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2010/10/18

『アリアドネの弾丸』 (著)海堂 尊

Ariadonenodangan

久しぶりに田口&白鳥コンビが復活!
神経内科医の医師と厚生労働省の役人の異色のぼこぼこコンビが医療事件の謎を解き明かす作風で人気の高いこのシリーズ。けれど、巻を重ねるごとにエンタメ色が減り、現実の暴露と問題が強調され、解決するための方向性までが示されたどことなく偏った作品になって行き、前作『イノセントゲリラの祝祭』では登場人物が筆者になりかわって声高に訴え、妄想がそのまま現実になるような展開が見られる作品になっていたが、今回の『アリアドネの弾丸』は陰謀と殺人事件が絡み合ったエンタメ性の高い物語に戻った、という印象を受けた。
(以下、若干内容に触れているのでご注意を)

物語は、高階東城大学病院長のもと、遂に“エーアイセンター“が旧碧翠院桜宮病院跡地に設立されることになり、田口がセンター長に抜擢されるところから動き始める。“エーアイセンター”は既に関係者らの意見が取り纏められており建設中だ。ところが「センター長」を決定する段階に来て、それぞれが優位に立つべく主張し合い、話し合いは延々平行線をたどっていた。そこにとあるオブザーバーから提案がなされ、まったく無関係でもなくそれなりの立場にある田口に白羽の矢が立てられ、人畜無害も手伝って全快一致の結論に達したという次第である。
田口にしてみれば晴天の霹靂。高階病院長による厄介事の丸投げが目に見えているだけに粛々と辞退しようとあがくものの、外堀どころか内堀までしっかり埋められていて逃げ道などひとつも残されておらず、ただただ泥沼の渦中に引きずりこまれていくことになるのだった。そして困ったことに傀儡センター長であることは関係者には周知の事実。たよりないセンター長の下には関係機関・部署からそれぞれに副センター長就任要請があり、田口が自発的にもぎ取った2枠を含めて7人もの副センター長が着任する奇妙な組織が出来上がる。

前作が司法と行政のしがらみとか確執とかを浮き彫りにするものだとすれば、今回は司法と医療の対立、対決といっても良さそうな話。”医学”という括りでは同じでもまったくその性質を異にする法医学と医療。”エーアイセンター”ではその2つの同居を必要とするもので、権力争いの構図が出来上がるのも必然というもの。この小説の中では限りなく胡散臭いのが警察庁が関与している司法側として描かれており、臭いものには蓋、出る杭は打つことで”死因不明社会”を作り出している元凶とされ、叩けばいくらでもほこりが出る状態になっている。どこまで真実なのかはわからないが、まったくのでっち上げというには生々しく、多かれ少なかれなものと想像するが、小説であれ何であれ、こうした話題を取り上げる何かがなければ流されるままなのが一般市民であり、何事も知らないでいることの恐ろしさを痛感させてくれる小説であることには違いないと思う次第。

話が脱線したが、一応田口センター長主導のもとでスタートした“混沌エーアイセンター運営連絡会議”が繰り返される中、”エーアイセンター”がらみでひと足先に東城大学病院に導入された新型MRIコロンブスエッグの周囲で次々に死人が出ることになる。辻褄は合っており、医学的な所見にも矛盾は視えないのだが、どこか納得のいかない不可思議な事件。しかも犯人は高階病院長だというのだからこれは最初から仕組まれた罠だとしか思えない。
ギリギリの状態でその不可解さを解きほぐし、論理的に真実を導きだすのが田口が苦肉の策として“混沌エーアイセンター運営連絡会議”に招聘した白鳥だった。白鳥の要求を具現化した最終兵器:彦根新吾の相棒:桧山シオンの功績も高い。
正直、高階病院長の事件に関する不可解な謎の部分に関しては、現場の”環境”を考慮すればトリック位は簡単に閃く程度のモノだと思う。また本物の銃声を聞いたことがない場合、何かが弾ける音がした後、誰かに「銃声だ」と叫ばれでもしたらそのまま鵜呑みにするのが一般人だと思うわけで、そうしたトリックはほとんど『名探偵コナン』並みだ。けれどそれを具体的な証拠を持って証明しなければならないとなるとそう簡単には行かなくなる。

病院長が収賄・殺人の容疑で逮捕、病院に強制捜査が入ったとなれば東城大病院は崩壊する。ワナを仕掛けたのは明らかに警察側であり、強制捜査というタイムリミットが設けられた八方塞がりの中での逆転劇を楽しませてもらった。結局のところ完勝とまでは行かなかったが、読後感はすっきりとしたものだ。(最後の最後にはちょっぴり不穏な後味も残るが)。
崩壊を免れ逆に一歩前進したと思われる東城大病院。しかし伏兵はまだそこかしこに潜んでおり、前途多難かつ波乱万丈な桜宮サーガはまだまだ続くと思われる。田口と白鳥の次なる再会を楽しみに待つ!

余談だが、これまで桜宮サーガに登場してきたあの人この人が色々と再登場している。名前だけだったり、電話越しだけだったり、匂わす程度でありがなら確実に誰なのか分かる人物なども含めてかなり登場していた。サーガとして中心にあるのはこの田口&白鳥シリーズだろうが、このシリーズをより楽しむためには関連小説を網羅するのが良いと思う。そういう私もいくつかすっ飛ばしてしまったが、『極北クレイマー』は今後のためにも特に読んでおいたほうが良いように思った。

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コメント

たいむさん、こんにちは!

「バチスタ」の頃の雰囲気に戻った感じがありますよね。
ミステリーっていうほど複雑ではないですけれど、タイムリミットサスペンス的なところはあるのでエンタメとしては楽しく読めました。
僕も「極北クレーマー」は飛ばしてしまっていたので、読まなければと思っています。

タイトル間違いご指摘ありがとうございました・・・。
完全に思い込みでした。

投稿: はらやん | 2010/10/31 09:52

■はらやんさん、こんにちはsun
>タイムリミットサスペンス
そうそう、この設定って勝利は分かっていても燃えますよね(^^)
ここのところエンタメ性よりメッセージ性が強くなっていたため離れるファンも多かったようだけど、これならばって感じに戻ってくれてより楽しめました。
早速読んだ「極北クレイマー」はエピソード事態は関係ないけれど、登場人物的にかなりリンクしていました。急ぐ必要は無いけれど、読んでおいたほうが良いと思いましたw

投稿: たいむ(管理人) | 2010/10/31 23:29

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