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2011/11/27

『ヒア・カムズ・ザ・サン』 有川 浩 〔著〕

Here_comes_the_sun

アニメ『図書館戦争』の柴崎麻子役に(声優)沢城みゆきさんが起用され、その縁から《演劇集団キャラメルボックス》と有川先生の親交が深まり、やがて演劇を扱った小説『シアター!』が『もうひとつのシアター!』という形で舞台化されたのは、有川ファンなら周知のことと思うが、この『ヒア・カムズ・ザ・サン』も《演劇集団キャラメルボックス》と深い関わりを持った作品とのことだ。
『ヒア カムズ ザ サン』と『同 パラレル』の2本の中篇作品が収録。どちらも”7行のあらすじ”から有川先生が立ち上げた、枠だけ同じの別のお話。また「パラレル」は《キャラメル・ボックス》の演劇版と同じキャラクターを動かした有川先生のオリジナルストーリーとのこと。
残念ながら私は演劇版を観たことが無いので、全てを比較出来ないけれど、選択肢如何で無数に世界は広がっていく、という可能性みたいなものはこの一冊でしっかり味わえた気がしている。

『真也は30歳。出版社で編集の仕事をしている。
彼は幼い頃から、品物や場所に残された、人間の記憶が見えた。
強い記憶は鮮やかに。何年に経っても、鮮やかに。
ある日、真也は会社の同僚のカオルとともに成田空港へ行く。
カオルの父が、アメリカから20年ぶりに帰国したのだ。
父は、ハリウッドで映画の仕事をしていると言う。
しかし、真也の目には、全く違う景色が見えた……。』

これがこの小説の最初のプロット。
まず、『ヒア カムズ ザ サン』を読んだ感想だが、”記憶が見える”というような、有川作品ではほとんど登場しない”能力系”が主人公であることからしても、有川作品を読んでいるという感覚が私には乏しく思えた。文体や会話の調子などはいつも有川調なのだけどね。
実は、しばらくの間、私は何故か”カオル”を男だと思い込んでいたからかもしれない。最初の紹介では”同僚”としかなっておらず、信也とは同期の気心が知れた関係に思えたカオルだったからであり、カオルに対してポカをした後輩は”3つ下の女性”と書かれ、いかにも女性らしい言動をする子として描かれていたこともあるかもしれない。もっと言い訳するなら「カオル」って男女どっちでも良い名前だし、更に言えば、最初のあらすじで既に男って思いこんじゃってたフシがあり、もはや既成概念及び先入観念でまったく男と疑っていなかった感じ。(カオルの女らしい描写も読み返せばたくさんあるのにね)。
つまり、有川作品と言えば、多かれ少なかれどこかに”甘さを予感”させるものが必ずあるものだから、「物足りなさ」を感じていたということになるのだと思う。
やがて女であることが明白になっても、信也とカオルの間に何かを予感させるモノがまるで感じられないこともあって、「今回のはお題ありきの共作みたいな作品だからベタ甘は封印か?」と頭のスイッチを切り替えたものの、やっぱ有川作品はベタ甘と辛口社会派との両党でグイグイ引っ張って欲しいってどこか思ってるんだね、私は。
ネタばれは小説の肝そのものなので伏せるが、何だカンダ思いつつも、結局のところ泣いてしまった、と言っておく。
「あなたは一体誰ですか?」というミステリー小説バリの謎解き、間違いはひとつもないコトバのトリックにはヤラレタ感すら持った。さらに、最後の最後にほんの少しだけ”予感”も盛り込んでくれたことも、まるで私の期待に応えてくれたかのような気になって感謝したいくらいだった。

次に、『ヒア カムズ ザ サン/parallel 』だが、こちらは演劇版という骨組みが更にのっかっている分だけ、より制約があったのかなかったのか私にはわからないのだけど、印象では『レイン・ツリーの国』を読んだ時のソレに近い気がし、最初から”有川作品を読んでいる”という感覚だった。心に痛みを伴う展開、そして和解。やっぱり最後は泣けてくる。

小説内で「作家の感情の量の多さ」が云われていたけれど、まさしく感性とか発想力が豊かでなくちゃ小説なんて書けないだろうし、たった7行から幾つもここまで膨らませて文章がかけてしまう作家の凄さに脱帽するところ。そう思うと、どんな作品であれ、”書けない・創れない”私があーだこーだと批評するのはおこがましいことだと思えてくる。
批評どころか批判するのは簡単なこと。編集者の心得として、後輩を叱る主人公の言葉にもあったけれど、例え単なる一読者でしかなくとも、自分だけの物差しを誰かに押し付けるような物言いだけはしないようにと、改めて強く思った私だった。(でも、好き嫌いは仕方が無いよね?)

これまでとは異なる味わいをもつ作品で派手さはないけれど、確かに有川色がにじみ出ている作品。軽からず、重からず、中篇×2でサクッと読めると思う。

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コメント

お久しぶりです、こんにちは。
この小説は本屋で見かけるたびに
やや厨二病気味の私の心にグサっとくるジャケに
惹かれていた作品。でもまだ買ってない。。。

プロットも読んで、”記憶が見える”という
能力系も嫌いじゃない。やりすぎると漫画になってしまうが。。。
ヤラレタ感も味わえるなら一度手に取ってみようと思います。
ではではまた。

投稿: GAKU | 2011/12/10 09:11

■GAKUさん、こんにちはsun
ジャケ買いって私はないのだけど、好きな作家の本が気になると言われると何だか嬉しいですw

能力についても、あまり気にならない程度というか、そういうことならばという使い方で良い感じだと思います。
読みやすいので、機会があれば是非に(^^)

投稿: たいむ(管理人) | 2011/12/11 00:42

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