「虹の彼方に(上)」 福井晴敏(著) 読んだ。
「ユニコーンの日(上・下) 」、 「赤い彗星」、「パラオ攻略戦」、「ラプラスの亡霊」、「重力の井戸の底で」、「黒いユニコーン」、「宇宙(そら)と惑星(ほし)と」に続き、『機動戦士ガンダムUC (ユニコーン)』の角川文庫版の原作本の第9巻。
《ユニコーン》が示した最後の座標へと向かう《ネェル・アーガマ》。それを阻止すべく待ちかまえるのがネオ・ジオンの大艦隊。ほとんど無謀と言える《ネェル・アーガマ》単艦突破だが、それ以外に進む道はないに等しく、フルアーマーに武装強化した《ユニコーン》で道を切り開きながら歩を進めることになる。
また正反対の立場だったものが各々の思惑から共通の目的の為に手を組み始め、もはや敵も味方もごっちゃ混ぜ。戦闘に次ぐ戦闘の果てに失われる数々の命。涙なしでは読めない9巻目だった。
(以下、ネタばれしているのでご注意を)。
呉越同舟から叛乱を経て敵味方がひとつに纏まりはじめた《ネェル・アーガマ》。命懸けになるだろう航行に向け、艦内に取り残されたジオン共和国兵士らには内火艇を与え、全クルーに対しても退艦の自由を伝えるオットー艦長だった。ただ、ジンネマンは自から鍵のかかっていない拘置室に閉じ籠っていた。”マスター”としてマリーダを呪いから解き放ったことで、結果的に《ネェル・アーガマ》の最大の危機を救ったジンネマンだったが、ジンネマン自身は何もかもを失って抜け殻のようになっていた。そんなジンネマンにはバナージの言葉も届かない。
それでも失っただけではないはずだと言い残して拘置室を後にしたバナージは、同じくジンネマンを訪ねようとしていただろうミネバと鉢合わせる。この先の試練に向け、互いに出来ることを確認し合う2人。そして互いを想い合う気持ちを交わし、心と身体で体温を感じあう2人となった。
そして《ネェル・アーガマ》は〈インダストリアル7〉に向けて出航する。フルアーマー化した《ユニコーン》にすべてを託したと言っても過言ではない状況から、重責を背負ったバナージだったが、万全とはいえないが補強を施した《クシャトリヤ》で「背中を守ってやる」というマリーダであり、艦を護る数少なMSパイロットたち、タクヤやミコットといった仲間たちの言葉と思い遣りを胸に冷静に出撃するバナージだった。
ミネバはブリッジからネオ・ジオン艦隊に向けてメッセージを発し続けていた。これが思わぬ方向に作用し、《ユニコーン》の危機を救うことになるのは少し先のことだが、改めて一兵卒というものは何も知らず(知らされず)に戦場に駆り出されているもので、”敵”だから”敵”という固定観念の恐さを感じるところだ。
凄まじい勢いで次々艦隊を操舵不能にしていく《ユニコーン・ガンダム》。ほとんど不可能と思われていた突破も現実味を帯びはじめ、敵の粗方の戦力を削ぐ圧倒的な《ユニコーン・ガンダム》だった。しかしここへきて”稼働限界時間”を迎える《ユニコーン・ガンダム》だ。3機の敵との交戦中に突然《ユニコーン》に戻り、逆に絶体絶命のピンチに陥ってしまう。だか、そこへ現れたのがロンド・ベルのトライスターだった。
《ネェル・アーガマ》を追って宇宙へ上がり、ネオ・ジオンとの交戦後やむ無く《ジェネラル・レビル》に収容されていた彼ら。そして《ネェル・アーガマ》の追跡中に受信したミネバの放送を切っ掛けに、引き寄せられるようにして《ユニコーン》の居る宙域にやって来たという感じだが、なかなかオイシイ登場の仕方だ。バナージは敵対していたはずの彼らの援護に戸惑いながらも、言われるまま3機の動きに同調して回復するまでの時間を稼ぐこととなる。
「真のニュータイプは数では倒せない」と言うフル・フロンタルには艦隊の全滅も想定内のことだったようだ。味方艦隊の半数を殲滅された時点で自らと親衛隊の出撃を指示、そしてアンジェロの《ローゼン・ズール》を《ユニコーン・ガンダム》の元へと向かわせる。バナージに対して異常なまでに敵対心を漲らせているアンジェロ。今度こそ息の根を止めてやると息巻くアンジェロの《ローゼン・ズール》には、対《ユニコーン・ガンダム》用の特殊装備”サイコ・ジャマー”が搭載されていた。”サイコ・ジャマー”は人工的に作り出した感応波によって《ユニコーン》のサイコミュを遮断し”NT-D”の発動を阻害するシステムだった。
そして、トライスターの援護で回復しつつあった《ユニコーン》のもとに《ローゼン・ズール》が現れる。先の交戦から《ローゼン・ズール》の能力を知るトライスターは退いて《ユニコーン》に任せるが、肝心の《ユニコーン》はファンネルのようにまとわりつく”サイコ・ジャマー”によって金縛り状態に。
その頃、《ユニコーン》の後を追う《ネェル・アーガマ》も危機に陥っていた。唯一《ユニコーン》、そして《クシャトリヤ》が撃ち漏らしたの敵艦隊と対峙し、護衛のMSも戦闘不能状態から”的”となってしまっていた。遠く《ユニコーン》の異変も捉えており、誰もが万事休すと腹をくくろうとしていた。しかし、そんなブリッジにジンネマンが現れる。一か八かの作戦を提案するジンネマン。ついさっきまで抜け殻だった男の言う危険な作戦に乗って良いものかと判断に迷うオットーだったが、その目に宿った強い光を信じ、「死んだふり」作戦を決行することになる。結局、「信じる」ことで生まれる何かであり、「信じなくて」は何も生まれないということなのだろうな。
《ユニコーン》と《ネェル・アーガマ》、それぞれに迎えた危機はそれぞれの想いの強さで回避することになった。《ユニコーン(=バナージ)》は真のニュータイプの力を発動させて呪縛を破り、《ネェル・アーガマ》は近くにまで呼び戻した《クシャトリヤ》の援護と共に、敵の心理に読み勝ち一度きりのチャンスをものにした。ただ、《ユニコーン・ガンダム》が覚醒するに至ったのは、トライスターのワッツの捨て身の行動が大きく関係しており、また”サイコ・フィールド”で思惟を重ねあわせてもアンジェロは最後までバナージを拒絶し続け、挙句の自爆行為に失意するバナージだった。
そんなバナージを嘲笑うかのごとく、ようやく姿を現す《シナンジュ》。アンジェロの一部始終を見ていたにも関わらず、ただ見ていただけのフル・フロンタルに怒りを滾らせるバナージ。《ユニコーン・ガンダム》は再びサイコフレームを7色に輝かせ、他の介在を許さない2機だけの激しい戦闘がはじまる。
決着のつかない互角の戦いではあったが、どこか余裕綽々なフル・フロンタル。そこでわずかな隙をついて”サイコ・フィールド”から直接フル・フロンタルの思惟に触れるバナージだったが、彼の世界には何もなく、何にでもなる「無」だと思い知らされることになる。愕然となり逆に闇に取り込まれそうになるバナージ。だがそこに介入してきた”光”、マリーダの声に呼び戻されバナージは我に帰ることができたのだった。そのまま満身創痍の《クシャトリヤ》で《シナンジュ》との戦闘を引き継ぐいうマリーダ。バナージは断腸の思いを馳せつつ〈インダストリアル7〉へと《ユニコーン・ガンダム》を転進させた。
ところが、である。〈インダストリアル7〉を目前にして待ち伏せしていたものが居た。黒いユニコーン《バンシィ》、パイロットはリディだ。
次から次へと繰り返される戦闘。機体のダメージは左程ではないもののバナージの疲労は極限状態だ。兄弟機であるがためにサイコフレームの共振はこれまで以上のものとなる。オマケに《ユニコーン》1体分相当のサイコフレームを積んだアルベルトの乗るベースジャバーが近隣の存在し”サイコ・フィールド”が広がってゆく。
バナージの、良く言えば無垢さでありその正直さは、一度でも闇に取り込まれてしまった人間には眩しすぎるモノと思う。勝ち組と負け組を強く意識させられる存在。前向きに変化を受け入れて強い意志を持って発せられるバナージの言葉は、アンジェロにしろ、リディにしろ、彼らの劣等感を掻き立てるばかりにも感じられた。頭では解っても心がどうしても許さない。だからバナージが懸命に説得しようとすればするほど逆ギレを誘発させて悪循環を生む。
結局、自分という殻に閉じこもってしまえば、どんな場であろうとも同じってことなのかもしれない。何も聞かず、聞こえず、変わらない世界に浸る者。それはフル・フロンタルの言うところの「器」の理論にも通じるところか。
錯乱したリディのしでかした最悪。話の流れから彼女には死亡フラグを感じていたが、これは泣けた。ニュータイプらしい残留思念と関係深い人々の最期の対話に涙が止まらない。(「・・時がみえる」には泣き笑いしちゃったけど)。
「虹の彼方に」を上・下に分け、上巻をここでしめたのはさすがと思う。このような展開では一息入れたくなるし、余韻にも浸りたいと思うから。最初、同時に発売されないと知った時は「一気に読ませてよ」って思っていたんだけどね。
・・そして茫然自失の《バンシィ》とリディを残し、《ユニコーン》と《ネェル・アーガマ》は犠牲を悼む間もなく目的地へと急ぐのだった。
次巻:最終巻は「虹の彼方へ(下)」。発売予定は5月下旬かな?
本当の最終決戦はこれから。「ラプラスの箱」の謎もこれから。そして《ネェル・アーガマ》であれ、ネオ・ジオンであれ、「箱」を開示されるくらいならば、〈インダストリアル7〉のコロニービルダーごと破壊して「箱」を消滅してしまおうとの企みも進行中。(そんなことを企む冷酷無比な人間は決まっているが)。”コロニーレイザー:グリプス2”。いやはやそんなものがまだ残っていたとはね。とはいうものの、ガンダムに大量破壊兵器は付き物だもんね、不思議じゃぁない。それでもブライトさんがそのことに気が付いたようだし、阻止できるか否か。(とはいえ、ガンダムでは必ず2度3度撃たれるから、やっぱりそういう展開にはなるんだろうなぁ)。
DVD&Blu-ray 第3巻:episode3『ラプラスの亡霊』は4月7日発売予定。今のところ再延期の情報は出ていないので後2週間ほどとなり楽しみにしている。
ところで、文庫本の3月最新刊を印刷した折り込みチラシの「虹の彼方へ(上)」の欄に”映画化”のしるしがあるのは何だろう?今更劇場でのイベント上映を指すとも思えないけど、もしかして劇場版『機動戦士ガンダムUC』をやるのかな?DVD&Blu-rayは結構な完成度と思うけれど、どうなんだろ。
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