文庫版『海の底』(有川浩:著)
『海の底』の感想は、単行本の読後にアップしているので省略するが、文庫版『空の中』の中に続いて、文庫版『海の底』も”+番外編”の収録とのことなので、補足がてらに再アップ。
”番外編”といっても、作者の「あとがき」にて「やっと収録できた」とのコメントを確認し、既に雑誌で発表された既出のものだと判って少しホッとした。以前から筆の早い有川先生とは思っていたけれど、そうそう”書きおろし”の頻発はできないよね。・・というか、『塩の街』では(異例にも)後発の単行本に続編が収録される格好になっていた事から、全ての有川作品を”単行本”で揃えようと決めたので、「文庫でしか読めないから、もう一度買って!」と言うような、文庫化の度にオマケが付くのは歓迎できない。そりゃぁファンとしては、新たに続編や番外編が読めるのは無上の喜びには違いないのだけど。
今回は既出(とはいえ読むのは初めてだけど)ということもあり、購入せずに立ち読みで”番外編”と”あとがき”&”解説”を補完。
そこで思ったのだが、折角この番外編(「前夜祭」)を収録するのならば、オマケとして後ろに収録するよりも、大胆に「プロローグ」的短編として巻頭に持っていった方が効果的で、より楽しめる『海の底』になったのではないかということ。
(以下、その理由を書いているのだが、本編未読の方は以下の理由は読まずに、騙されたと思って番外編から読むことをお勧めしたい。)
番外編は、『前夜祭』として本編での大事件勃発前夜のお話。そのエピソードは本編でもチラと触れられている内容で、夏木&冬原のやんちゃな”自主訓練”の模様とその顛末が描かれている。ただし”自主訓練”という「種明かし」は最後になって漸く判明するものだから、現在進行形ではリアルで緊迫感のある文体で書かれており、初めて(これだけを)読んだならば、本当に海上自衛官の冬原がクーデターを起こしているように思ってドキドキしながら読み進めてしまうのではないかと思う。(例えば『踊る大捜査線 THE MOVIE2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』の冒頭みたいな感じ)。まぁ、既にネタを知っている自分であれば、”テロ行為”は大真面目な”遊び”と知っているだけにニヤニヤしながら読むワケで、それはそれで楽しかったけれど、もし何も知らずに読んだならば、すっかり騙されただろうと思うところ。
テーマは「停泊中の艦を襲撃出来るか、否か。」・・・冬原が反逆部隊の黒幕として艦を護る夏木に挑むカタチで事件は勃発。実戦さながらの攻防戦。互いをよく知る夏木と冬原なだけに、行動の読み合いや駆け引きが具合が実に面白い。何も知らさせれいない搭乗員のうろたえぶりはリアルそのものだし、上官達に気がつかれないようにする目論見が見事に崩れ去るオチなど、短編なのに実にうまく纏められていてとても面白かった。(夏木と冬原を可愛がっている懐の大きな艦長の在りし時を思うとちょっぴり切なくなるのだけど)。
解説は、有川作品を総じて絶賛する内容。「隠れ社会派」という内容には私も大きく頷くものだった。
まだ未読の人はもちろん、単行本で読んだ人も楽しめる1冊と思う。少々過酷な描写もあるけれど、世代性別を問わずオススメしたい♪
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