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2010/08/17

『西巷説百物語』(京極夏彦:箸)読了。

Nishinokousetuhyakumonogatari

『巷説百物語』、『続巷説百物語』、『後巷説百物語』、『前巷説百物語』ときて、どこか切ない余韻を残したままとなっていた「巷説」シリーズに、”西の物語”追加されると知って狂喜乱舞したのはいつのことだっただろうか。それから雑誌の連載が始まり、終了して、書き下ろし加わって、今ようやく手にすることができた『西巷説百物語』。・・・ううう、感無量crying
すぐにでも読みたかったのに、それでいて読み終えてしまうのが勿体なく思うほど大好きで、予約購入したにも関わらず、またしても発売から一か月近くかかってしまっているが、京極作品にしては薄い本で、7編の短編が収録された大分読みやすい作品だと思う。(以下、ややネタばれでもあるのでご注意を)。

シリーズ5作目ではあるけれど、又市一味が中心に繰り広げられる4作とは異なり、舞台も主役も異なっている”西の物語”なだけに、ここから始めてもまったく問題がないと思われる『西巷説百物語』である。
作中でも言われているが、西と東では言葉から習慣から何もかもと言ってよい程に異なっており、作風もこれまでとはかなり違った印象を受ける。まず舞台は大坂。因縁話から”妖怪仕掛け”で難儀な依頼に応えるところはこれまでと変わりないが、大坂で現場を仕切るのは、『前』に登場した又市の義兄弟にあたる”靄舟の林蔵”だ。口が達者なのはどちらも同じだが、乞食御行の又市に対して色男系の商人を装う林蔵、さらに仕掛けを助ける仲間の得意技も異なるとなれば、仕掛け自体が”林蔵風”になるのは当然のこと。・・でも、それだけではない、決定的な違いは読者に対するアプローチにある。
どの話も、まず最初にエピソードの中心となる人物の視点で物事が描かれている。その人物が置かれた状況と事実が語られ、関係者として林蔵らも登場。そして(もちろん仕掛けなのだが)その人物の周囲で起こっている奇怪な現象が、その人物なりの解釈から読者に分かりやすく説明されることになる。その為この時点では誰に非があるのかハッキリせず、特に己の葛藤を垣間見せながら語る人物には好ましい印象を持ってしまうのが共通点だ。
そこを林蔵の含みのある言い回しによって読者は気付かされていく。ひとりの人間の真実はあくまでもその人間だけの真実であることを。・・つまり、人間は自分にとって都合の悪い事実を忘れることができるし、いくらでも自分だけの解釈で真実を作りかえることが出来てしまうということ。例えば世間的に許されない罪を犯していても、自分自身が悪いことだと思っていなければ、「罪など犯していない」とさえ言ってしまえるしくみ。
勝ち組として成功した者の隠された狂気が露わとなって、”勝った”理由が明かされて、善人面から悪党の顔へと変貌するのがまるで見えてくるかの巧みな文章運びはあっぱれだ。
最初は好意的に思える人物が実は・・・という描き方は『死ねばいいのに』でも使われており、京極作品好きなら”一方的な語り”に違和感を持ち始めることと思うが、”林蔵”を知らないシリーズ初心者の読者ならばきっと騙されてしまうハズ。それでも1話を読めば2話目からはトリックがバレバレになってしまうが、仕組みが分かってなお”一見善人”の過去の所業が明らかにされる過程を面白く読めると思う。

基本「成功の陰に隠された罪なき犠牲の恨みはらしまする」の中で、唯一「豆狸」だけは異色で泣かされた。そして書き下ろしの「野狐」は又市と百介さんがゲストで登場しておりとても嬉しくなった。(話はシビアだが)。そして初版だけかもしれないが(ちなみに表紙裏の画は毎度初版だけだが)「巷説主要人物相関図」と「巷説年表」、「舞台地図」が裏表で描かれたチラシが差し込まれているのがとても有り難かった。本当ならば4作品をおさらいしてから読めばより楽しめる5作目と思うがさすがに間に合わずであり、このチラシにだいぶ助けてもらった。また京極作品は(時代こそ異なれど)すべてが同じの世界観で描かれているのは周知のことと思うが、時系列的に入り組んで収録されている「巷説」4作品の諸エピソードは、順に並べ替えてもちゃんと辻褄があっていることが「巷説年表」で証明されており改めて感心してしまうところだ。とにかく、チラシと言えども失くさないよう”永久保存版”として大切に保管しておかなくちゃである。

京極作品の2大シリーズである「巷説」シリーズと「百鬼夜行」(京極堂)シリーズ。どちらもずっと続いて欲しいと思っていたが、どうやら「巷説」シリーズはこれにて全完ということらしい。同じように『続』『後』『前』の”西の物語”があったらと期待していたが、『前』は被るだろうし、『後』は百介さんの立ち位置が不在、せめて『続』だけでも・・・と食い下がりたいところだが・・・。となると現在の最大の楽しみは『百鬼夜行-陽』であり、既に4年近く待たされてなお影すら見えない『鵺の碑』といえる。近頃はテンポよく単行本化されている京極作品だが、やっぱり一番大好きな京極堂に会いたい、と思ってしまうのだなぁ。お願いしますよー、京極先生!!

既に百介さんは亡くなっており、姿を消した黒装束の又市がその後どうなったかなどに触れられることはないため、「巷説シリーズ」の残した切ない余韻が払しょくされることはないのだけれど、それでも元気な又市と百介さんに再び出会えて嬉しくなる『西巷説百物語』。シリーズファンはもちろん、どなたさまにもオススメしたい1冊だ。

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コメント

「野狐」読み応えありましたね!

これで<完>ですかぁ。。寂しい。

文庫化されたら買ってしまいそう。


京極堂の最新作,首を長くして待ちましょう!^^;

投稿: AKIRA | 2010/08/21 17:02

■AKIRAさん、こんにちはsun
私は「豆狸」にやられちゃいました。なんたって善人のための憑き物落としでしたし号泣ですよ。

巷説のシリーズは初版本の裏表紙が貴重ですから手放すことはないと思うけれど、読み直すのなら文庫ですよね。
とはいえ、そのまえにノベルス版があるので、だいぶ先になりそうですけど(^^)

投稿: たいむ(管理人) | 2010/08/21 19:03

初めまして。
いきなり失礼します。

>ちなみに表紙裏の画は毎度初版だけだが

熱烈京極ファン(最早フリーク化してますw)が、これは知りませんでした。
毎回、全作品、発売日に購入してしまっておりますものでw

素敵な情報、ありがとうございました。

投稿: 名無し | 2010/09/10 14:32

■名無しさん、こんにちはsun
あら、裏表紙の絵について、ご存じありませんでしたか。
私もまいど予約で購入なので、食いっぱぐれたことはないけれど、巷説シリーズの裏の絵は初版だけなんですよ。以降はまっ白け。書店で見てください(笑)

ところで熱狂的ファンさんならば当然「邪魅の雫」は大磯・平塚地区限定版もゲットですよね?
残念ながら私は2版しか手に入れられなかったんですよ。大磯には知り合いもなく、さすがにそこまで買いにいけなかったものだから(TT)
まぁ、中身は一緒なので通常版と交換すれば初版!とかごまかせるんだけど(爆)

投稿: たいむ(管理人) | 2010/09/10 17:06

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