の事件を元に現役法律家が書き起こした小説が原作とのこと。
女医が安楽死を望む患者の希望に応えるに至った経緯から、刑事事件に発展した際の検事とのやり取りが実にリアルに描かれており、冤罪事件とその裁判を扱った『それでもボクはやってない』(2007)の時に持った憤りとかもどかしさを再び味うことになった、そんな映画だった。

回復の見込みが薄い喘息で入退院を繰り返していた江木の安楽死から3年後、家族に告訴された担当医の折井が検事から呼び出されたところから話は始まる。
”安楽死と美人女医”の組み合わせはマスコミの御馳走。世間の注目度も高く、担当のエリート検事は、如何に自分のシナリオどおりに事を進めるかばかりを考えるような、非常に喰えないヤツだった。そこで折井は、検事の意図的な戦略から2時間以上何の音沙汰もないまま放置されることになるのだが、その間、折井の回想としてこれまでの経緯が語られていく。
傷心の折井をあたたかな思いやりで癒す江木。江木の苦痛と苦悩を共有し、安楽死の申し出を承諾する折井。そして、いよいよその時が訪れる。

2時間遅れで始まった検事との対面は、”事実確認”と言いながら検事にだけ都合の良い事実だけが切り取られ、そのまま調書が作成される。”条件付き事実”での”条件”を一切省略した断片のみで綴られた調書はそれだけでは誰がみても「”殺人”しました」と証言しているようなものだ。確か事実は事実だから間違いとして否定はできない。”死なせた”ことを「楽にしただけ」というのは詭弁かもしれない。けれどそれは江木と折井の真実ではない。
折井の回想と検事の言う事実が比較できる分、余談を一切許さない検事の姿勢と一方的な誘導、矛盾を矛盾とさせない話術に、観ている者の心はどんどんザラついてくる。回想は折井視点のため、それも真実とは限らないと前提しなければならないが、さすがにこの場合は折井に感情移入してしまっているから尚更だ。
けれど、海千山千の検事は手強く、言質を取る為にあの手この手で攻めまくる。想いどころかコトバすら通じない絶望感。必然的に殺人犯に仕立てられていく手順。これが現実だとしたら悲しすぎる。

でも、実は私が一番釈然としなかったのは江木だ。亡くなった人をどうこういっても仕方が無いのだけど、彼は自分が楽になる事ばかりを求め、投げた石の波紋がどこまで広がるのかまったく考えていなかった。たった2行、日記に書き残したのみ。書くなら書くで何故もっと明確な意思表示をすべきだと考えなかったのだろうか。奥さんを「弱い女」と勝手に見くびっているのもどうだろう?そんな曖昧さが事を大きくしたようにも思う。

周防監督作品での16年ぶりという草刈民代&役所広司の共演は話題性があったけれど、役所さんが江木役なのがちょっと残念に思ってしまった。(死に際の迫真の演技は見事だったけれど)。

結局のところ、現在の法律と裁判所の判断では「尊厳死の定義」が非常に形式的であり、その枠にあてはまらないものはどうにもならないようだ。法治国家である限り、同じ結果なのに個人の真実で180度処罰が異なるようでは全てが成り立たなくなってしまうから、仕方が無いのかもしれないが・・・。

権利ではなく義務のように生かされている人の尊厳を守るとは何か?自分自身の尊厳死を求めて裁判で争い、認められなかったことで家族の手を借りて自殺させてもらうという『海を飛ぶ夢』という外国作品を思い出した。

原作がしっかりしている上に、周防監督の演出の巧さが掛けあわされてとても重厚な作品。回想部分の長さに前半はたるさもあるが、後半は目が離せなくなること請け合い。社会派作品を好む方にはオススメ。

総評:★★★★

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コメント

「尊厳死」という言葉が、身近になってきたような気もする自分です。(汗) でも、「尊厳」ってなんだろう。逃げることじゃないと思うんだけど。今夜、これから観てくる予定です。(大丈夫かな?)

投稿: あかん隊 | 2012/10/27 19:54

■あかん隊さん、こんにちはsun
身近でもないのだけれど、「尊厳」ってなんだろうって私も思います。
常に思っていることでもないけれど、こうした機会があるならば、触れて少しでも考えたいかなと思うことです。

先日は情報をありがとうございました。
パチンコのだけどHPではオリジナルグッズげっとのためにタイピングゲームをしまくってます。
抽選なので確率はともかく、運に掛けます(笑)

投稿: たいむ(管理人) | 2012/10/28 07:59

この映画を見ていて気になったのは、なぜに折井女医は承諾書などの本人の意思を明確にした証拠を作らなかったのだろうということ。
医療のプロならそれはするべきだと思うのですが、でも1997年当時ではそこまで理解がなかったと捉えるべきなのでしょうか。

投稿: にゃむばなな | 2012/10/28 17:32

■にゃむばななさん、こんにちはsun
尊厳死をどう考えるかとか言う以前に、このケースはどうしても不手際が気になっちゃいますよね。
ただ、「リビングウィル」だの「セカンドオピニオン」だの「インフォームド・コンセント」だの、一般にも浸透したのはこうした事件の後であり、つい最近のような気もしますしね。
それにしても、なんですよねぇ(^^;

投稿: たいむ(管理人) | 2012/10/28 22:17

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