「ラプラスの亡霊」 福井晴敏(著) 読んだ。
「ユニコーンの日(上・下) 」、 「赤い彗星」、「パラオ攻略戦」に続き、『機動戦士ガンダムUC (ユニコーン)』の角川文庫版の原作本の第5巻。まだと言うのか、もうと言うのか、気が付けば折り返し地点に到達する第5巻だ。
4巻ではバナージとマリーダが戦闘中に心を通わせるところまでいっており、5巻のラストでは大気圏突入が発生という”ガンダム的イベント”はまずまず順調に消化しているように思われるが、ようやく敵味方・関係者といった役者が揃ったくらいなもので、5巻に至っても根本的な部分は何ら進展しておらず、あっちは足踏みこっちはお預けといった印象の5巻だった。
”ユニコーン・ガンダム”(バナージ)の暴走によって大破した”クシャトリヤ”。それでもマリーダが重傷で済んだのは、ギリギリでバナージが踏みとどまれたおかげだった。しかし”ネェル・アーガマ”に収容されたことはマリーダにとっては決して良い状況とは言えない。とはいえ、”ユニコーン”にNT-Dを発動させて次なる座標を開示させるのがフル・フロンタルの狙いであり、サイコ・モニターで”ユニコーン”を”ネェル・アーガマ”ごと監視し続けているのだから、状況はなんであれ・・といったところではある。
そんな”ネェル・アーガマ”は今度こそ月で落ち着けるものと思ったのも束の間、マーサ・ビスト・カーバインの策略から満身創痍のまま”ラプラス・プログラム”が開示した指定座標へと向かうよう命令が下される。そこでアルベルトはシャトルに乗り換えお役御免に、マリーダも然るべき施設へと移送される手はずとなっていた。
バナージはマリーダとの体験を現実のものとして受け入れていたが、”ガンダム”に操られて暴走し、マリーダを殺してしまいかねなかった自分を嫌悪し恐怖する。だが、大人の思惑はバナージの恐怖心などに構ってはくれない。バナージが”ユニコーン”唯一のパイロットである以上、何が何でもバナージを”ユニコーン”に乗せ、プログラムを解析しようとする。拒否したところで、ダグサ中佐からは不可抗力であれ何であれ、既に手を血で染めてしまった事実を突き付けられ、最後まで責任を果たせと諭されれば抗いようのないバナージで、結局言われるがまま”ユニコーン”に乗るしかないわけだ。
指定された座標は、かつてのテロによりデブリ化して地球を回り続けている”ラプラス”の残骸と交差する地点。まさに因縁の場であり、何らかの活路が開けるものと期待するのは道理だろう。監視していたフル・フロンタルも同様に思っており、その場に自らが出向くことで”ユニコーン”のNT-D発動を誘発しようと企み、同時に展開している”ガランシェール”によるマリーダ救出作戦を陽動として、あわよくば再び”ユニコーン”を奪取しようと画策していた。
ダグサを補助席に乗せ”ユニコーン”で指定座標に向かうバナージ。そして時が来たとき、ユニコーンとバナージの変化を目の当たりにするダグサだった。けれどもう少しで何かが起ころうとしていた矢先、危機を察知したバナージは我に返り、勝手に座標から離脱してしまう。計器は何も反応しておらず、何事が起ったのか理解しきれないダグサだったが、ほどなくして理由は判明、離脱があと少し遅れていたら手遅れになっていただろうことを知る。まさかのようなバナージの能力を確信したダグサは、更に、カーディアス・ビストの側近であり、アルベルトへの復讐のために”ガランシェール”と行動を共にしていたガエルとの接触から、バナージがカーディアスの息子であることを知ってしまう。
ガエルによる”ネェル・アーガマ”への特攻、フル・フロンタルの”シナンジュ”及び親衛隊の到着から低軌道上での激しい戦闘が始まる。けれど”ガンダム”化することを恐れて逃げの一手のバナージ。ここままではなぶり殺しだというダグサに対して、補助席ではG対策が完全ではないから・・・と言い訳するバナージを見かねたダグサは一旦”ユニコーン”から降りると言う。だから存分に戦えと。わずかの時間ながらバナージと行動と共にし、バナージの資質をその目で見たダグサ。事実と本音と建て前と、会話をすることで少しだけ互いを理解し距離を詰めた2人だった。
ダグサの奇襲から形勢を逆転させる”ユニコーン”。しかし・・・。結局NT-Dを発動させたバナージはこれまでと同じような戦闘に突入してしまう。
・・「自分を見失うな、”それでも”と言い続けろ。それがもう一つのシステムを呼び覚ます力となる」とマリーダはバナージに言い残していた。ダグサも「傷つき、恐れを知る心。そんな生身の心が”箱”への道標になる」と感じ取り、そのままバナージに伝えていた。けれど、我を忘れるほどの怒りによって”NT-D”が発動した場合、支配権は”ユニコーン”に奪われ、バナージは躊躇なくトリガーを引き続けるだけの人形となる。そうなれば意思とは異なった取り返しのつかない事態だって起こる。そうした繰り返しの痛みによって成長し、”ユニコーン”を完全に支配できるようになる・・というのは非常に酷は話だが、そういうことなんだろうなぁ。
低軌道での戦闘の後は、お決まりの地球への落下。単機での大気圏突入。落ちる先はアフリカの砂漠なんだろうなぁ。以降は次巻に続く・・・だが、バナージ(ユニコーン)を救うために共に降下するのが”ガランシェール”なので大事には至らないハズだろうが。
ところで、ミネバを連れて地球に降下したリディは、すんなり・・・とは言えないものの予定どおりに有力議員である父親:ローナン・マーセナスとの接触に成功していた。けれど、こちらは全くの足踏み状態。どうやらミネバを連れてくる場所としては最悪だったようだ。それはマーセナス家と”ラプラスの箱”の因縁によるものらしく、宿命ともいえることらしい。その為、はじめてリディはローナンから直系の子孫のみに伝えられてきた”秘密”を聞かされることになるのだが、読者には秘密のまま。リディの喪失状態から余程のことと思われるが次巻以降、いつ明かされるのか、どう繋がっていくのかを楽しみにしたいと思う。
ミネバは、というとこれと言って何もなし。彼女は何も知らないのだし、ネオ・ジオンの姫の役割よりは単純にラブストーリー担当に思える。とりあえずは3人の再会を待つ、かな?
登場人物が多くてアチコチに場面転換していた5巻で、その後の消息やら動向やらが置き去りになっているケースが少なくない5巻なので気になるが、次巻「重力の井戸の底で」は9月下旬に発売予定。まぁ、読むのが遅い私にはちょうど良いペースだ。
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