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2012/01/10

「恋物語」西尾維新/著

Koimomogatari_2

2nd.シーズン6作目にして最終巻となるは『恋物語』【ひたぎエンド】。2nd.4作目『囮物語』【なでこメデューサ】の直接的な続編であるが、語り部がまさかの貝木泥舟という意表を突いたもので、イキナリ冒頭でヤラレタ感を味わうこととなった。
確かに「恋」は「囮」の解決編になるだろうことが予告されていた。結果論としては暦が無事に春を越えたことは「花」で証明されているから、神になって手が付けられなくなった撫子とどう対決するのか、どんな手を使って危機を回避するのかを待っており、時間稼ぎに成功した戦場ヶ原と暦の絶妙な連携プレイを期待しつつ楽しみにしていたわけだが、私個人的な意見としては、そこは良くも悪くも裏切られた感じになってしまったようだ。
そんな読者の期待を意外性で裏切るのは決して悪いことではないと思う。忍野の不在から事態収拾に貝木を招聘せざるを得ないのも妥当なものと思う。けれど、 ファンは最終的にはベタな王道の心地よさを求めているのではないかと思う。そう思うと今作はやや邪が勝ち過ぎていたように思う。羽川曰く、「本当は結構ちゃんとしている人」。そんな決定打があるように、嘘で武装した正論を操る貝木の仕事を思えば案外いいひとキャラだというのは以前から薄々感じられていたのだけど、語り部としてはクドイしあまり魅力的じゃないように思うのだな。

なかなか本題にはいらないけれど、話は至って簡単で戦場ヶ原から「撫子を騙す」という依頼を受けた貝木が見事成功させるというだけこと。あらすじとして肉付けをするならば・・・(以下ネタバレ含む)
戦場ヶ原は、「今直ぐぶっ殺す」と猛り狂っている蛇神:撫子からとっさの機転で3月(卒業式)までの猶予を取り付けたものの、実際のところは無策で、単に延命措置で生きながらえているのと変わらない状況下で日々を過ごしており、もはや藁にもすがる思いの最終手段として宿敵:貝木を頼るという苦渋の決断をする。ちなみにそれは戦場ヶ原の独断で暦に相談することなく話を進め、貝木にも隠密裏に行動するよう強く言い含める。
・・ここまでは、なぜ貝木がそんな面倒を引き受けたのか、また途中にはアチコチから「手を引け」を忠告(警告?)を受けることになるのだが、それでもやり通す貝木の内側が事細かに語られることになる。(いささかどうでもいいことがダラダラと長すぎて鬱陶しいのだけど)。

貝木はこれまで撫子とは直接の接点がなかったため、撫子自身と身辺調査から始める。そして早々に出した結論は「簡単に騙せる。」というもので、戦場ヶ原には「安心しろ」と報告するのだった。
貝木の撫子分析は「囮」での読者の印象そのまんまと思う。「馬鹿で幼くて甘ったれで自分だけの世界に閉じこもって自己完結している頭の悪いただの娘」。
ならば、それなりに時間を掛けて“神様“になった撫子と友好関係をつくり、最後に暦と戦場ヶ原を「ぶっ殺す」必要がなくなったという作り話を信じ込ませれば良いってことだ。貝木はまず賽銭で撫子を釣り上げ、綾取りや日本酒で気を惹き、1ヶ月ほど山頂の神社に通って親交を深めてゆく。そして、いよいよXデーを迎える。
・・結論を言えば、馬鹿は馬鹿なりに学習はしているもので、貝木の騙しを看破していた撫子だった。そもそも、“千石撫子は誰も信じない。だから誰も疑う必要もない“と分析しているにもかかわらず、なぜか「自分の話を信じる」と疑いもしなかったところに貝木最大の誤算があったといえる。

信じてもいないのにまるで裏切られたかのように逆上をする撫子。無数の蛇に締めつけられて成す術なしの貝木。けれど、貝木は赦しを乞うべきという心の声に反して、本気の大人の本音で諭すコトバをこれでもかと撫子に投げつけるのだった。詐欺師としては技術のへったくれもないそのまんまのコトバ。まぁ聞く耳を持っていない撫子だからそう簡単には届きはしないのだけど、貝木がほとんど悪あがきのように繰り出した思わぬ隠し玉がクリーンヒットを放つ。起死回生の一発逆転劇。

・・ということで、ギリギリのところで戦場ヶ原の依頼を完遂する貝木となるわけだが、100%貝木の手柄というわけでもなく、「騙されてあげる」とほんの少しだけ大人になった撫子の情状酌量的譲歩あっての成功じゃないかなと。(それには貝木のお百度参りが功を奏したとも言えそうだけど)。でも、何をどうしたって暦では撫子を救えない事実を暦に突きつけた貝木には拍手を送りたくなった。だんだん身の長け以上の正義の味方であろうとしていた暦だったし、不可能や限界を知り、ここへきてやっと「弁える」ということを学習できて良かったと思う。百戦錬磨の大人としがない高校生との格の差だね。まぁ阿良々木暦を阿良々木暦たらしめているのは”無限大の正義感と博愛主義”だったりして、そこが魅力なのかもしれないんだけれど。

『恋物語(ひたぎエンド)』から受ける印象とは程遠いものだったけれど、命懸けの戦場ヶ原の言動であり、応えた貝木の仕事を思えばまったく解らないタイトルではないように感じたし、現実に(さすがに暦ほどの正義漢はいないとしても)撫子のような子供はいるようにも思え、「良くも悪くも期待外れ」と言いながらも内容的には良い作品だったと思っていたりする私のようだ。

それから、いよいよ”黒幕”に確定した忍野扇。既にファイナルシーズンの告知がされており、『憑物語(よつぎドール)』、『終物語(おうぎダーク)』、『続終物語(こよみブック)』でようやく完結すると思われる。しかし2nd.シーズンの例からして、どこでどんな風に真の決着が付けられるのかまったく想像が付かない。依然「学習塾の焼失事件」は謎のままだし、行方知れずの忍野メメを気にする貝木の言から再登場の可能性が高いように考えられる。といってもこれまでの経緯から総力戦の総出演はないように思うし、やはりひとつずつ出来あがるのを待つしかないのだろうね。

とにかく、ファイナルシーズンがタイトル以外の発表を控えたのは懸命と思い、多少時間がかかったとしても、1タイトルで上下2巻になったとしても、すべての伏線の回収及び大団円で仕上げて欲しいと切に願う。

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コメント

たいむさん こんにちは^^

私も今回の作品は納得いかない部分が多かったです^^;
西尾維新って戯言シリーズを書いてたときもそうなんですが、いろいろ言葉遊びをして、最後には王道でキャラが沢山集まってくるから私はファンなんですが、今回のは無理やり続編に繋げた感じがしてならないんですよね。。。それこそ戯言シリーズの最後のように恋物語を上下2巻にして終わらせたかったんじゃないかなぁと思ってるくらいに(-_-;)

貝木のナレーションにはびっくりしましたが、撫子を説得できなかった部分や大人の論理でねじ伏せるってのは、西尾維新しては強引だし無理やり作った感じがしました
(-_-;)まるでナレーションを暦にやらせて言葉遊びをする余裕がなかったようにすら感じました。。。この貝木のナレーションにも最後のところや説得に意味があったと思うのですがどうにもしっくりこなかったので(^^ゞ

だからファイナルシーズンではそうしてくるとは思うんですが、伏線をどこまで回収できるかは確かに楽しみ^^これからもレビューを楽しみにしています^^

投稿: 瞬光 | 2012/01/12 09:05

■瞬光さん、こんにちは
たぶん、そうくるかな~って思ってました(笑)
世間一般の感想も「やっつけ仕事だろ~」ってものが多いように感じてましたし、私としても無理やり感は否めません。ハッキリ言って貝木の語り以外は捻りも何もないですもんねぇ。
けれど、キビシイスケジュールを考えれば無理は承知というか、逆によくぞここまで持ちこたえたかというところで、ギリギリでも及第にしてあげたいところです。
瞬光さんより西尾維新に対しての思いいれが無い、というものあると思います。

ファイナルシーズンは2012年中ということだし、最後が12月なら約半年に1作で、ならばきっと有終の美を飾ってくれることでしょう。
私も楽しみに続報を待ちたいと思ってます。

アニメでは「偽物語」も始まりましたね。
暦の変態度が増しているんでまさかアニメ化されるとは思っていなかったけれど・・・。
「傷物語」も楽しみです。
もう一年「化物語」とお付き合いですねw

投稿: たいむ(管理人) | 2012/01/12 18:00

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