『三匹のおっさん ふたたび』 有川 浩 〔著〕
3年ぶりに”3匹のおっさん”たちが帰って来た!
雑誌の連載はひとつも手を付けずに待っていただけに、文字通り”待望の新刊”だ。
今回も全6話で構成。ますます盛んに現代の身近な問題を3匹が斬りまくる・・・と思いきや、そうした(大がかり?)ものは半分の3話にとどまり、清田家・有村家・立花家の身内話を絡めた一般家庭にもアルアルな話題がそれぞれ1話ずつ(1話・3話・5話)収録されている。
いずれにせよ身近なテーマ(問題)が取り上げられており、さくっと感情移入出来るようになっているところは何時もながらの有川作品で、また今回もイメージ増幅器になっている須藤真澄さんの挿絵もバッチリだ。更に『植物図鑑』とクロスオーバーで書かれた短編『好きだよと言えずに初恋は、』も収録。私のお気に入りの一冊がまた増えてしまったようだ。
各話で取り上げていたのは、職場の人間関係&金銭問題(第1話)、書店の万引き事件と親のしつけ(第2話)、再婚話と大学進学(第3話)、ゴミの不法投棄&嫌がらせ(第4話)、地域行事と住民意識の温度差(第5話)、偽3匹騒動(第6話)である。
第1話では、清田家の貴子(祐希の母)がパート先で様々な洗礼を受けるというもの。一度も就職したことのない”奥様”だった貴子。マイペースな性格と要領の悪さからリーダー格には”使えない”と罵られ、パート仲間からは村八分。それでもこっそり優しい声をかけてきて、仕事あがりに一緒に買い物したりお茶をしたりする友達もできた。ところが彼女の本性が透けて見えてきた頃事件は起こるべきして起こる。最終的には逆切れから足元まですくわれて、もう散々という話だ。
女性だらけの職場の場合、おおむね古株リーダー格のオバちゃんが幅を効かせているものだが、大所帯だと水面下で派閥抗争が勃発していたりもする。もちろん円満なところもあるだろうが、大抵どこでも何かしらはあると思う。貴子にしてみれば心も体も疲労するばかりの苦い初職場になったわけだが、井の中の蛙が井戸から顔を出したところで水を引っ掛けられた程度には社会勉強できたようだし、前作でのバカさ加減に呆れるだけのキャラから好感度アップにつながった話だったと思う。互いを知らない段階で何気に早苗ちゃんが絡んできたのもGood!
第3話では、ノリさんの再婚話が持ち上がるという話。相手の女性もイイ人で決して反対ではないのだけど、大学受験イヤーというタイミングの悪さからだんだんナーバス度が増してゆく早苗ちゃん。成績は下がるわ、第3者の悪意のない安易な言葉にカリカリしてしまうわで、つい祐希にあたって喧嘩してしまう早苗ちゃん。
結局、ひと騒動のあとで早苗から事の次第を聞いた祐希が、同じ”受験生の立場”から早苗の気持ちを代弁してノリさんを諭し、元の鞘に戻る有村父娘となるわけだが、互いを一番に気遣っているが故に起こってしまったすれ違いは羨ましくもあるところ。
3匹にはそこそこ評価されている祐希はさらに株をあげたようだ。祐希にしてみれば、図らずもノリさんからの株を上げたのは大収穫だったかも?高校生という年頃を「子供じゃないけど、大人でもない」とはよく言ったもので、子ども扱いはごめんだけれどまだ庇護だって必要なのだと自覚していなければ言えない言葉。逆に、親に甘えていられる時間は残りわずかだという覚悟もちょっぴり含まれているわけで、高校生の口からそんな言葉がでるなんて何とも頼もしいことだ。
3匹はじめ、大人にとっても忘れがちな事実を思い出させてくれるエピソード。高校生をいっぱしの大人扱いできる部分はたくさんあるけれど、「それでもまだ子供なのだ」という事を大人は常に頭の片隅に置いておくことが大事なようだ。
第5話は、「酔いどれ鯨」を継いだ立花康生が中心となっているお話。不況にあえぐ商店街の活性化のために長らく開催されていなかった“祭”を復活させるにあたり、昔と今との世の中の変化や、子供時分のほろ苦い思い出が披露されている。
自営業家庭とサラリーマン家庭、どちらが偉いってわけじゃないのに少数派な自営業の親を持つ子供が羞恥心を覚えてしまったり、親の多忙による孤独感や逆に手伝い義務に対する反発心を生じさせてしまったりすることは少なからずある話。康生もそんな子供のひとりだったようで、毎朝スーツ姿出勤することのない常に黒ジャージのお父さんが好きではなかったとのことだ。それでも、幼き康生がふいに漏らした悪気なき暴露を心配した兄貴分の健児(キヨの息子)が「お祭りの時のお父さん(シゲさん)は誰よりもカッコイイ!」と事あるごとに吹き込み続け、本当にそうだと思えるようになった頃には康生も自然に父親に対する意識を変化させており、店を継ぐまでになったということだった。
そんな思い出深き祭りの実行委員会を商店街組合が引き受けることになったわけだが、長年使用していなかった神輿の修理はじめ多額になる諸経費に頭を悩ませることになる。寄進集めではとある町内会長から難癖を付けられてすべての協力を拒絶され、大規模マンションの住民からもまったく理解が得られないことに苛立ちを覚える。
今のご時世、行事に協力はしたくないが見たり貰ったり参加したりするのは自由~といった感覚の人は案外たくさんいる。本編中にも子供に無料配布されるお菓子目当てに寄進拒否家庭や地域外から子供がわんさか集まってくるという話があったが、実際、本当にそうなのだ。明らかにと分かったところで、「お祭りだし」と親の素行を子供に被せてイジワルするような大人げないマネはしないが、誰しも心情的には「ちょっとねぇ」って思うことだろう。
無事に祭りは成功に終わったようだが、地元愛から人々の善意でしか成り立たない祭りをこれからも続けていくとなると問題は山積みといったところだろう。文化継承は今や社会問題になっている。震災以来あちらこちらで地域の“絆“云々と言われているけれど、本当の意味で得られているのか、持続できているのか、少し疑問に思っているこの頃かもしれない。
残りの3話と短編はそれぞれのお楽しみにしていただこうと思うが、第2話の万引きについて、我ながら気を付けなくてはと思った点だけ書いておこうと思う。実は、本編内のエピソードに青くなったところがあったのだ。
書店での万引きが増加傾向にあるのは、大規模古本屋の登場から子供でも安易に換金できるシステムが地域に定着してしまったことが要因の一つにあるようだ。人気漫画の新刊や全巻セット等は“高価買取“になっているのが一般的。私自身新刊を読み終われば、お気に入りの保存版以外即座に買取を利用させてもらっている。
私は、基本的に本は買って読む。ハードカバーの新刊は少しまってそれこそ古本の入荷を待ち若干安く上げることもあるが、新刊マンガは100%でほぼ通販を利用している。
店頭で購入すると大抵の場合はスリップといわれる”注文カード”が抜かれると思う。しかし通販では逆に抜かれてくることはまずない。読むにあたり邪魔な封入チラシやスリップはすぐに表紙の折り返しに挟んでしまうのだが、これまで買取に出す時もそのままにしていた。
しかし、今後はスリップは即座に処分しようと思っている。なぜなら古本屋に万引き新刊が持ち込まれる場合の目安の一つとして、スリップの有無が注目されているらしいと知ったからだ。これまでまったく気にしたことがなかったどころか、逆にすべてが揃っている方が良いだろうくらいに思っていたから、「もしや買取査定の際に疑われていたことがあるのでは?」とか思うとゾッとする。まぁ万引きと分かっていても買取する業者もあるらしいが、御用達の古本屋はそうじゃないと信じて、「いや、それはないだろう」と考えを振り払うところだが、誤解を招く行為は控えるに越したことがないってね。角度を変えればという盲点に気が付くことが出来て本当に良かった。
さて、今年は7月に『空飛ぶ広報室』(幻冬舎)、11月『旅猫リポート』(文藝春秋)が発売されるとのこと。とても楽しみだ。
それでも、さらなるキヨ・ノリ・シゲの3匹の雄姿はもちろん、祐希と早苗の微笑ましいその後を追跡するのは何よりの御馳走と、無事大学生となった2人ももう少し見てみたい。また祖父母と孫による世代を超えて本音から互いの欠点を指摘し合う会話は、有意義で頷くばかりだし、出来ることならば『みたび』も是非お願いしたいと思う。
※文藝春秋社『三匹のおっさん』特設サイトはコチラ から
「登場人物紹介」では、人気投票もあり。
私は当然?のように「祐希」に一票したが、結果はぶっちぎりで1位を走っていた。やっぱそうだよね すっげーイイ子だし。
※前作『三匹のおっさん』の感想は コチラ
| 固定リンク | 0
コメント
たいむさん、こんにちは!
このシリーズは、小さいことながらもけっこうシビアな問題を取り上げていますよね。
でも読み口は有川節なので、すいすいと読めるところがよいです。
次回作もたぶんありますよね〜。
ノリさんの再婚話あたりがありそうな・・・。
投稿: はらやん | 2012/05/27 17:02
■はらやんさん、こんにちは
有川作品全般が「実は結構社会派」なんですよね。
いろいろと涙ボロボロに打ちのめされることもあったりして、それが楽しみでもあって。。ですねw
みたび、ありますかね~~
楽しみですね(^^)
投稿: たいむ(管理人) | 2012/05/29 20:31