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2010/11/08

「ブレイズメス1990」 (著)海堂 尊

Blazemes1990_3

『ブレイズメス1990』は『ブラックペアン1988』の続編にあたり、『チーム・バチスタの栄光』ほか田口&白鳥を中心にする“桜の宮サーガ”のサイドストーリーのひとつで、田口らから数年先輩にあたる世良雅志がまだ研修医であり、高階病院長が未だ講師だったころのエピソードが描かれている。 まさかサイドストーリーにまで続編が次々発表されるとは思っていなかっただけに、「チーム・・」の頃には姿が見えなくなっていた世良の空白期間が埋められたことを嬉しく思ったが、余計に謎が深まった感もあり、「これから」というところで終わったことからも最後は脱力。10数年後の未来がわかっているから尚更にどうなっちゃったの?ということで、更なる続編を期待する感じだ。

タイトルのとおり、前作から約2年後のお話。世良はほかの同期と同じく1年半の間外部研修に出向しており、この春大学に呼び戻されたところから始まる。意気揚々戻ってきたものの、実はそれ自体にも計算が働いており、この先陰謀にも似た計画にがっちりと絡みとられて行くことになるなどまったく知る由のない世良だった。
計画立案者はもちろん佐伯病院長。後継者問題も含めて兼ねてより考えてきた総合外科教室の解体と再生という荒療治の第一歩として、モナコ在住の天才心臓外科医:天城雪彦という革命児を佐伯教室に招聘したのだった。天城は”ダイレクト・アナストモーシス”という自分にしか出来ない高度な心臓外科技術を確立しており、施術を希望する患者が後を絶たない状態になっている。しかし天城は独自の論理とポリシーから“カネとバクチ”によって患者を決定するシステムを実践するような、医師の風上にも置けない異端者でもあった。
ものの正否問題はともかく、ここまで規格外の闖入者となると拒絶反応が起こるのは当然のこと。佐伯も天城も世良でさえも教室の反発は想定内だったが、最初から“天城招聘ミッション”に一役咬まされていた世良はそのまま天城の世話役を命じられるという貧乏くじを引くことになる。(世良も天城の賛同者ではない)。
佐伯の計画はその目的を達するために必要と考えた“心臓専門”の施設の設立で、具体的には「スリジエ・ハートセンター」の創設だった。一切合財を天城に丸投げする形の計画。天城は佐伯の真意も策略も何もかも承知の上で話に乗った部分があるので、成功でも失敗でもなるようになるといった考えでいるようだが、病院中が“寝耳に水”を食らった挙句、全てがほぼ事後承諾という強引なやり方は更に反感を招くことになる。
最終的には誰にも有無を言わせないだけの実力を見つけた天城で、構想も着々と進んでいるかのように見えたが、それでも「スリジエ・ハートセンター」創設は前途多難の船出といえそうだ。
・・世良が天城を日本に連れ帰る経緯とか、「スリジエ・ハートセンター」の実現化に向けた天城の策などは小説で確認して貰うとしても、大まかなストーリーはこんな感じだ。

まったく選択肢を与えられなかった世良についてだが、一応直接的に不利益をこうむることはなかったといえる。しかし10数年後の未来には佐伯はもちろん、天城も世良も東城大に居らず、「スリジエ・ハートセンター」が存在していないことを鑑みると、なんとなくその後が分かるというもの。(『アリアドネの弾丸』によれば最終的に高階が鬼門になったと推察される)。けれど、『極北クレイマー』では予想外の再登場を果たした世良。その手腕は『極北・・』で匂わされ、『アリアドネ・・』にて別のカタチで披露されることにもなった。一体どうしたらそうなるのかそのまんま疑問として残るわけだが(彦根と懇意にしているところも怪しげだし)、高階配下から天城の助手に移ったことで多大な影響を受け、天城の豊富な人脈に触れることで独自のスキルを構築していったのではないかと想像するところだ。また、まだこの時期は花房さんと良い関係を保っていた世良だが、翌年に“ジェネラル・ルージュの伝説”の発端となる事件が起こっていることからも、幸せな時期はほんのわずかだったと思われる。いずれもいつか真実が明らかになることを楽しみにしたい。

”桜宮サーガ”というだけあり、ますますクロスオーバーが盛んになっていると感じる。田口&白鳥シリーズは現在進行形の作品だが、過去の穴埋め作品が増えるにつれて全てにおいて深みが増しているように思う。作者には、どうか矛盾のないようサーガを完成させていって欲しいと願っている。

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コメント

たいむさん、こんばんは!

こちらの過去篇シリーズ(?)と田口・白鳥シリーズのミッシングリンクとなる作品が待たれますよね。
いよいよ桜宮サーガも大きな話となってきましたよね。
やはり「極北クレーマー」も読まなくちゃいけないなあ。

投稿: はらやん | 2010/11/11 20:49

■はらやんさん、こんにちは
次の新刊が来月発売されそうですが、また更に未来に飛ぶみたいで・・。
巧くじらされているようですが、またこの時代に戻ってくれることを期待してます。

「極北・・」は左程急がなくてよいと思いますが、読者としてはサーガを網羅したくなりますねw

投稿: たいむ(管理人) | 2010/11/14 16:26

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