『植物図鑑』 有川 浩 〔著〕
有川作品の最新作は、「ある日イケメンの男の子が、女の子の前に降ってきて・・・」という物語(作者曰く(ラピュタのような)「リアル落ち物(語)」だそうだ)。スタートがケータイ小説だと(あとがきで)知ってなんだか納得♪ 登場人物こそ20代半ば過ぎの男女だというのに、なんだか高校生のようなノリと甘酸っぱさに満ちている。
「お嬢さん、よかったら俺を拾ってくれませんか」
「ひ、拾って、って。捨て犬みたいにそんな、あんた」
「咬みません。躾のできたよい子です」
「やだ、やめてー(笑)」
・・・行き倒れていた男”樹(イツキ)”と、思わず彼を拾うことにした”さやか”の出会いがコレ。これには私が落ちた。ここからはもはやノンストップでの一気読みだった。(以下、ネタばれしているのでご注意を)
物語は単純。でも素敵なラブストーリー。
20代半ばでフツーに社会人のさやかは、弾みで拾った青年:イツキと同居生活を始める。よくある「魔がさして一晩を過ごしてしまい、そのまま居ついちゃった」というものではなく、「躾のできたよい子」というだけあって何事もないけど(ないから?)思わずさやかの方が引き止めてしまったというもの。「一夜の宿のお礼にささやかだけど朝食を」から、その美味しさに胃袋を鷲掴みにされて思わず・・が引き止める理由というのが安直でまるでリアル感なしと思うけれど、その辺は大目に見なければ話が進まないので良しとする。
とりあえずは同居人に。家事が苦手なさやかは、イツキに家事一切を頼む変わりに当面の(衣)食住を提供するという「契約」を結ぶ。(数日後にはちゃんとバイトを始めるイツキで”ヒモ”というわけでもない)。イツキは”樹”という名前以外は一切素性を語ろうとしないのだが、それ以外では常に「躾の良いワンコ」だったことからまるで警戒心を持たないさやかで、無理に聞き出すことも密かに探ることもしなかった。
イツキは料理の腕前がピカイチだった。どこで覚えたのか素朴な料理が得意なようで、さやかは「手料理にメロメロな新婚男」のようにイソイソと自宅と会社の往復するようになる。どんどんイツキと居ることが楽しくなるさやか。あるよく晴れた春の日に、さやかはイツキに誘われて少し離れた河川敷へと散歩に出かける。フキノトウ・フキ・ツクシ・・と、食材になる植物を摘む楽しさを教えられ、持ち帰ったそれらを堪能するさやか。(ここで披露されるイツキの知識は凡人の域を超えている)。それ以後、ほとんど休日のたび「狩り」と称して「山菜・野草摘み」に出かけて食卓を賑わしていくようになる。出掛けるたびに違う「山菜・野草」を教えられ、その蘊蓄や美味しさに感動するさやか。更にイツキに惹かれていくさやかだ。それなのにいつまでたってもそっけないイツキ。とても優しいし、(家政夫として)尽くしてくれるイツキだが、それ以上の感情は全く見せてくれないことに不満と不安を感じ始めるさやかだ。
こうなるともうベタベタな展開は確定。ちょっとした出来事から想いが爆発しちゃって、すれ違うかな~と見せかけながらも、やっぱりちょっとした切っ掛けで互いの本音を確認し合うことになり、めでたくカップル誕生とあいなる。そして暫くは幸せな日々が続くのだが、”秘密だらけの彼”ではそうそう長く幸せな日々は続かない。突然現れたモノは突然消えてしまうモノで、急転直下な展開が訪れることになる。(ちなみにこれは「第1章」で語られている事実なので核心を突くネタバレでは無い)。・・・でも、有川作品だからね。イツキの正体もヒントが分り易く登場しているし、あとはご想像のとおり、なんじゃないかな?(^^)
急転直下な展開は、ネタばれではないから「いつか、いつか」と覚悟しながら読むことになるのだけど、それまでのハッピー加減が見事なまでに「ベタ甘」なので、分ってても号泣してしまう。どん底パートがとにかくキツかった。(「ベタ甘」なだけに落差がより激しく辛く感じられるからなんだろうなぁ。涙が止まらず、鼻も耳も詰まって呼吸困難になるのは最近では有川作品ばかりだ。)
予定調和ではあるけれど、単なるラブストーリーではなく(地味なテーマながら)身近な山菜・野草についての話や教訓が盛り込まれており、その料理方法など(レシピが巻末にいくつか紹介されている)も参考にもなる面白くて素敵な物語だった。(田舎者な私だから知ってる事も多かったし、”フキノトウの天ぷら”も大好きだけど、花冠の話とかは心がくすぐられたなぁ)。現在から過去に戻り、現在を通過してその後が描かれる構成も好み。さらに間を埋める短編と、後日談の書きおろし短編が付いているのも良い。作中に登場するいくつかの「山菜・野草・雑草」たちのカラー写真が掲載されているのもとても親切な作りと思う。『植物図鑑』の名にふさわしい”小説”と思う。
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コメント
いや~、落ちました、私も。(笑)
久々ハマってしかも泣きました。
一人暮らしのOLさんなんかが読んだら
余計にしみるんじゃないですかね、
ひとりよりふたりで食べる食事、
誰かが自分のためにつくってくれるご飯のありがたみっていうか・・・。
いや、作る立場になった今は逆に
うわめっちゃ手抜きしてるなっていう
日ごろの自分が恥ずかしくなりました。(笑)
イツキなら一ヶ月1万円生活余裕で出来そうですね。(爆)
主婦の鑑やわ~
(そういう話じゃなかったですね・・・笑)
投稿: Ageha | 2009/07/13 12:46
■Agehaさん、こんにちは
一人暮らしのOLさんが読んだなら(しかも20代後半とか)喉から手が出るほどイツキが欲しいと思いますよね、たぶん(笑)
私に言わせると、さやかはちょっと甘えすぎ~って思うけど、気持ちはよーく解る。
イツキを見習わないとなのは、私も同じかもー(^^;
>一ヶ月1万円生活
某番組に出られそうですよね(笑)
イツキとならば無人島でそこそこ生きられそうですね(爆)
投稿: たいむ(管理人) | 2009/07/13 17:12
「植物図鑑」という名前なのに小説という不思議さに惹かれ読んでみたら、予想外に樹とさやかの恋愛がすごく可愛くて、どんどん引き込まれてしまいました。二人とも恋愛初心者じゃないのに・・・!!
お互いを想う気持ちがくすぐったくて、憧れちゃうような恋愛ですよね~
樹の影響でさやか同様野草好きになりました(笑)
投稿: みや | 2009/12/23 10:47
■みやさん、こんにちは
そうそう、私も「植物図鑑」?って疑問に思いながら予約してましたw
でも開けてみればそのタイトルに相応しい内容でもあり、いつも以上の有川ベタ甘の世界。
あのあま~い恋模様にはやられちゃいますよね(^^)
同じく読まれた方が「雑草」が目に付くようになったと言われていましたが、私もアスファルトからのぞく草にも目が行くようになりました♪
山菜も大好きです!
投稿: たいむ(管理人) | 2009/12/23 18:11
ご無沙汰してました。
ほとんどブログのほうが更新できてなくてどもども。
うちのまわりでだれも見に行ってないですね~、この映画。
やっぱり岩ちゃん目当てのアイドル映画になってもたんかな~。
たいむさんはどないですか?
投稿: Ageha | 2016/07/21 12:12
■Agehaさん、こんにちは
このは全く見る気なしですし、TVでやっても見ないだろうなぁ。
初期の有川作品をそのまま実写化したらキュンキュンというよりも寒い。
ひとりベットで転げまわるようにして読書するに限ります(笑)
投稿: たいむ(管理人) | 2016/07/22 10:49