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2010/11/28

「黒いユニコーン」 福井晴敏(著) 読んだ。

Uc

「ユニコーンの日(上・下) 」「赤い彗星」「パラオ攻略戦」「ラプラスの亡霊」「重力の井戸の底で」に続き、『機動戦士ガンダムUC (ユニコーン)』の角川文庫版の原作本の第7巻。
突然現れたマリーダの乗る”黒いユニコーン”=《バンシィ》に捕えられ、今度は《ラー・カイラム》に収容された《ユニコーン》とバナージ。もとより《ガランシェール》に戻る術など持っていなかったバナージだから必然の成り行きではあるけれど、バナージの覚醒も進み、いよいよ成すべき方向性が見えてきたような第7巻と感じた。

リディも《デルタプラス》と共に乗艦していた《ラー・カイラム》。マーセナス家として先手を打ったつもりだったが、それよりも上手だったのがマーサ・ビスト・カーバイン。《ユニコーン》確保の実績から優位性を示し、連邦軍参謀本部に手を回してほとんど《ラー・カイラム》を私物化。更にマーセナス家に軟禁状態のミネバを差し出すように通告。すべてがマーサの思惑どおりに運んでいった。ただひとつ、バナージの頑なな黙秘以外には。
ダカールでNT-Dを発動させたことで次なる座標は開示されていた。しかし《ユニコーン》の表示はバナージの拒絶で封印され、宇宙で監視していたフル・フロンタルも地上の情報を受信できず、現在次の座標を知っているのは《ガランシェール》とバナージ自身だけだった。
マーサのミネバの引き渡し要求はバナージを従わせるための人質であると同時にネオ・ジオンに対する牽制の意味もあっただろう。けれどその姑息さが必要以上にこれまで関わってきた者たちを呼び寄せ、結果自らの首を絞めることになるのだから、なんだか嬉しくなる展開だ。それぞれが自分の信念に基づき、今すべきこと、正しいと思うことに全力を注ぐために集結する。成り行きだとしても組織の枠すら乗り越える、って光景は見ていて気持ちが良いものだ。

とにかく、今回はバナージの踏ん張りが時間を稼ぎ、好条件を引き出した。また折れそうになった時に何故か必ず手を差し伸べてくれる大人たちが現れるのも、バナージが「それでも」と頑張り続けようともがき苦しんでいるのが感じられるから。ダグサさんしかり、ブライトさんしかり。彼ら大人は自分に出来ない(出来なかった)ことを”子供”に託すなんてどうかしてると思いながらも、自由な子供が創り出す未来に賭けてみたくなるような何かをバナージから感じ取り、思わずつき動かされてしまったという感じだろうか。けれどそれは一方的な親心に近いものかもしれず、無償の愛情とおんなじ。そしていわゆる親の心子知らずで、バナージにしてみれば危機的状況を救われた事実に恩義を感じ、自分を肯定してくれる言葉から勇気を貰ったことに感謝しつつも、そこにそれぞれの様々な想いが託されていたことなんて知る由もなく、だから振り返らずに突っ走っていけるわけで、子供の特権だよなぁーってしみじみ思うところだったりする。(それは現在の自分自身の立ち位置が、ファースト時のアムロから、ユニコーンでのジンネマンやブライトに替わってしまっていると自覚しちゃったってことなんだけど)。
バナージと《ユニコーン》が放った虹色の光。バナージによる「《ユニコーンガンダム》は、伊達じゃない」には笑わせてもらったけど、これは希望の光だよね。

バナージに次いでの功労者はやはりジンネマンだろうか。当初は上の命令を厳守し、ミネバの言にも耳を貸さなかったジンネマンだったが、フル・フロンタルの真意を察して踵を返す行動力からして、信じるに足る数少ない大人だ。身体を張ったマリーダ奪還劇は涙もので、バナージの若さに当てられた大人のひとりとも言えそう。
また、影の功労者といえるのがブライトさん。ロンド・ベルの司令兼《ラー・カイラム》の艦長でありながら軍や財団を前にしては相変わらずなんの力も持ち得ない存在。けれど、歴代のガンダムパイロット達と何度も苦難を乗り越えてきた苦労人のタフさは半端なく、彼の言葉はどこか重みが違う。不器用ながらも世渡りもしっかり学んだブライトさんの狸っぷりが実にいい。
そして久しぶりに頑張ったのがミネバ。これまでは知識だけで世間知らずを露呈しただけのヒロインだったけれど、漸く自分の未熟さを自覚し、萎えそうになりながらも懸命に自らを奮い立たせて抗おうとする姿勢を見せ、今度こそ覚悟を決めたところがカッコ良かった。生まれながらのお姫様が女王に生まれ変わろうとしているようで、この先バナージと共にどんな風に闘っていくのか楽しみになった。
対して、どんどんダメダメになっていくのがリディ。マーセナス家に伝わる「ラプラスの箱」の秘密を知ってからというもの、何をやっても空回りのリディ。男としての底の浅さを見透かされ、ミネバにこっ酷くフラれちゃったしね。イイ奴なのは確かだからこのまま落ちぶれることはないだろうけれど、ダメージに対する弱さは知るところだし、彼が自分で失恋の痛手と「ラプラスの箱」の呪縛に打ち勝たなければ好転はありえない。だとすれば永遠にバナージとは相容れないだろうし、次のに立ちはだかる(邪魔をする)のは彼かもしれないな。
もともとダメダメのアルベルトは遅く来た反抗期真っただ中という感じ。マリーダに淡い恋心を抱きながら、プルトュエルブの(仮)マスターの役目を担うのは彼にはちょっと重荷だったようで、暴走し始めたプルトュエルブを止める事ができず、自分の手の中から逃れて行ってしまっとたん逆ギレ。しかも矛先を全部バナージに向けてしまうから困ってしまう。シブトさも人一倍だし、リディと共に甘ったれフラレ男同士で”打倒バナージ”とかやりそうでコワイかも。

とりあえず、バナージは《ラー・カイラム》に収監されたものの、ジンネマンらとジオンの残党による奇襲によって脱出に成功し、《ユニコーン》ともども《ガランシェール》に合流した。一連のドサクサから《ラー・カイラム》に移送されていたミネバをも救出、再教育を施されたマリーダも死闘の末に奪還し、ブライトさんの粋な計らいから《ネェル・アーガマ》とランデブーした《ガランシェール》となった。なかなかあと一歩のところで正気に戻らないマリーダやリディのウダウダにイラつきながらも、終わってみればほとんど望む結果に辿り着いていた。
開示された座標を知るのは彼らだけで、おそらくこんどは連邦軍からもネオ・ジオンからも追われる身となっただろう。けれどジンネマンは最後まで《ネェル・アーガマ》とのランデブーを拒み、結局シブシブといった状況にある。共通の目標を持ったとしても組織的な敵対心以上に個人として恨みつらみを持つ者同士、そう簡単に和解して共闘出来るほど人間は器用な生き物ではない。でもそれこそが第一歩で、一筋縄とはいかなくても覚醒が進むバナージと真の力を見せ始めた《ユニコーン》によって徐々に改善されていくのではないかと予想(期待)する。

トリントン基地でのさながらMS品評会はアニメ化が楽しみ。ブライト役の後任者も気になるところで、出来れば劇場のスクリーンで見たいなぁ。

次巻は「宇宙(そら)と惑星(ほし)と」。発売予定は来年1月かな?

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ラー・カイラムに捕まってしまったバジーナ・リンクス。黒いユニコーンに乗るマリーダとの戦いは、ガンダム vs ガンダムですね。 [続きを読む]

受信: 2011/07/07 23:17

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