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2010/11/02

「猫物語」(白)西尾維新/著

Neko_siro

実は「白」の発売は延期になると踏んでいたため慌てて読んだ「黒」で(予約で購入してしたにもかかわらず)、土日で黒白2冊を読み切った『猫物語』だったりする。でも「黒」と「白」はこれまでの上下巻のような関係ではなく全然別の話。副題も「黒」は【つばさファミリー】で「白」は【つばさタイガー】。そして何より「白」は羽川翼自身が語り部になっているほどに異なっているので続けて読む必要はまったく無く、告知通り『猫物語(白)』から新章がスタートしていたのだった。(あとがき風に言えば「黒」までがファーストシーズンで、「白」以降の6作がセカンドシーズン)。・・にしても、まさかこんなに泣かされるとは!羽川視点によるところが大きいかもしれないけれど、最低3回はボロ泣きした。
暦といい、戦場ヶ原といい、経験値が増えてキャラが成長(変化)しているし、これまでとは一味違う雰囲気だけど一気読みさせる勢いは同等以上だったかも。(暦視点だとどうしても変態度が過ぎて引いてしまうところがあるし?)

時系列で言えば直近、つまりは最新の出来事であるこの物語。バッサリと髪を切った羽川翼であり、戦場ヶ原ひたぎ。すっかり毒気の抜けた戦場ヶ原で羽川とは友好的な関係を深めるところまで行っている。暦はすっかり忍と和解して共生関係を続けており、妹たちには戦場ヶ原を紹介し終わっている。(これらの全てが夏休みのまでの間に片がついたということだ)。ところが平穏は日々は長くは続かず、2学期の初日で新たなる怪異が現れてしまう。「虎」の怪異に出逢う羽川。そして暦は行方不明。

『猫物語(白)』は完全に羽川の物語になっている。語り部が羽川なのも「虎」の怪異が羽川だけの問題であり、ほかの誰も(暦でさえ)手の出しようのない怪異だというところがこの物語の肝。この期に及んでも誰にも「助けて」と言えない羽川の気付きこそが唯一の解決法ということで、2度に渡って”障り猫(ブラック羽川)”を退治した”姑息療法”では解決しきれなかった根っこの部分に対して今度こそ正面から向き合うというものだった。例えて言うならば、痛覚を失った人間が致命的に危険な状態であることと羽川は同じような状態に自ら陥っていたということだ。よって暦の行方不明はまったくもって別件で(おそらく後のどこかの物語で明かされるものと思うが)今回は一切無関係である。
とはいえ、暦がのっぴきならない状況に陥っているのは明らかでそそられるし、名前だけで今回は登場しないの?って思わせておきながら期待通りのタイミングに登場させちゃうあたりが絶妙だ。登場させないことで逆に存在感を増大させる作者の思惑に見事にはまってしまうし、見せ方(じらし方)がホント巧いなぁって思う。そして羽川に対する暦の粋な対応も素敵だった。実に暦らしい言動ではあるけれど、語り部が羽川の分だけ恋する乙女フィルターまでがしっかり掛けられており、とにかく誰もが惚れちゃうような、笑っちゃうくらいに格好良い男になっちゃった暦なんだもんなぁ。これぞ私たちの愛すべきヒーローって感じで。
漸く全てを受け入れ、口に出すことで想いに決着をつけた羽川翼。本当ならば先着順で相思相愛になっていたかもしれない暦と羽川。個人的には戦場ヶ原派なので、羽川に(羽川に限った事でもないが)優しすぎる暦には「うーん」と思うのだけど、それが暦という男だし、それでいて思わせぶりにすることなくハッキリと自分の意思を伝えられる暦なので心配はいらないんだけど。(戦場ヶ原もそういう暦だから大好きで、信頼しているわけで、器が大きいよね)。私としても女性視点から暦ってキャラに惹かれるるところがあるし、大好きだなーって改めて思った次第。(「あの変態性さえもう少し控えてくれたら良いものを」とは思うけど)。

次巻は『傾物語(まよいキョンシー)』、12月発売予定だそうだ。次は真宵ちゃん視点の語り部:真宵なのだろうか?それは「白」での空白の25章分の話なのか、また別の話なのか、果たして真宵フィルターでの阿良々木暦ってどんなヤツなのか、実に楽しみだ。(イヤ、そうと決まったワケじゃないのだが)。

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コメント

初めまして、ほびーと申します。
たいむさんの物語シリーズ評は「傾物語」の時(2011年1月ということですから、もう2年半も前ですね…2年半!たいむ、感じます)からとても興味深く読ませて頂いてます。

既に「暦物語」も読み、たいむさんや瞬光さんの書評もまた面白く拝見させて頂きました。
そして最近、改めて「白猫」を読み、今更ながらぜひ感謝のコメントを書こうと思い至った次第です。

前置きが長くなってしまいましたが…
私も「鬼物語」からこっち、遅々として話が進まない物語シリーズに飽きが来ておりました。
所々で重要そうな伏線が提示されるものの、総量として物足りない…
たいむさんのように上手く言葉にできないのがもどかしいんですが、キャラメルコーン買ったら八割ピーナッツだったみたいな、お腹いっぱい感というか。
自分は「暦」は短編集として許せたんですが、「鬼」や「憑」はかなり残念でした。

そこでふと「もしかして、熱が冷めたからつまんないのかな」と気になって、たいむさんの書評を見返して、一番好評そうな「白猫」を読み返してみました。

いやー…

やっぱり、今でも3回はボロ泣きしそうになりましたw

「白猫」や「傷」、「傾」は熱がありました。
最近は「塾跡の話まだかー!」とか「結局くらやみと扇は何なんだー!」とか、謎解きに目がいっちゃってたんですが…
この時期の物語シリーズは、たいむさんの言う「読後の爽快感」だけで感動できちゃうくらい、本当に熱がありましたね。
伏線や謎なんか関係なく、描写や展開で感動させられてたんだと、改めて思い知らされました。

…何だか長々とつまらない話を書いてしまって申し訳ないですが、たいむさんの2年半前の書評のお陰で、物語シリーズの面白さを再確認することができました!という、感謝を伝えたくて、恥ずかしながらコメントさせて頂きました。

これからもたいむさんの書評、また瞬光さんのたいむさんの対談?を楽しみにしております!
駄文長文、失礼いたしましたm(_ _)m

投稿: ぼびー | 2013/07/14 16:53

■ほびーさん、こんにちは
はじめまして。
そう言えばもう2年以上も経っているんですね。
まさかアニメでシリーズ全部をやることになろうとは・・・という感じですが、結局「白」アニメも観てしまっています。

でもそうですね、今現在として振り返って、ここまでだったかなぁと思っています、本当に面白かったのは。
ほびーさんが今感じていることも、少なからず当たっているような気がしますから。
実際私もそうですし、それは「暦」まで全て感想を読んでくださっているのならば、どれだけ残念に思っているかわかっていただけるかと思います。

私としては、キャラメルコーンならばもう少しピーナツが入ってて欲しいなぁと思うところですが、おっしゃるようにあくまでも主役はコーンであって、口休めとして味覚を変えてまた新鮮にコーンが食べ続けられる程度に散りばめられたピーナツの塩加減が望ましいわけで、それがピーナツ過多となってはどちらも生きないですよね。

でもまぁ「大人の事情」云々であり姑息な販売戦略を非難したところで状況が変わるものでもないですし、忘れた頃にやってくるのペースでも、作家のプライドと意地で読者を途中放棄させない魅力をもって繋げてくれるのならば、見届けてやろうじゃないのってくらいの気持ちはまだある、といったところでしょうか。
小説の内容で読者を裏切るのは歓迎だけれど、完結させないとか、未解決のまま棚上げしちゃうとか、読者の気持ちを裏切ることだけはないことを祈っています。

久しぶりに自分の書いた感想を読み直すことになりましたが、私自身もこのころは熱かったなぁと懐かしく思いました。
最近はそれ程まで熱中できる作品もないので尚更に。
だからではないけれど、せめてシリーズものには頑張ってもらって、私自身にも昔の勢い取り戻させてくれたらなぁ~と思うところです。

「白」は切なくも清々しい結末がやっぱり良いですよね。先のことは考えず、とりあえず今はアニメを楽しもうと思います。

投稿: たいむ(管理人) | 2013/07/15 10:37

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