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2012/07/02

《古典部シリーズ》から『二人の距離の概算』を読んで。

9784041003251《古典部シリーズ》の5作目。単行本として数年前に発表されているもので文庫本としては最新作だが、残念なことにまたページ数が半減してしまっているので、アニメ人気に乗じて、書き下ろし短篇のひとつも追加してくれたら良かったのにと少し思うところ。
内容は、4作目の『遠まわりする雛』から正常に時が流れ、「古典部」はめでたく全員そろって高校2年に進級。活動らしい活動をしているわけではない「古典部」も一応新入生勧誘活動をはじめ、仮入部してきた新一年生にまつわるアレコレが今回の話となっている。ただ今回は「謎」というよりは「誤解」をとくために奉太郎が動くというもので、取り立てて何がどうという事のないものだった。
けれど入部手続の関係から“マラソン大会が終わるまで“という時間的制約が付き、奉太郎は20kmマラソンの最中に必要な情報を収集・整理し、決着まで持っていかなければならないという縛りがあることで、他愛のない事件でもテンポよく読めるモノになっていたと思う。

古典部に仮入部してきたのは、大日向友子という名の女の子。学校一斉で行われる新入生勧誘行事にて、奉太郎と千反田が真向かいで勧誘活動を行っている「製菓研」ブースの不自然さから、その違和感の理由を推測している会話を聞きつけたのが切っ掛けだった。ボーイッシュでサバサバ系。先輩の中にただ1人の1年生でも臆することなく会話に加われるような子で、全員の好感度はまずまずといったところだ。
とはいえ、新メンバーが加わったところで古典部は相変わらず何をするでもなく、放課後には常に全員が顔を揃えることもない個人任せの部活ではあったが、揃ったら揃ったで、揃わなくても揃わないなりにその時々で時間を共有するもの同士で和気藹々と日々を過ごしていた。誰もが今年はこのままいくのだと思っていた。
ところが、仮入部から本入部に切替わる期限直前になり、大日向が突然「入部しない」と伊原に告げる。寝耳に水で「???」の伊原。奉太郎にも里志にも思いあたる理由は浮かばない。ただ千反田には自分の所為だと思われる心当たりがあるらしく、それはそれで釈然としない奉太郎だ。
一般的にある日突然誰かが「退部する」という話の裏には、殆どの場合人間関係のもつれがあるといって良く、まず奉太郎もその線で考えるが、尚更に「千反田に限ってそんな筈はないだろう」となってしまう。

「いったい何かあったのか?何故こうなってしまったのか?」
同じ空間に居ながらまるで関心を持たず、ただ無為に過ごしていた自分を少しだけ反省し、少しだけ責任を感じた奉太郎は、千反田が大日向を傷つけたあるいは怒らせたモノは何なのか、そもそも本当に千反田が原因なのか、今となって思い出すいくつかの大日向の癖や違和感のある挙動について、その時々の出来事を振り返ることで検証し、引き留めることは出来ないとしても、せめて誤った遺恨として残らぬよう、やれるだけやってみようと決める奉太郎だった。
マラソン距離は20km。一般道を使用するため生徒が道路を埋め尽くすことのないよう全校生徒がクラス順に時間差でスタートする方式がとられ、それぞれ半日がかりで完走を目指すようなマラソン大会だからそれなりに時間はあるものの、情報不足を補うために奉太郎は伊原と千反田に接触して話を聞かなければならなかった。(そこは伊原も千反田も2年A組の奉太郎より後発スタートだから、奉太郎がスピード調整すれば必ず追い抜かれる形で接触が可能ということだ)。

いざ奉太郎がスタートすると、マラソンしている現在と回想が行ったり来たりする。奉太郎視点でしかない回想だが、回想は”謎解き”以外のところでも時が進んだ分の情報も盛りだくさんで、ついに里志が腹を括って伊原と付き合い始めたとか、お互い意識するでもなく意識している奉太郎と千反田とか、前作からの宿題が何気に含まれているのに嬉しくなる。

最終的にきっちり答えを導き出してしまう奉太郎。大日向と話すことで誤解は解けるものの、時間は巻戻すことも先送りすることも出来ないことから、本入部の辞退は確定した。

結局、奉太郎の行動は今度も”千反田のため”につながってしまうわけで、意識的にも無意識的にもそこから「省エネ」による弊害と意義について、これまで以上に想いを馳せることになったように思う。
もう少し劇的な何かを期待していたところもあるけれど、こういうのはジワジワくるものだし、良い傾向、良い傾向ってことにしておこうか。

今後も《古典部シリーズ》として、日常の謎と「変わるもの」「変わらないもの」の両方をゆっくりと描いていって欲しいと思う。

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