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2009/06/15

『ひかりの剣』 (著)海堂 尊

Hikarinoken 『ひかりの剣』は、『ブラックペアン 1988』と時を同じくした別角度の物語。主人公は後に”ジェネラル・ルージュ”と呼ばれる東城大医学部の”猛虎”速水晃一であり、『ジーン・ワルツ』にて曾根崎理恵にしてやられた、天下の帝華大医学部の”伏龍”清川吾郎の2人である。
剣道を中心にした学生の青春ストーリーということで、医療問題に鋭いメスを入れるいつもの要素は皆無だが、医療崩壊へカウントダウンは既にこの頃始まっていた事がしっかり盛り込まれている辺りは、やはり海堂作品だろう。兆候は見えはじめていたが、深刻に考えるには至っていない懐かしき良き時代の話、というスタンスで描かれている『ひかりの剣』である。

速水も清川もそれぞれの大学の剣道部主将を務めている。どちらも医大生による医大生の為の全国剣道大会(医鷲旗)では、あと一歩で優勝争いに掠るくらいの位置づけといった微妙なライバル校だ。医大生の現実として学問と部活を両立させた”体育会系医大生”はなかなか居ないもので、ひとチーム5人の団体戦である剣道は、大会参加の為のメンバーを揃えるのも一苦労であり、優勝争いに絡むほどのメンツが揃うのは滅多にないこと。ところが、この年はどちらもソコソコのメンツが揃い、(作戦次第では)本気で”医鷲旗”を狙える両大学となっていた。
豪快だが真面目な速水に対して、才能に胡坐をかくような軽薄な清川。清川は元来物事に執着するタイプではないのだが、過去の因縁から速水にだけは執拗にライバル心を燃やしており、”医鷲旗”よりも「打倒!速水!」なのだった。結果論で言えば、それが速水を大きく成長させる切っ掛けになるという話であり、速水にしても、清川にしても、医師になる直前の初々しさや青臭さといった”素”が垣間見られる内容になっている。さらにこの2人に”腹黒狸”の高階講師(当時)が大きく関わってくるところで面白味が増している。『ブラックペアン 1988』以上に阿修羅っぷりを見せてくれる高階がグーッgood だ。(だだし、肉薄した実力の2人に対して「勝ち組のエリート・清川」と「負けても伝説を作る男・速水」と嘯くような、予言者めいた高階という、いささか神憑った感じになってしまっているけれど)。
それから、『ブラックペアン 1988』でチラりと登場した速水・田口・島津だが、『ひかりの剣』はまったく時を同じくしているため”世良先生の大失態から血を被って失神する田口”という同じ場面が登場するなど、リンクにニヤリとするところもちょこちょと登場する。医療問題どころかミステリの要素も全くないため単なる小説として好みが分かれると思うが、”速水好き”ならばソコソコ楽しめる1冊と思う。

『ジェネラル・ルージュの伝説~海堂尊ワールドのすべて』を読むと、海堂氏自身が剣道の有段者で、大学時代は剣道に明け暮れていたようなことがサラリを書かれており、外科医から病理医へ転身した海堂氏の経歴からは、『イノセント・ゲリラの祝祭』での”スカラムーシュ”こと「彦根新吾」こそ海堂氏そのものなのだが、速水も清川も(もしかしたら高階も)海堂氏の分身なんだなーと思った次第である。
そうそう、何故”ひかり”の剣なのか、いま一つ明確な答えは無かったように思うが、清川の後輩に”朝比奈ひかり”という剣道の実力者が登場するのは確か。でも結局彼女は”あて馬”的な存在になっていたし・・・、やはり”希望の光”と考えるのが妥当なのかと、タイトルは疑問が残るものだったと思う。

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» 『ひかりの剣』 海堂尊 [【徒然なるままに・・・】]
何だかんだで久しぶりの海堂作品です。 単行本買って積読状態だったら、ありゃりゃ文庫本が出てしまいました、とさ。 時代は昭和から平成へと移り変わる頃、剣の才能を持つ二人の医学生がいた。 一人は桜宮・東城大学医学部剣道部の速水晃一、もう一人は東京・帝華大医学部剣道部の清川吾郎。 対照的な二人は其々<猛虎>、<伏龍>と並び称され、互いに鎬を削っていた・・・。 医学生の青春を描いたストーリーですが、やはりこれもメディカル・エンターテインメントではなくスポ根物だと思った方が戸惑いは少ないでし... [続きを読む]

受信: 2010/09/19 21:37

» 海堂尊「ひかりの剣」 [ご本といえばblog]
海堂尊著 「ひかりの剣」を読む。 このフレーズにシビれた。  即答できないか。それが君の限界だ。速水君は今、そこまでして勝つことに意味があるのか、と思っただろう。その答えを教えてあげよう。そのとおり、意味はある。あるいはこう言った方がわかるかな。そこまでして...... [続きを読む]

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