『おおきく振りかぶって(14)』を読んで。
ほとんど崖っぷちに立たされている西浦ナイン。攻守ともに阿部の抜けた穴は小さくはない。だけど、あっさり諦めるほどメンタル面は弱くないし、おのおの出来ないなりにも出来ることを精一杯やろうとするのが西浦ナインだ。その甲斐あって各自が少しずつ役割を果たして8回裏では1点を返す粘りっぷりを見せる。
しかし、9回表:美丞大狭山の攻撃では、すでにバッテリーに対するモモカンのサインが盗まれていることから、どこへ投げても狙い打ちされてしまう。敵の不自然な正確さに違和感を訴えた田島の言葉から、ようやくそれに気がついたモモカンは、田島に三橋と協力しながら配球を任せることにする。
9回表:1死1塁2塁からバッターは四番:和田。ベンチのノーサインでも喰らったダメ押しのスリーランホームラン。でもそれは、それこそが今の西浦バッテリーの実力ということ。崩れ落ちずとも動揺から制球を乱しはじめる三橋。ストライクが入らなければ打たせてとるしか方法はないのだが、なんと凡打を栄口がエラーしてしまう。栄口のまさかのエラーから、自分も栄口も緊張して固くなってしまっていることに気がつく三橋。自問自答する三橋。自分がダメなのは阿部くんがいないから?じゃあ栄口くんも阿部くんがいないから?そしていつかのミーティングでの栄口の言葉(三橋が投げられなくなったらウチは負けたも同じってこと)を思い出す三橋。違う!「オレのせいだ」。
土壇場で”投手”を理解し始めた三橋。守備では自分(投手)が中心だと自覚した三橋は、ありったけの声を出してチーム全体に伝染した動揺を一気に引き締めた。
モモカンの決断は三橋君にとっても阿部君にとっても壁を乗り越える為のおおきな第一歩になったようだ。結果的に打たれたけれど、三橋君は打たれた理由を考え、田島のサインに首を振る、つまり配球を一緒に考えることで”バッテリー”とは何かに至り、阿部に対する畏敬と畏怖による依存といった欠陥に自分自身で気がつくことになった。阿部君は心身共に痛い思いをしちゃったけれど、ケガしたことで自分の過ちに気が付き、田島と三橋のやり取りを見て自分の間違い(思い上がり)を受け止めることになったわけだ。
”本当のバッテリー”になるために、この時点でやり直せる切っ掛けが訪れたことは幸いなことといえる。まさに”怪我の功名”ってことだね。
6点差で迎えた9回裏:西浦高校の攻撃は3番巣山から。巣山のヒットと頼れる4番田島で1点を返すものの、後は繋がらず、西浦高校硬式野球部1年目の夏は終わる。
ラストバッターが奇しくも西広君になってしまったは、ほぼ初心者の彼にとってとても残酷な結末。非力を痛感して一番に泣き崩れたのが西広君だったのが切ない。この試合が公式戦の初試合の彼にかかったプレッシャーを察しない仲間はいない。責めることも慰めることもできないナインの無言での労りが更に切ない。でも”補欠であることに安心しきっていた自分”を自覚した西広君だから、この先スタメンを張り合うまでに成長してくれるんじゃないかなと期待できそう。(水谷君、どーする?!)
ベンチ前で三橋を出迎える阿部。この試合でちょっぴり変化した新しいバッテリー誕生の瞬間?互いに謝るでもなく、ただ事実を噛みしめて泣きだす三橋の首に腕を回す阿部。・・・しかし「はい、そこまで!!」と全員で号泣モード突入寸前のナインを一喝するモモカン。総力戦で負けた自分らの実力を思い知り、負けた悔しさは次への糧にしなさいと、終わった瞬間が再始動の時だとバッサリ。新人戦に秋の大会はすぐに始まる。全員が1年生で10人しかいない野球部としては大健闘だったかもしれない。でも世間の評価はともかく、みんなが少しずつ互いのミスを補いながらやっとこ5回戦まで勝ち進んだ西浦高校で、それで満足なんかしていられないってことだ。
勝者が勝者であり続ける難しさはこの辺りにもあると思う。負けの経験は勝利の経験よりも深く刻まれるもので、バネになるならないはその経験で学んだことをどう処理して対応するかってことだから。勝ちに酔いしれていてはそこまで、負けで終わらせてもそこまでってね。
マンガとして、勝っても負けても面白いと思っていたが、妥当な”負け方”をさせてくれて良かったと思う。おかげで一皮むけて”甲子園もミラクルじゃない”ってお膳立てが出来て、今後の成長っぷりがますます楽しみになった。今回登場しなかったライバル校との対戦も楽しみだし、何より榛名との対決がまだだ。甲子園をかけての一騎打ちはやっぱ武蔵野第一じゃないと、と思ってるし。
アニメ2期目はおそらくこの14巻の夏の大会の終わりまで。BS-TBSでも放送が始まり、第1話を見たが、本当に何事もなかったかのように”続き”から始まって、一気に時が巻き戻ったような錯覚さえ感じられた。(BGMも1期目のサントラからガンガン使用されているのも一体感があるし)
アニメで14巻の感動をもう一度見られる日を楽しみに待ちたいと思う。
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コメント
こんにちわ!
やっと14巻が発売されましたね^^
本誌で読んでいますけど、やっぱり涙が…(ホロリ)
崎玉戦が花井のための試合だったように、美丞戦は、バッテリーのための試合だったように思います。
やっと本当のバッテリーになれるんだなぁって。
バッテリーの成長がいちいち涙を誘いました。
あと、カバー裏の浜田たち、援団の漫画もほほえましくて。
先生はまだまだ書く気満々なようなので、
今後も今までのライバル高が出てくると思って楽しみにしています。
そして私はなにせ桐青大好きなので…
準太がちゃんと戻ってきてくれることを祈ってます。
(あと利央とか和さんの今後も…ね…)
私は、ラストは甲子園で三星だったらいいのにと思ってるんですけどねー^^
(なーんてそこまでご都合はないかな?)
そちらでもアニメ放送が始まったみたいでよかったです。
映像が一段と美しくなっていますし、いちいち細かいところまで描いてくれていてファンにはうれしい。
DVDもブルーレイ版がでますし。
物語りも普通にスタートしたので、3年も経ってるのがうそのようです(笑)
ほんとにうれしいかぎりですね!!
残りの話数でどれくらい美丞戦を描ききってくれるのか、今からとてもドキドキです^^
投稿: きりん | 2010/04/25 20:30
■きりんさん、こんにちは
予想はしていたけれど、やっぱり負けちゃいましたねー。
私もポロポロ涙が・・・。ついでに「ホリック17巻」の四月一日に泣かされて、昨日は泣いてばかりでした(笑)
>崎玉戦が花井のための試合
そうでしたねー。その経験が多少なりとも美丞戦に生かされていたけれど、一朝一夕で田島のようにはなれないものね。
私もね、阿部君のケガはこのためだったかーってしみじみ思いましたよ。三橋君の思い込みの激しさも良いように作用し始めたし、いいバッテリーになりますよね、これから。
応援団のエピも清々しくって良いですよね。もっともっと団員が増えてくれるといいなって思います。
ライバル校はー、桐青戦はもう一回見て見たいですね。「テニプリ」の氷帝戦じゃないけど(笑)
あ、でも今度は乱打戦じゃなくって投手戦でね。
それはともかく、和さん大丈夫?サスペンスチックになってない?呂佳さんに睨まれちゃってるし。黒い描かれ方に美丞の失格とかあるのかなぁ?なんて思ったり。
甲子園の出場が目標なのか、その先も目標なのか、例え途中で負けても感動させてくれるだろう「おおふり」で、もはや見届けるまではやめられませんね。
アニメもやっとですよー。嬉しい!
イベントとかインタとかDJCDとかでも言っていたけれど、本当に続きだし、三橋の登場の遅さに笑った。
今はDVDにしようかブルーレイにしようか思案中。どっちにしても今度は自力でDJCDゲットです。その節はお世話になりました!
投稿: たいむ(管理人) | 2010/04/25 22:31