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2012/08/29

『追想五断章』 米澤穂信/著

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ほろ苦青春(ミステリ)小説の《古典部シリーズ》にすっかりはまったので、著者の別の作品も読んでみようと思ったのだが、あえて雰囲気が近しい《小市民シリーズ》は避けて、本格ミステリ路線のこの『追想五断章』にした。なぜならば《古典部シリーズ》の内容は身近な素材を扱ったものだけれど、その根底にはありありと著者のこだわりが読者に向けて感じられたので、その辺りを“本格“と言われる作品でもう一度確かめてみたいと思った。
以下は、あくまでも私の嗜好にもとづいた感想であることを前提に進んで欲しい。

ザックリとしたあらすじは ―――
伯父の経営する古本屋に居候している苦学生:菅生芳光は、店を訪れた若い女性から昔に父親が書いた短編小説5篇がそれぞれ掲載されている本を探して欲しいと依頼され、芳光は高額な報酬目当てで伯父に内緒で依頼を請ける。そして僅かな手がかりをあたって1篇ずつ小説の掲載物を見つけて行く芳光だが、調査にあたり依頼主の父親が22年前の未解決事件の被疑者だったことを知り、更に5篇の小説と事件とが密接に関係していると気がつき、やがて父親の真実に辿り着いてしまう―― といったもの。

この小説は、父親が遺した5篇の小説に込められていた意味と、現実における父親を取り巻いていた環境と心理の両方を読み解くことで、真相に行きつくという仕組みになっている。ポイントとしては、5篇の小説はすべてが結末の無い“リドルストーリー”として発表されているが、それぞれの小説には結末に当たる「最後の一行」が存在しているというところ。実は、その「最後の一行」にこそミスリードにも匹敵する重要な意味が隠されていた、というのが見どころならぬ読みどころとなる。

でも、正直言って、それ以外はいまひとつな印象。まずひとつずつ明かされていく短編小説が楽しくない。最初は結末のない話として読まされるのだが、どれもが生か死かに関わる、どちらに転ぶかギリギリの瞬間で終わる陰湿なものばかり。状況的に面白おかしい小説が出てくるとは思わないし、「最後の一行」から作者の結論(結末)を知ることができるのは良いのだけれど、いずれにせよ奇妙な余韻のものばかりで、とにかく父親の意図が隠された小説と思えばこそ読めるといったものだ。作中でも短篇は”悪趣味”と評されており、そこに意味があると暗示されているのは分かるが、どれもこれもではだんだん滅入ってくるというもの。
またこの小説に登場する人物は誰もが薄っぺらくてつまらない。まず主人公は“小説を探せる人間”として都合よく作られた、「時間があって金がない」ただそれだけの人物でしかない。伯父やバイトの女の子も“小説探し”の環境づくりに必要な設定でしかなく、助言どころか相談相手にすらならず、邪魔な時や用事が無い時は留守にさせるか、必要がなくなれば辞めさせてしまえばOKという軽いあしらい。“小説探し”の中で主人公自身や関わる人間との間に一切のドラマがないのでは、深みも面白味もあるわけがない。

結局のところ、いやでも4篇までは読まなければ結論に至れない構造から促されるまま読み進めるしかなく、また素材が出揃ったとしても、全ての鍵と鍵穴があわなければ真相は解明されないよう父親が細工した“仕掛け”こそが見せ場だと判ってしまうと、なんだか著者の計算された技巧を披露するためだけの小説ではないかと、私には感じられてしまった。確かに、トリックの設計は見事だと思うが・・・。
最終的に主人公は4篇を並べることで唐突に閃いたようにして鍵を一致させ、あっさり真相の扉を開き、依頼主の真実と事実が明かされることで結論もしっかり裏付けられ、話は落着となる。
実際には5篇目はこの時点では見つかっていない。けれど闇に葬ることになるだろう真相が分かった今、すでに明かされている5篇目の「最後の1行」があれば十分で、本文にはあまり意味がないように思える。それを最後に隠し玉のように出されても、その余韻に浸れるほど誰にも感情移入できるつくりになっていないのだからね。

・・個人的な好みによる辛口評でごめんなさい。

《古典部シリーズ》でも計算しつくされた感があり、几帳面な著者の作風だろうと感じていたけれど、それこそが著者一番のこだわりなのかもしれないと、この『追想五断章』で確信した気がする。
“謎解き”としてアンフェアにならない配慮を欠かさず完璧な構図で登場人物も読者も騙そうとすることはスゴイことと思う。けれど、そちらばかりが優先されてしまい、小説としての面白味に欠けてしまっては本末転倒ではないかと私は思う。少なくとも《古典部シリーズ》はキャラ読みしちゃうくらい誰もかれも登場人物が魅力的に描かれ、日常の謎解きも映えていたのだが・・・。

私はこの小説を読むことで、著者を好きになれるかを見極めようとした。著者の哲学的な部分で、私が勝手に共感できるところがあれば嬉しいと思っていた。
結果はたぶん否。《古典部シリーズ》には感じるところがあり、今後も読み続けたいと思うが、おそらくほかの作品には手を出さないと思う。残念だけど仕方がない。

昔から作家で読書する傾向が強く、喰わず嫌いで新規開拓もままならないため、見識を広げる機会をみすみす見過ごし続けているのが悩みの種で、久々に新しい風ゲットかと期待していたのだけど、なかなか思うようにはいかないものだね。

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コメント

たいむさん、こんにちは。
私も古典部シリーズに惹かれてこちらも読んでみましたが同じような感想でした。
言われているように登場人物の誰もに惹かれない印象で誰もが暗いんですよね。

そもそも叶黒白のリドルストーリーが悪趣味な内容なので作風としてそういう感じ
にしているのかもしれませんが、主人公も依頼主の娘も過去やしがらみに囚われて
前に進めていないんですよね。そして、それは父親の謎が解明されたあとも然り。

小説に込めた想いや練り込まれた計算はさすが米澤さんといったところですが、
それも古典部シリーズを読んでからこれという流れがあるからこそ。
あえて渋くするために暗い印象にしたのか、どうも好みではない作品であったのは
残念なところです。むむむ。

投稿: GAKU | 2012/10/20 10:00

■GAKUさん、こんにちはsun
GAKUさんもイマイチな印象でしたか。
なんか本当に残念ですよね。
真っ暗でマイナー思考で後味の悪い作品でも、京極作品とか伊坂作品は受け入れられるのに、これはどうにも肌には合いません。
米澤氏がどこかでこの作品を「新境地」と発言されていたことから、正直「これが?」と思ったし、この先は「古典部」オンリーだなぁって。
とりあえず最近書き下ろされた短編は良かったですから。
古典部のキャラと雰囲気は今でも変らずにいてくれたのが嬉しいし、救いです。

それにしても「栞子さん」といい、「おっ」って思ったものが自分の好みからズレていくのがとても残念です。

投稿: たいむ(管理人) | 2012/10/20 14:47

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