「宇宙(そら)と惑星(ほし)と」 福井晴敏(著) 読んだ。
「ユニコーンの日(上・下) 」、 「赤い彗星」、「パラオ攻略戦」、「ラプラスの亡霊」、「重力の井戸の底で」、「黒いユニコーン」に続き、『機動戦士ガンダムUC (ユニコーン)』の角川文庫版の原作本の第8巻。
ブライトさんの画策から、とうとう宇宙に上がった《ガランシェール》と《ネェル・アーガマ》が合流した。そして連邦軍もビスト財団も、袖付きをも出し抜いて《ユニコーン》が示した次なる座標を目指す《ネェル・アーガマ》。ミネバとバナーはようやく手を取り合えるだけの距離まで接近し、いよいよクライマックスが見えてきた8巻目となった。
周囲の裏をかいて接触した《ガランシェール》と《ネェル・アーガマ》だが、座標の探索は隠密裏に行わなければ意味がなく、ジンネマンらは断腸の思いで《ガランシェール》を降り、座標ポイントとは逆方向に自動航行させて連邦と袖付きを欺く作戦を決行する。そしてまんまとおびき出されたフル・フロンタルら袖付きと地球から追跡してきたナイジェルらトライスターが合流したロンド・ベル第3群が鉢合わせることに。一杯喰わされたことに気がついたフル・フロンタルはあっという間にロンド・ベル隊を撃沈。直ぐに《ネェル・アーガマ》の追撃に取って返すがかなりの遅れを取ることとなった。母艦は失ったもののフル・フロンタルに対して好戦したナイジェルらはしぶとく生き残り、連邦の巨大艦《ゼネラル・レビル》と合流することとなる。また《ジェネラル・レビル》には先にアルベルトとリディが乗艦しており、《バンシィ》がリディの搭乗機として収容されているというオマケつきだ。
一方《ネェル・アーガマ》艦内は奇妙で重苦しい空気に包まれていた。作戦からジンネマン隊とミネバ、そしてバナージは《ネェル・アーガマ》に乗り移らなければならなかった。互いに持つ積年の恨みを一気に水に流せるほど人間は簡単な生き物ではない。バナージはきっと分かり合えると信じているようだが、「ラプラスの箱」に関わったばかりに互いに似たような境遇に陥ったことで甘んじて手を取る結果になった、という意識が両方のクルーに根づいているのは明らかだった。それでも同じベクトルに向かっていることで情報の共有化行われ、合流時に《ユニコーン》が放った虹色の光については、かの《アクシズ・ショック》時に観測した光と同質のものではないかという仮説や、バナージの出自などが全クルーの周知となった。
そして次なる座標「L1ジャンクション」に到着する《ネェル・アーガマ》。バナージはミネバを伴って《ユニコーン》で座標の探索を開始する。ようやくミネバと2人きりで話す機会が得られたバナージは「ラプラスの箱」や「ニュータイプ」についての自分の考えや思いの丈をオードリーに熱く語る。
どうもバナージはミネバとオードリーを分けて知覚しているところがあり、あくまでもバナージは”オードリー”という少女に好意を抱き、守るべき人と思っているように思う。ミネバもオードリーとしてはバナージに心を寄せているのがわかる。残念ながら今回は決定的になりそうなところで邪魔が入っちゃったけどね。(やっとなんだからキスくらいさせてやれよって思うんだけどねー)。
無線が入ったことで現実に引き戻された2人だが、そうした甘い時間がバナージの覚醒を促す切っ掛けにもなった。ラプラスの史跡の時と同様、座標に到達しても何事も起こらず何も発見できないでいたが、オードリーとの会話から父:カーディアス・ビストとの再会と託された《ユニコーン》についてに思いを馳せ、これまでの軌跡をたどったバナージは唐突にひとつの答えに到達する。すると《ユニコーン》は戦闘とは無関係に《ガンダム》へと変化してNT-Dを発動させ、新たなる座標を開示したのだった。その予想外の座標には「これが最後の座標」だと確信するバナージとミネバだった。
ところが、それを見越すように《ネェル・アーガマ》内では異変が起こっていた。艦はジンネマンらによって占拠されていた。ジンネマンにしてみれば例えどんな状況に陥ったとしても、連邦と和解するなどあり得ない事で、密かに武器を持ち込み、悟られないよう味方に暗号を送り、虎視眈々合流の機会を待っていたのだった。
ミネバも心の中ではそうなるだろうことを予感していた。哀しいことにミネバは自分は”ミネバ・ザビ”であること、臣下たちの境遇であり心中を正しく理解しているのだね。本心から名を捨てる覚悟はあっても、その名を最大限に生かす場を心得ており、それが実行できる人物なのだ。連邦側としても想定内事態だが、”ジオン共和国軍”の参戦という不意を突いた作戦であり、決断をバナージに委ねるしかないとあっては結果は見えている。バナージがミネバを盾にするなどあり得ないのだから。
ジンネマンの裏切りに失望し、憎悪に満たされたバナージは反撃の姿勢を見せるものの、悲鳴にならない悲鳴を上げて苦悶するミネバを自覚して全てを制止させる。そしていつのまにか到着していたフル・フロンタルには最後通告を突きつけられる。切り札を手の内にしながら成す術なしバナージに対して、逆に行動を起こしたのはミネバだった。バナージに銃口を向けて《ユニコーン》を投降させるミネバ。またしても信頼している者の裏切りに打ちのめされるバナージだ。
ジオンの制服をまとい姿を現すミネバに共和国軍兵士から「ジーク ジオン!」の唱和がこだまする。艦のクルー全員を人質に取られ、失意のなかで最終座標を問いただされるバナージ。けれど既にミネバも座標を知っていることから話は意外な方向へと流れる。座標と引き替えに「ラプラスの箱」を手に入れた後の真意をフル・フロンタルに質するミネバ。そしてオープンチャンネルを開き、《ネェル・アーガマ》に乗艦している全ての人に聞かせる形でフル・フロンタルに語らせるのだった。答えは”連邦(地球)を蚊帳の外に置いたサイド共栄圏の構築。そうするだけで自活できない地球は立ち行かなくなり、やがては立場すら入れ替わるだろうということで、その為の時間稼ぎに使うということらしい。どこぞの国の話のようで微妙に身につまされる感じだがそれはともかくとして、フル・フロンタルの話はスペースノイドたちにとっては辻褄のあう話に感じられる。
けれど、である。結局は調和も協調も対話すらも望まないという意味であって、これまでとは何も変わらない、それどころか最終最悪の手段であり、結果だけが重視された茶番でしかないのは明らかだった。なんの感情も持ち得ないフル・フロンタルの不気味さに危機感を強くしたミネバは、約束どおり座標を伝えるものの、同時に決意をもって行動を起こすことになる。
ミネバの裏工作からタクヤとミコットらの働きでようやく連邦軍は艦の奪還をはたす。そしてマリーダの戦線復帰による逆転劇。最後まで頑なだったジンネマンもマリーダが引き戻した。思わぬ状況から敵味方の垣根を越えてひとつになる《ネェル・アーガマ》の人々。そして、先行するフル・フロンタルを追い、最終座標にして始まりの地へと向う《ネェル・アーガマ》となる。
「裏切り」に何度も傷ついたバナージだった。それでも恋するオードリーであれ、ジオンのミネバであれ、何があっても”彼女”を「信じる」と決めた心を貫き通したバナージの勝利だとも言えそうだ。ホント男になったものだ。ジンネマンに対しても信じる心を失なわずにいたからマリーダに訴えることが出来たし、タクヤとミコットもミネバを「信じる」ことで現状を打開する機会を得たと思えば、「信じた」結果のパワーは果てしなく、無限の可能性すら内包しているように思えてくる。
とにかくバナージの成長は目覚ましく、歴代ガンダムパイロットの中でも最短で真の覚醒をしてしまうキャラなんじゃないかな?
次巻は「虹の彼方へ(上)」。発売予定は3月下旬。いよいよ最終決戦・・・ではあるけれど、今回は絡みのなかったリディらも打倒《ユニコーン》で追跡中だし、つなぎの上巻でじらされそうな気配。ひとつでも決着が見えると良いのだけど・・・。
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