「夢売るふたり」みた。
西川作品ではいつものことだが、この生々しさは怖すぎる。
ありそうでなさそうな、なさそうでありそうな夫婦の物語。決して綺麗ごとを許さないリアル感に背筋を凍らせ、誰しも心の奥深くに持っているだろう狂気の発露に肌を粟立出せる。そして何かを思う、そんな映画だった。
何とか切り盛りしてそこそこ繁盛していた夫婦の生き甲斐ともいえる店を火事で焼失し、失意の中、ある出来事を切っ掛けにして店の再建のために結婚詐欺を始める夫婦。
不器用な夫の生真面目過ぎる性格と嘘偽りの無い言動を逆手に取った詐欺の手法、ターゲットやシナリオは頭のキレる妻が決め、指示を出す。
基本的に、夫は妻が居ることや店を焼失したこと、生い立ちなどもすべて事実を話して女の警戒心を溶き、本音を語ることと前向きに生きようと頑張っている姿で同情心を煽り、女心を鷲掴みしてしまう。そして肉体関係まで発展したところで、結婚をチラつかせながらお金の工面を切り出し、受け取れないと言いながらわざわざ「借用書」まで作って安心を上乗せし、まんまと現金を頂いたらバイバイ。
狙いは、人生に満たされていない、不安と焦りと寂しさで心に隙間を持つ女性。結婚できない30代独身OL、コンプレックスだらけの孤独なウエイトリフティング選手、男に貢ぐばかりの風俗嬢、幼い息子を抱えた未亡人などなど。
妻曰く、「意図的に心の隙間を埋めてあげることイコール夢を見させてあげること。これは一種の対価よ。」とそんな感じ。なんとも勝手な言い分だと思うのだが、なんとなく騙される女性側の複雑な胸中が解る気がしてしまうのは、やはり女だからなのか。
しかし、仕掛け人の妻にも誤算はあった。素で女を虜にしまう夫の隠れた才能と紙一重で夫が本気になってしまう可能性。それでも妻は葛藤や嫉妬を抱えながら夫を送り出し続け、夫はそんな妻の性根を恐ろしく思いながら妻のもとに帰り続ける毎日。
そして、とうとう微妙なバランスで保たれていた夫婦に崩壊の危機が訪れる。
帰らない夫と詐欺の発覚。
そんなになってまで詐欺を続け、夫婦でいるのは何故か。もはや目的も、お互いのことも分からなくなっていたのではないかと思えるのに一緒にいることの不可解さ。
夫婦の絆とはそれぞれで、独自の価値観による他人には摩訶不思議なものとしか言いようがなく、これがこの夫婦のカタチなのだと、良し悪しではなくただ受け止めるのが正しいのかなと思うところだが・・・。。
まぁとにかく、キャスティングが見事。それに応える俳優陣の熱演も見事。
魔性の女をやらせたらピカイチじゃないかと思う最近の松さん。決して2枚目じゃないのになぜかモテるうだつの上がらない男をやらせたら阿部さんもピカイチ。粘着質でプライドの高い独身女がすっかり板に付きそうな麗奈ちゃんもハマッテいたし、木村さんは幸薄い子持ちの未亡人が良く似合う。風俗嬢は儚げながら芯の強さは花魁のようでカッコよくすら見えたし、“巨漢のひとみちゃん”には泣かされた。
見終えて何とも言えない疲労と余韻が残る作品かな。
好感度:★★★★
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コメント
リアリティがあって疲れました!w
でも見応えはたっぷり。
ひとみちゃんのその後に安堵。
投稿: AKIRA | 2012/09/13 18:21
■AKIRAさん、こんにちは
「怪物じゃないっ!」に涙があふれましたが、ひとみちゃん、良い指導者になりそうですよね。
投稿: たいむ(管理人) | 2012/09/15 14:39
>“巨漢のひとみちゃん”
いや~~彼女には純情見せられた!
昔、友人の知り合いのまた知り合いみたいな、私からは遠い話なんだけど、結婚詐欺にあった人がいて、その人が言うには、「これまで味わったことのない幸せな日々だったから、それが残るだけでいい」と言ったらしい。
それ聞いた時、何だかホロっとしてしまったのを思い出しましたよ。
投稿: オリーブリー | 2012/09/29 18:31
■オリーブリーさん、こんにちは
>これまで味わったことのない幸せな日々
騙されて料亭に勢ぞろいした女性たちがみんなそんな感じでしたねー、そう言えば(^^;
ひとみちゃんタイプって結構いそうだし・・とか、あんまり深く考えたくないのに、つい考えてしまうような映画でした。
でも、やっぱ子供を巻き込んじゃうのは脚本だとしても嫌な気分でした。そうでなくたって刑務所送りは出来そうだし、あえて悲惨さを強調するよりも現実的な方向で書いて欲しかったです。
投稿: たいむ(管理人) | 2012/09/29 21:31