文庫版『図書館内乱』 有川 浩 〔著〕
今月から5ヶ月連続で刊行となる「図書館戦争」シリーズの文庫版。全6冊になるが4月のみ2冊同時刊行で『図書館戦争』と『図書館内乱』が発売となった。
文庫化決定の情報の時にも書いたが、文庫化にあたっての目玉企画はアニメDVDの初回限定特典冊子として書き下ろされたショートストーリーが1話ずつ収録され、足りない1話分は新規書き下ろしが収録されること。私の予想では新規は最後の『別冊Ⅱ』に収録で、待たされるものと覚悟をしていたが、意外にも第1弾組の『内乱』に収録されることになった。小牧と毬江ちゃんに関する話だから確かに『内乱』が妥当と思うが、これはちょっと嬉しい誤算だ。
文庫化にあたり、本編も短編も若干の加筆修正があるとのことだが、既に単行本で感想を書いているのでそちらは割愛。よって追加部分についてのみを書きたいと思う。
毎度文庫化にあたり”あとがき”を書きなおされている有川先生。今回も例外なく「文庫版あとがき」が追加となっている。しかしどうしたって「今思えば・・・」な内容であり、当時の「あとがき」について「重ねて・・」といった感じなのでコレといった目新しさはない。ただ、今回は更に俳優の児玉清さんとの特別対談(解説対談)が数ページ掲載されているので、単行本所有者で文庫見送りの方もパラパラとチェックされると良いかと思う。児玉さんのお話は私をはじめ、有川作品読者が持っているだろう共通した認識が非常に感じられるので頷くところがいっぱいある。コチラは連載っぽく6冊に連続で掲載されるとのことなので、全完出揃ってからでも、書店で見つけた都度でもといったところと思う。
さて、『戦争』に収録された短編は『ジュエル・ボックス』でDVD第4巻に収録されたもの。内容についてはDVD発売時に書いているのでコチラも割愛。
そして『内乱』に収録のお待ちかね新規書き下ろしは『ロマンシング・エイジ』。小牧と毬江ちゃんのその後・・・という情報っぽかったが、読んでみると「その後」というほどの事はなく、時系列的にはやっぱり『別冊Ⅱ』での手塚と柴崎が最終と言えそうだ。
ストーリーも、小牧と毬江ちゃんのラブラブ話は半分もない。主に堂上と小牧の男同士の裏話といったところで、小牧が良化特務機関の査問会から解放(奪還)されて2日後のことだ。
何故毬江ちゃんがあの場に同行していたのか、それまでの経緯を教えてほしいと堂上の部屋を訪ねた小牧で、堂上に対して割と素直に毬江ちゃんに対する自分の気持ちを打ち明けることになる。ただその上で堂上と郁の関係性を絡めてもくるので、もっと素直じゃない堂上は微妙に居心地が無かったりするわけだ。ただ、この部分は本編の回想みたいなもので、互いが知らない部分をすり合わせているだけの読者には周知の話。よって小牧と堂上のやり取りに萌えるか萌えないかといったところだろう。
そして1年後、毬江ちゃんの高校の卒業式の当日の話が完全新作。子供の肩書がようやく外される日。既に互いの気持ちは伝えあっているものの肩書がある内は分別を保つと決めていた小牧で、この日はどちらにとっても待ち遠しい日だ。さすがにその瞬間を境に即行動に移る小牧ではないので、「食事だけ」なんて、劇的な変化を期待していた毬江ちゃんにはやや肩透かしで、要所要所に「まだ子供扱いされている?」なんてことが感じられたりもしてちょっぴりしょげている毬江ちゃんだけど(精一杯背のびしているのも事実だが)、卒業祝いの花束の中に仕込まれた、ささやかな大人の愛の告白を見つけて、大人の返事を返す毬江ちゃん、という話になっている。
小牧と毬江、堂上と郁、手塚と柴崎、玄田と折原、そして緒方と元カノ。シリーズでは年齢も条件もバラバラな様々な恋愛模様が描かれており、それぞれ色々な障害やしがらみを乗り越えて幸せを掴んでいる彼らだ。
社会派な本線と恋愛話が絡み合う小説を書かせたら有川先生は天下一品。これで正真正銘「図書館戦争」シリーズは打ち止めとのことだが、みんなが幸せで心残りのない作品に仕上げてくれたことに感謝したい。
余談になるが、現在『三匹のおっさん』の続編を執筆中とのことが児玉さんとの対談の中で語られていた。こちらはジイサンに近いおっさんたちが主役なので色恋沙汰は控え目だが、初々しい高校生同士の恋模様にはきゅんきゅんさせられる。書籍化を楽しみに待ちたい。
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