『ジェネラル・ルージュの伝説~海堂尊ワールドのすべて』
『ジェネラル・ルージュの凱旋』より、未だに東城大付属病院の医師や看護師に語り継がれている、速水晃ーICU病棟部長の研修医時代の逸話が『ジェネラル・ルージュの伝説』。その逸話となった出来事の前後を含めて描かれた物語がこの『ジェネラル・ルージュの伝説』である。
1991年10月、デパートにて大規模火災が発生。病院には次々と救急患者が押し寄せて一気に修羅場と化す。折しもその日は学会やら講演会やらで殆どの医師が不在。連絡すら満足にとれない最悪の状況の中、当時研修医1年生でしかなかった速水が総指揮権を行使、非常事態宣言の発動をさせ、さならがら「将軍(ジェネラル)」と呼ぶに相応しい差配で、修羅場の乗り切るという離れ技をやってのけた、というのが「伝説」の概要だ。(以下、ネタに触れているので、これから『凱旋』を読むつもりの方、映画を見ようと思っている方はご注意ください。)
プラスされている「ルージュ」については、初めての修羅場体験に異端児と言われた流石の速水も血の気を失い、唇を青くしながら膝を震わしていたワケで、「指揮官がそれでは困ります。周囲の士気に関わります。」と渡された花房看護師の口紅を塗ることでカモフラージュさせるとともに、自身のポテンシャルを高めた、というオマケ話によるものだ。
しかし、ここまでは『ジェネラル・ルージュの凱旋』で語られた単なる”伝説”。この『ジェネラル・ルージュの伝説』では、「えー、そうだったの?」という驚きの真相が明らかにされた。
確かに高々10年前の出来事で、当時を知るスタッフも少なくはなく、「ジェネラル」にしても「ルージュ」にしても、大筋は概ね間違っていない。・・が実際には、真実を知る者はおそらく当事者のみ、といった事実が判明。思わぬ黒幕には納得だ♪。また当時の水落冴子や城崎という面々が登場し、この時すでに因果関係が生まれていたことが分かったり、城崎に関しては、これからの作品につながりそうな「まさか」までが判った。田口もしっかり登場しているし、『ブラックペアン1988』の世良も再登場。世良先生とイイ感じだった花房がどうして速水と?という疑問を持っていただけに、この謎がやや解明されたのは大いなる収穫。他にも口紅を塗ることに抵抗はなかったの?とか、火災の原因は?などいくつかの疑問が解消され、とにかくタダの昔話に過ぎないスピンオフ本ではなかったことに嬉しくなった。
実は、「伝説」はすでに明かされているのにわざわざスピンオフを切るという、明らかに映画に便乗した商売っ気を感じて少し不満に思っていたのだが、上記のとおり書き下ろしに文句はないし、後半部分の「海堂尊ワールドのすべて」も、”シリーズ”として海堂作品が好きな人にはこれ以上ない辞書のようなもので、読み応えたっぷり。ただし、ネタばれの危険性があるので、未読の小説に関する部分は注意を払う必要あり、といったところ。(ということで、半分しか手を付けられない私だが)
”ジェネラル・ルージュの伝説”の真相を知りたい方には絶対おすすめ!目から鱗!と太鼓判を押したいと思う。
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