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2009/04/20

『イノセント・ゲリラの祝祭』 (著)海堂 尊

Innocent_guerrilla『チーム・バチスタの栄光』でスタートした”田口&白鳥”コンビのシリーズ第4弾!
これまでは田口が勤務する東城大医学部付属病院が主な舞台となっていたが、今度は白鳥の本拠地:霞が関は厚生労働省の会議室が大舞台となっている。また、今回はミステリ路線から完全に外れ、現代の医療問題を提言しながら司法・行政とのしがらみを浮き彫りにするという、なかなか過激な内容となっていた。終わりの見えない状況が、返って作品にリアル感を齎しているようで、「このシリーズは一体何処へ、何処まで行こうとしているのだろう?」と思わせる、シリーズのターニングポイント的位置づけとなる作品に思った。

***厚生労働省でも異端児で厄介者の白鳥。ドス黒い思惑が渦巻く自らの本丸である厚労省主催の「医療事故調査委員会」に、事もあろうか田口センセを招聘する白鳥。他のメンツを考えても自分は場違いだと思われる委員会の招聘要請に戸惑う田口だったが、やがて見え始めた腐った現実と根深い問題を知り、自分の役割を悟った田口は委員会に一石を投じることになる***
実際は、一石どころかそうとは知らずに「爆弾投下」した田口。”爆弾”は田口の後輩: 彦根新吾という。学生時代、速水や島津とともに明け暮れた麻雀のメンバーで卒業後は外科医となったが、とある医学界を揺るがす大事件の黒幕としてその筋では要注意人物と目されており、現在、病理医に鞍替えしている。
「なんとか委員会」とか言いながら、大半の委員会は事務局(官僚)の作ったシナリオ通りに事が運ぶように進行(誘導)されるのが通例(慣例)で、実際に有識者や専門家を招聘した委員会を”開催”することだけに意義を持ち、ありていに言えば”既成事実”の為の委員会だという。(それが現実で事実だと思いたくはないが)。そんな形式だけの委員会を根底からひっくり返すのが彦根だった。
まぁとにかくああ言えばこう言うの応酬か続く。(内容が専門的で難しいので要約出来ないが)。しかも論理破綻ひとつなく、真実をありのままに付きつけるの だから矛先を向けられた方は堪らない。誰もが具の根もでないところにまで至り、ようやく白鳥が”切り札”を使うことで彦根を引かせ、場を収める事になるが、彦根の弁論は非常に興味深いもので、現実にも妄想で終わらせたくないと思えるモノだった。
作者は時折小説の中で、(教訓としても)「勝ち過ぎてはいけない」と言っているが、今回はどう見ても彦根の圧勝。彦根はそれこそ完膚なきまで相手を叩きのめしてしまおうと、自らをも滅ぼしかねないことを承知の上で戦いに挑んでいたように思えた。このシリーズでは、まず死亡医療に関する例題の一つとして”AI”という新技法の有効性を世間に発表し、同時に難癖をつけて”AI”を認可・予算拠出しようとしない厚労省の怠慢と既得権益保護体質を告発するような内容を何度も書いている。『チーム・バチスタの栄光』はそんな堅苦しくて難しそうな専門的分野を、ミステリ仕立てにすることで広く一般人にも興味を持たせることに成功したし、続くシリーズによって更なる新事実(裏舞台)を世間的に公表することに成功したのではないかと思う。そして漸くこの『イノセント・ゲリラの祝祭』にて、作者が現実では言う場すらない現場の実情と真実、理想や妄想を”代弁者”に仕立て上げた彦根に思う存分語らせる形で(誇張を含めて)想いを吐き出した、という風に思えてくる。一応、彦根自身に「スカラムーシュ(大法螺吹き)」と言わせることで、作者としても「これは”小説”という”大法螺”だからね」と注釈(自己防衛)を入れた感じではあるけれど。

次回作以降の彦根の再登場は確定しているし、いよいよ内閣府を巻きこんだ事態へと発展する模様。白鳥を”泳がせている”厚労省TOPの動きも垣間見られたり、警察側の含みある言動がどうも不気味だ。前途多難な”エーアイ・センター”創設を軸に、もう無関係ではいられない田口の次なる役割はどう振られていくのか。そういえば、今回は田口が「俺」という一人称を使う形で書かれており、こうした変化も何らかの意図があるんじゃないかな?なんて下衆の勘繰りしたりしてね(^^)
すっかりミステリーの枠から逸脱してしまったシリーズになるのかもしれないが、私はそれはそれで興味深く思うし、どこまでも着かないであろうがその決着を、是非とも見届けさせてもらいたいと思っている。でも、『ジェネラル・ルージュの凱旋』のような現場医療とヒューマンドラマを掛け合わせたストーリーも好きなので、時々はその路線を交えながら進んで言ってくれれば尚宜し、と思うのだけど。
名前ばかりで、本線ではまたフェイドアウトしてしまった姫宮の再登場も期待したい。

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コメント

こちらにもお邪魔します♪
えっと~私はこの本にかなりな辛口感想を書いたのでお邪魔し難いのですが・・・coldsweats01

『作者が現実では言う場すらない現場の実情と真実、理想や妄想を”代弁者”に仕立て上げた彦根に思う存分語らせる形で(誇張を含めて)想いを吐き出した』
きっとそうなんでしょうねぇ~
作者の思いは分かるのですが・・・
私は今回、あまりにも主張文っぽくって引いてしまいました。
一般人にはエンタメの中にこういう思いを吐き出してくれた方が伝わりやすいような気がするわ~

投稿: 由香 | 2009/04/25 23:55

■由香さん、こんにちはsun
>一般人にはエンタメの中にこういう思いを吐き出してくれた方が
そうですねー。「ジェネラル・・」はそういうところが抜群でしたよね。

とはいえ、京極大好きな私でもあるので、こうした説明・説教臭い本は嫌いじゃないです。
ただ、とにかく現職のお医者さんが描いている本と思うとあまりに生々しい。これがすべてではないワケで、あくまでも小説は小説であるべき、とは思います。受け取り手次第ではありますけどー。

あまりに速筆で次々新刊が出るのも正直困ります。言いたいことが沢山あるのでしょうね(笑)

投稿: たいむ(管理人) | 2009/04/26 13:38

こんばんは!私もようやく本作を読むことができました~。

今回は彦根氏の独壇場でしたね~。すごいインパクトでしたけど、本当の決着は次作以降になるでしょうね。
「勝ちすぎてはいけない」というのがネックになるんでしょうか・・・。

私も「ジェネラル~」のようなエンタメ的な作品が好きなのですが、これはこれで面白かったです。
今一番ホットな医療問題&厚労省ですし。裏側を垣間見た気がします。

投稿: Yuhi | 2009/05/07 23:48

■Yuhiさん、こんにちはsun
速水の独壇場とは一味違った感じで、まるで容赦のない彦根は凄まじかったですね。

>「勝ちすぎてはいけない」
海堂氏が度々口にする教訓ですけど、確かにそうなのですよね。ボーダーラインを見極めないとキルラインになりますから。
でも彦根の辞書に妥協って文字はなさそうでコワイです(><)

知らない方が楽なモノもありますが、医療問題&厚労省の裏側は勉強になりますね。
現実に、社会保険庁のように解体するまで治らない、ってならなきゃいいんだけどー、ってつくづく思っちゃいますね。
次回が楽しみです!

投稿: たいむ(管理人) | 2009/05/08 17:06

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