「鬼物語」西尾維新/著
2nd.シーズン5作目となる『鬼物語』は【しのぶタイム】。
語り部は久々に阿良々木暦。とはいえ、中盤では忍だけによる“昔語り”が延々繰り返されることになり、終盤では臥煙伊豆湖の“解説ひとり語り”がかなりのボリュームで繰り広げられるので、そういえば暦だったっけ?な印象が無きにしも非ず。
なにせ、暦は何も知らないのだからそんなものだろう。体験者と何でも知っている御仁の両者の話を聞くことで漸く真実を知ることが出来、最後はそれを受け入れるしかないという話なのだからね。
ちなみに、前作『囮物語』で予告されていた“学習塾の焼失事件の真相”にはまったく触れられていない。ただし、『猫物語(白)』と同時進行していた事件であるため、「猫白」とリンクしていた謎の一部については(暦側で何が起こっていたのか)ちゃんと明かされた。とにかくセカンドシーズンは時系列がフラフラしているのだが、忘れずにメールすべきところはメールさせているし、暦と忍のペアリングが切れたワケ、暦が別途神原だけを呼び出さなければならなかった理由などがスッキリした。
さて、『鬼物語』。副題も「しのぶタイム」なのだが、吸血鬼の忍ちゃん中心の物語かといえばそうでもなく、いささかこじつけっぽいタイトルかもしれない。もちろん忍ちゃんも重要な役どころには違いなく、特に今回起こった“現象“を説明する上では、400年前の忍ちゃん、つまりは”キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード“の自身と周囲で起こった出来事から” 今”のソレを当て嵌めるととても解りやすい話になるもので、シリーズとして欠かせない話だと言えると思う。・・でも、それはあくまでも“今の現象”を説明するための”過去事例”でしかないことが読み進むと判ってくる。それは一見無関係と思われる今の事象が、実は同じ構造であることが解明された時、真の主役が別にいることが判明するというわけだ。
つくりとしての巧さは、見せ方を逆にすることでこの物語の「本質」をはぐらかしているところと思う。今回は“1人目の眷属“という気になる存在について語られるというところが目くらましになっていたと感じた。だってこれまでの忍ちゃんの勿体つけた話っぷりから想像するに、彼とはもっと親密というかドラマチックな何かがあったのではないかと思い描いていたから。それが「えー、それだけですか?」というのが私の印象。もしや語られていなかっただけに、新たに『鬼物語』を書くにあたって辻褄合わせにもってこいとばかりに都合よく改変されたのではないかと考えるところだが、これが実に見事に“今”と辻褄が合っているから唸ってしまう。
そこで今回の真の主役についてだが、彼女のまさかの退場にはとにかく驚いた。けれど、「なぜ在り続けているのか」はこれまでにも全くなかった疑問でもなかったことから、私としては素直に受け入れるところ。とても素敵な幕引きだったと思うしね。シリーズの中でも1、2を争う名場面と思っている「まよいマイマイ」での「だだいま」シーンだが、このたびの「お別れ」シーンもかなりグッと来るものだった。
それはそうと、今更とも言える思わぬ退場劇と、エピローグの暦と扇ちゃんとの会話から、このシリーズは「最後はすべてが正常になる」ってオチで終わるのではないかと思えてきた。(考え過ぎかもしれないが、いささか畳みこむような急展開になってきている気がするし)。
ラスボス?と思しき扇ちゃんの、「強いて言うなら、嘘つきを罰する仕事」というくだりからも、彼女(彼?)が”くらやみ”と同じような使命を担っているのではないかと感じられるしね。つまり、在ってはならないものは消され、特異体質たらしめているモノは取り除かれ、呪いは祓われ、憑き物はおとされる、みたいなことになるのでは?と推論できなくはないということ。実際に戦場ヶ原は更生し、羽川は心に折り合いを付け、神原の腕はすでに元に戻っている。お預けになっている千石だってきっとなんとかなるハズ。ただし、それは人間側だけの事であって、必ずしも”みんな”がハッピーになるとは限らないという心配がもれなく付いてくる推論だったりもするのだけどね。そう、今回の真宵ちゃんのように。またほかに例えるならば月火ちゃんとか、忍ちゃんとかも。。。
とはいえ強いて言うならまったくの逆パターンだってあり得そうに思うし、いずれにしてもあっと驚く展開で読者の期待に応えてくれるものと信じたいところだ。
次巻は最終巻『恋物語(ひたぎエンド)』、12月発売予定とのこと。千石との約束だったり、学習塾消失の真相だったり、神原含む奇妙な共闘エピソードだったり、扇ちゃんのお仕事だったり、それぞれに納得の行く回答が得られるのか甚だ疑問に思うところだが、それこそ扇ちゃんは「引き延ばしを許さない」とかなんとか言っているわけだし、収まらないからといってズルズルとサードシーズンに突入してしまうのだけは勘弁して欲しいと思う。
とはいっても、「囮」のあとがきでサードシーズンがほのめかされていたし、どうなることやら・・・
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コメント
こんにちは^^
たいむさんの書評見ると評価が高いみたいですね。。
戯言シリーズから読んでる私としては西尾らしくない文章だなというきがして気持ち悪かったんですよね。。。。
だから自分の中ではシーズン最悪の出来だと思ってたんですがたいむさんの書評見てると確かにきっちり伏線は拾ってるし、そこまででもないのかなという気もするのですが、やはり西尾らしい言葉遊びにキレがなくて、たいむさんの言うとおりサードシーズンありきな構成してる気がしてならないんですよね(-_-;)
だらだらと結論を長引かして1冊を無理やり売った印象が個人的には否めない。。。
たいむさんの伏線に関するまとめがなければ、もはやなにが伏線として残ってるのかわからないくらいには引き伸ばされてると思うw
次回作でのきれいなラストを私も期待してますw
投稿: 瞬光 | 2011/10/13 00:25
■瞬光さん、こんにちは
瞬光さんは肌に合わなかったようですね。
私は他の西尾作品は読んでいないので嫌悪感こそなかったけれど、ダラダラ感というか、内容の薄さの割に勿体つけた書き方には感じられたかな?
そして、人気にかまけた「予定」ありきでの短いペースでの発刊によって雑になって来ていて、明らかに個々の質が落ちているんじゃないかと感じます。どんなに速筆で、いくら趣味満載で書いていると言われても、過密スケジュールには違いなく、練り込むどころか書き上げるだけでいっぱいいっぱいなのじゃないかって。
それでも、一応欲しい情報はそれなりに盛り込まれているし、今回でいえば「同じ罪で罰せられる」って設定は上手くできていると思うので、とりあえずどれも及第ラインは割らない感じなのかなぁと。
なんだか中身は「終わらせたがっている」風なのに、実際はいつまで続いてもおかしくない流れというところにとても矛盾を感じます。大人の事情はもちろんあるのでしょうが、いったいどちらが作者の望みで、どういう意図からこんなことになっているのか。
ノリで書き続けるのは構わないけれど、キャラを増やすなどで混沌とさせるばかりになるのならば止めてほしいかな?
「傷」と「偽」のアニメは楽しみにしてますがw
投稿: たいむ(管理人) | 2011/10/13 11:30