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2009/09/06

『フリーター、家を買う』 有川 浩 〔著〕

Freeter 今度の物語はベタ甘路線からは若干外れて激重なお話。これまでの作品もすべてが”隠れ社会派”な作品だったが、この『フリーター、家を買う』では、”他人から見れば瑣末なこと、でも当人にとっては重大問題(あるいは正反対)という事が起因となって引き起こされる「負の連鎖」”のアレコレが描かれている完全な社会派作品と思う。それでも、さすがは有川作品なだけに、重さを”ただ重さ”にしない”アツさ”や”フォロー”がしっかりと盛り込まれており、逆転勝利もある。それも決して”ミラクル”な逆転劇ではなく、地に足が付いた地道な勝利。
ま、そのご褒美としてようやく訪れる”甘heart01”があることが、やっぱり有川作品の真骨頂でもあるんだけどーhappy01

この作品には家庭の崩壊と再生をとおした息子:武誠治の成長物語であり、就職活動の真髄がズバリと描かれている。
引っ越して以来20年間続く近所からの村八分と嫌がらせなど全く知りもしない、酒癖が悪いくせに完璧な父親と亭主関白を気取る勤勉だが自己中なオヤジと、自分の意に染まらぬとたった3か月で就職先を辞めてダラダラしている根性無しのフリーターアホ息子。この2人が対立するのは必然のことで、悪化し続ける家庭内空気と長年の心労からとうとう【全般性不安障害と重篤な鬱、妄想】を発症させてしまう母親だ。ご近所のことも、母親の異変にも気が付かないバカで勝手な男ども。唯一の理解者で母親の支えになっていた娘が結婚して実家を離れてしまったことで、完全に孤独となりすべてを内に内にと抱え込んでしまった母親の当然の結果だった。

精神を病んで奇妙な言動を繰り返し始める母親の姿を目の当たりにし、姉から20年間の真実を叩きつけられ、ようやく心の目を開くことができた誠治。我が身を振り返って至らなさを痛感し、ゴミのようなプライドを振りかざすばかりの怠惰で自堕落な自分を自覚。環境を変えなければ母親の病状は良くならないだろうという医者の診断を聞いてなお、病気を理解せず無神経にも引っ越しを拒む父親に憤りを感じながらも、まず自分が変わらなければ何も変わらない、変えられない、母親の病気も治らないことを学び、一念発起する誠治だ。
しかし、長期戦が当たり前な精神を病んだ母親の世話に非協力的な父親、一向に決まらない再就職に誠治も疲弊し、投薬の効果から少しだけ安定した母親なのを良いことに怠慢になる誠治。そうして起きてしまう事件は、父親と息子が食らう痛恨の一撃たっだ。
・・ここから初めて家族が同じベクトルに向かって歩み出すことになるのだけど、それでも”引っ越し”というワードが父親から発せられることはなく、まだまだ紆余曲折な道のりは続く。

タイトルを思うと、フリーターだった息子はやがて再就職を果たして家を買うだろうことは最初から想像できる。それには険悪だった父親との関係も(ある程度)修復することになるだろうし、母親も(ある程度)回復するだろうとも思う。でも、とにかくそこに行き着くまでの過程(成長)が胸を打つ。涙腺が弱すぎじゃないかと思うくらい何度も何度も読みながら泣いていた私。棒にも箸にも引っかからないようなヘタレ男だった誠治が、いっぱしの社会人へと変わっていく様子に嬉しくもなった。(その結果のご褒美heart01にはもっと嬉しくなるし)。
確かにテーマは重い。でも一気に読めてしまうのは、相変わらずのキャラクター達の魅力であり、厳しさの中にある有川作品ならではの表現の優しさと思う。(きっとハッピーエンドになるだろうという根拠なき確信もね)。
ズシリと重いけれど、最後まで読めば重さも重さとしてはそれほど残らず、希望ある未来として受け止められるんじゃないかな?有川作品のベタ甘が苦手という人にも、これは大丈夫だから…と一読をオススメしたい。

余談になるが、誠治と誠一(父親)による”就職活動の極意(?)”も見どころの一つ。怠惰な自分から卒業した経験が思わぬ展開へと発展していくところがなかなか面白い。”極意”と言っても実は当たり前のことだったりもするけれど、就活で苦戦している人には(もしかしたら)参考になるのでは?

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コメント

たいむさん、こんにちは!

誠治の成長は読んでいて、えらく感情移入しながら読んでしまいました。
いつもの有川さんの扱う題材とは違いながらも、テイストは失うことはなく、今後作品の幅が広がっていくのだろうなあという期待を持ちました。
でもやっぱり最後はベタ甘でしたね(笑)。
やはり有川作品はこれがないと!という気がします。

投稿: はらやん | 2009/11/14 08:14

■はらやんさん、こんにちはsun
ラブコメが前面にあるいつもの作風ではなく、「阪急電車」のように、もう少し年齢層が上のライトノベル風作品という感じでしたね。結構深イイし(^^)

誠治は頑張ったし、ラストの甘さはご褒美にしてあげたいですw

投稿: たいむ(管理人) | 2009/11/14 20:56

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