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2009/09/15

『トーマの心臓』 (森博嗣:著 /萩尾望都:原作)

Tohma 7月末、書店の平台に陳列されていた一冊の単行本に目がとまった。それは大昔のマンガのタイトルと全く同じで、でも著者を見るとなんと森博嗣氏ではないか。特別原作には思い入れがなかったし、最近は森作品からも遠ざかっていたのだけど、両者が合体すると一体どんな作品になるのだろう?と俄かに興味が湧き上がり、手に取ってみるのは必然だった。
結局その時は買わなかったけれど、後日「ダ・ヴィンチ(9月号)」で特集が組まれていたことで、強く読んでみたいと思い始めて結局購入。ついでに古本屋で原作漫画までゲットしちゃった

原作は、トーマの死からはじまり、亡くなったトーマの手紙が遅れてユーリのもとに届いたことで、明らかにユーリが荒れ始めるところから描かれている。視点は「神様の目線」で読者は全体が見渡せ、キャラクターぞれぞれの内面までは分からないけれど、それぞれの行動や発言、表情からそれぞれの心情を察しながら読む進むことになる。
森小説ではすべてが”オスカー”視点となっており、彼が見聞きしたものしか描かれていない。原作はほとんど感情的でトゲトゲしく、その痛々しさが読者の心を揺さぶるのだが、小説ではオスカーという”優しいフィルター”に通されている分だけ静かで穏やかで淡々とした物語になっていた。

私は原作では、少年たちそれぞれの欲望や欲求から苦悩や葛藤といった、なかなか全容が掴めないでいたモノが、意識的にも無意識的にも互いに影響し合った結果、呪縛から解き放たれるように、いつしか成長から克服できるようになっていた彼らの物語に圧倒された。逆を言えば、謎は謎としても全体像を把握している読者なだけに、とにかく「もどかしい」物語で、よくぞ綺麗に着地してくれたという感じだ。
対して小説は、オスカーの視点(主観)に絞られていたことで、より人間らしいカタチで一連の出来事を見つめることが出来たように思う。だからユーリのことも、エーリクのことも、トーマのことも、オスカーが知り得た事実以外に語られることはなく、結論でさえオスカーの希望的観測が含まれた明るい締め方になっているのが、私には自然に思えた。
これはどちらがどうということではなく、上から見るか下から見るかの違いのようなものと私は解釈するところである。

森作品に疲労を感じ初めことですっかり手を引いていたこの頃なのだが、久しぶりに読んでみて、原作にはない会話(言葉)や文章の中に”森語録”と感じられるモロモロが盛り込まれていたことに嬉しくなった。堅いと言えば堅いが、言い訳を許さない的を射た発言はやはり私は好きだと思う。
そういうところからも、私は小説版『トーマの心臓』を高く評価したいと思う。・・けれど、やはり”原作ありき”とも思う。小説は単独でも成立しているものと思うけれど、併せて原作を読むことでようやく納得が行くのではないだろうか。よって、すべからくオススメというわけにはいかないかな?といった、結局はそんな感想に落ち着いてしまうのがどことなく残念な気も。

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コメント

最近、S&Mシリーズをちょこっと読んでたんですが、
いや~~、びっくり。
「トーマの心臓」を書いてるの???
これは、読みたい!!買ってきます。
漫画、持っています、はい。

投稿: mariyon | 2009/09/18 01:03

こんにちは、たいむさん

トーマの心臓!
わたしの父が萩尾さんとお知り合いで
わたしも何度もお会いしてるんだけど、
原作は一度も読んでないという失礼なヤツです、、、、

お芝居では観たので話は知ってるんですけどね、
まだまだ現役で頑張ってらっしゃる萩尾さん、凄いです。

投稿: mig | 2009/09/18 11:41

■mariyonさん、こんにちは
犀川&萌絵を読んでますか~~。
私、萌絵が嫌いなんですよね(爆)
(でも犀川センセが大好きなので、全部読みきりました!)

うん、森氏はこのマンガをかなり読み込まれていた感じですね。
設定は日本だったり(でも名前はおなじ)するので、微妙なところもありますが、よんで損はないと思います。
ただし、原作ファンでしたら期待しすぎないようにご注意下さいませ。

ご近所だったらお貸しするのにね、残念!

投稿: たいむ(管理人) | 2009/09/18 12:44

■migさん、こんにちは
わ~、お父様が先生とお知り合いで、migさんも間近にお会いしているだなんてうらやましいお話です!
とはいえ、芸術だの書籍だのは個人の好みですし、読んでなくたってぜんぜん問題なしって私は思いますよw

この方も生涯現役でしょうか(^^)
竹宮さんほか、少女マンガの礎を築き、牽引してきた方々のほとんどが未だ現役って嬉しいですよね。

投稿: たいむ(管理人) | 2009/09/18 12:49

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