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2012/06/06

《古典部シリーズ》から『遠まわりする雛』を読んで。

Hina4作目『遠まわりする雛』も読了。『遠まわり・・』は、これまでとは違い短篇集として7編が収録されている。語り部はほぼ奉太郎。(一部里志視点が混じっているが)。
前3作品の合間での出来事が4篇と”文化祭”のその後の出来事が3篇ではあるが、「出逢ってまもない頃」、「1学期」、「夏休み」、「2学期」、「冬休み」、「3学期」、「春休み」がそれぞれ1篇ずつ描かれていて、季節ごとの”プチイベント”が楽しめる趣向になっている。また、前3作品も含めて”ひとつの時間が流れている世界”であるところがポイント。読了後、《シリーズ》ではあるけれど何となく全てをひっくるめて『古典部』という1作の長編ドラマと捉えるべきではないかと感じ、《古典部シリーズ》は出版順で読む事をオススメしたいと思った。
とにかく、思わぬところに思わぬ伏線が潜んでいたりもするので、短篇集と侮ることなかれ。

短篇集なだけにより身近な”日常の謎”を扱った話がほとんどで、その分だけ人間模様が濃く描かれることになったので、前3作品に比べて(ミステリと言うよりは)”ほろにが青春小説”の要素が強く感じられる1冊になっていると思う。

『やるべきことなら手短に』(新学期早々、新入生への部活勧誘が盛んな時期で”古典部”復活決定直後の出来事)
・・・奉太郎が”省エネ”を確保する為に一計を案じて千反田を煙に巻く話。後々まで奉太郎自身が悔恨することになるちょっとイタイ話でもある。
②『大罪を犯す』(「1学期」:6月初旬)
・・・千反田に起こった事と怒った理由を解明する話。奉太郎が千反田の人となりをほぼ確信する話にもなる。
③『正体見たり』(「夏休み」:8月:『氷菓』事件の後)
・・・古典部が慰労合宿で訪れていた山間の温泉旅館で起こった”幽霊目撃”の謎を解き明かす話。時に幽霊は幽霊であっていいかもしれないというお話。
④『心当たりのある者は』(「2学期」:11月1日:”文化祭”後)
・・・放課後、やや不可解な生徒呼び出し校内放送を聞いた奉太郎と千反田が、放送の不可解さを解明しようと推論を立てるゲームをする話。後日談にほくそ笑む話となる。
⑤『あきましておめでとう』(「冬休み」元日)
・・・伊原が巫女のバイトをしている神社へ初詣に出掛けた奉太郎と千反田が、トラブルに見舞われる話。奉太郎が”千反田家”とは何であるかをおぼろけに察し、工夫を凝らして事態を凌ごうと尽力する話。
⑥『手作りチョコレート事件』(「3学期」:2月:バレンタインデー)
・・・伊原が里志に渡すハズだったチョコレートが部室から消えてしまう話。確信犯の行いがおもわぬ波紋を起こしたことで、真相を知る誰もが後味の苦さを感じる話。
⑦『遠まわりする雛』(「春休み」:4月3日(旧暦3月3日))
・・・千反田の地元の祭事「生き雛」に奉太郎が頼まれて助っ人参加し、そこで起きた”手違い”の謎を解き明かす話。奉太郎、”千反田える”を知る。

時系列と内容はざっくり以上のような感じ。(ちなみにアニメでは若干時系列がいじられているようで、『やるべきことなら手短に』が1話目の後半に挿入されていたのは妥当としても、本来夏休みだった『氷菓』事件の決着は1学期中(6月)とされ、『大罪を犯す』は7月の出来事になっている)。

今回の謎解きに関してはどれも特別どうということは無く、これまでどおり「特筆しているような描写はすべて無関係ではない」と思って読めば、(動機はともかく)概ねニヤニヤしながら読み進む感じになるのではないかと思う。まぁ強いて言うなら”姉川の戦い”には「ここでコレがきますか!」と驚かされたけれど。

やっぱり1年をまとめた短篇集としての見どころは、出逢いから1年という時間の流れと心境や距離感の変化なのだと思う。小説でも漫画でもドラマでも”青春”している作品では「ずっとこのままでいられたらいいのに」という台詞が度々登場するけれど、それを「是」としないのが”青春モノ”であり、”現実”であり、著者も意識的にそうしたとあとがきで語っていた。
古典部の1年分を振り返ってみると、奉太郎には奉太郎の主義と理論があり、千反田には千反田の環境や目標があり、里志には里志の分析と葛藤があり、伊原には伊原の努力と策略があることがよくよく分かってくる。それらは変えることが出来るモノと変える(代える)ことが出来ないモノ、そして変えて良いのか分からないモノがあって、「まさに青春真っ只中」と、甘酸っぱさとホロ苦さが感じとれる。
つまりは、付かず離れずの男女の間に恋愛沙汰は付きものってことで、既に逡巡しながらも自分と正面から向き合おうとしてる里志と、黙って無策に甘んじていない伊原であること、千反田には「無自覚な確信」が、奉太郎には「自覚と戸惑い」が芽生えたことがハッキリしたということだ。
恋愛模様のグダグダがないのがこのシリーズの良いところでもあったし、それはそれで物足りなさを思ってしまうのもまた事実。
恋愛沙汰は読者の嗜好で賛否がありそうな気がするけれど、奉太郎と千反田は奥手と言うよりは”分をわきまえている者”同士なだけに、結局最後まで何も起こらずそのまま卒業してしまうような気もするし、時折秘められた本音の部分だったり、ふいにポロリと漏らしてしまうような瞬間で、2人の控え目な恋愛の経過観察ができたらいいな位に私は思っている。

なんというか奉太郎は初対面での「気になります」で既に落ちていたんじゃないかと、実は最初から思っていた。けれど奉太郎から一歩踏み込んだ感情面が言及されることはここへ来るまでなかった。それでいて厄介事を持ち込む彼女を拒絶することなく、好奇心に付き合ってしまう奉太郎。そうさせるのは彼女の人となりであり、彼女が奉太郎の心理的な一線を踏み越えたりしないからではあるだろうが、彼女を傷つけることはしたくない、心底困っているなら助けたいという気持ちも感じられ、仄かに漂う矛盾は奉太郎自身も含めて誰もが感じるところだったと思う。
著者が最初から2人の関係性を決めていたのか、シリーズが続くことで必然性に変えたのかは分からない。いずれにせよ”恋愛”ほどパワーが必要で消耗するモノはないわけで、”省エネ”をもっとうにしている以上、両者は決して両立しえないから発展させようが無かったとは考えられるのだが、もしも奉太郎が千反田を”省エネ生活”を脅かす厄介人物と認識していたのは表層上のことだけで、深層心理では千反田が”恋愛”のカタチで奉太郎の”省エネ”を壊滅させてしまう存在だと直感していたのだとすれば、やはり深層心理で回避行動(自己防衛)から表層に感情をあげず、思考に至ることなくスルーしてしまうのは納得できるし、それが計算されていたのだとしたら脱帽する。

モヤモヤした気持ちの正体、「両者は決して両立しえない」ことを自身に考えさせておきながら、それでも気付いてしまった心は偽らず、里志の葛藤と自身の体験をシンクロさせているところを思うと、「ようやくここに至った」ことはある程度計算だったものと思う。
だとすれば、こうした話の持って行き方は実に私好みだ。ミステリも爽やかな純愛も好きだし。

『氷菓』の第一印象からしていろいろな意味で好感度は高かったけれど、4作目にして決定打となったようだ。青春の「痛さ」がとても懐かしくもあり、4人がそれぞれどこでどのような折り合いを付けるのか、このシリーズが良い形に着地することを祈りつつ、最後まで見守っていきたいと思った。

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コメント

たいむさん、こんにちは。
>”恋愛”と”省エネ”は決して両立しえない
なるほどー。だから奉太郎は「これは良くない」と直感で感じたんでしょうね。そんな風に思いながらも雛になったえるの顔を見たくて仕方がないあたり「やっぱりそうなんだー。ふふふ」とニヤニヤしてしまいます。

でも奉太郎しかり、里志のチョコ事件の部分しかり、自分のポリシーを変えられないという部分と、恋愛感情との折り合いや葛藤が見えて、微妙なほろ苦さも感じさせてくれるあたり、やはりこの米澤さんという作家さんは上手いなぁと思ってしまいました。

余談:アニメではこの『遠まわりする雛』が最終回かも。。。などと思ってしまったり。

投稿: GAKU | 2012/07/11 07:09

■GAKUさん、こんにちはsun
あの「これは良くない」って表現、いかにも奉太郎って感じで良いですよね(^^)
「人嫌いじゃない」ここまで淡泊すぎるくらいだったので、その手の感情が表層に上がってきたのがまず嬉しいし、「そうだろ、そうだろ」ってニンマリしちゃいますよね。

にしても、男どもの高校生1年生らしからぬポリシーは女性として少しばかり理解不能。そこが思春期の男の子らしい思考回路なのかもしれないけれど、なんでそこまで考えるかなって面倒くさいったらないですよ。


萌えとほろ苦ミックスの《古典部シリーズ》については、私も作風がとても気に入っています。個性的なサブキャラも含めてどのキャラも好きだし。次の作品のあとがきによるとまだ続ける気がありそうなので、小説としてずっと追っていく気マンマンです。
卒業くらいまでやってくれたらいいなって思いますが。

けど、推理作家としてはもう少し評価は保留かな?別の作品も少し読んでみようかと思っているところ。

そうそう、「ビブリア・・」最新作も読みましたが、古書の話からなんでも母親の話に絡んでしまい、なんだか趣が変わってきたように思います。
母親の話も気になるし、恋の行方も気になるので、こちらも最後まで読みたいと思ってますが、どうも栞子さんってひとがあまり好きになれないままなので、軍配は《古典部》ですかね~(^^)


投稿: たいむ(管理人) | 2012/07/12 13:08

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