「エレジー」みた。
イザベル・コイシュ監督の作風として、今回も”いわく付き”な大人のロマンスだろうと思っていたが、これまでになく「男性視点」の色が濃く、なんだか男の悲哀が強く感じられる作品だと思った。だからジンワリ来るモノが「共感」とは少し違い、表現するのがなんだか難しい。なんとかコンスエラ(女性)側からの視点ならば・・・なのだが、コンスエラとも余りにかけ離れた我が身であり、「分らないではない。」といった曖昧な表現しかできそうにない感じ。
テレビやラジオにもレギュラー出演している、世間的にも知名度の高い大学教授のディビット。成人した息子が1人居るが、結婚は一生の不覚(失敗)としてとっとと妻子を捨て、現在は「性快楽主義」を謳歌している。コンスエラはディビットの大学の生徒だった。芸術的なまでに美しいコンスエラに心奪われたディビットは、ジリジリと2人の距離をつめて行き、遂に肉体関係を持つことに成功する。しかし、すっかりコンスエラの魅力の虜になったディビットは、己の「老い」を痛感させられることに。客観的にも自覚的にも「老い」を意識し、「いずれ彼女は自分の離れていく」と分析しながら、心は少年のように嫉妬と猜疑心で荒れ狂う。その心は、これまでのディビットにはありえないような言動をさせてしまうほどに、熱く深いものだった。自分とコンスエラの関係を、一般論のように分析して親友のジョージに語るディビット。一般論として、どうするべきかを忠告するジョージ。
結局、社会的地位や自身のプライドを捨て去るには、年を取りすぎていた彼らということなのだろう。それでも関係を切ることができない、ズルイ男の葛藤。自虐的でもあり、「まったく男って生き物は~」とため息をつきたくなるところだ。(でもジョージとの友情には泣かされたなぁ)
一方、コンスエラはディビットの葛藤をあまり理解していないというか、そもそもディビットが思っているほどには深刻に考えていない。コンスエラはコンスエラでちゃんと”今のディビット”を見て、愛していたワケであり、専門家としての勝手な自己判断だけを信じ、誠実にコンスエラに応えようとしないことに腹を立ていただけ。これはなんだか分る気がする。
何の障害もなかったはずなのに、馬鹿馬鹿しいすれ違い。でも、この2人のような関係だとしたら「世の中、そんなもんだろうなぁ」と思うところ。2年後に再会した時、彼女は乳がんを患い、全摘出しなければならない状態だった。彼女の顔と身体を愛したディビットだったが、それだけではなかったと失って気が付くといったディビットの変化。”芸術品”としてだけ求めてられいたと思わざる得ず、満たされない心の渇きに苦しんでいたコンスエラ。カタチが壊れて初めて真の愛情で結びつく彼らの姿を、私は美しいと思った。
今回も淡々と見つめるだけの映画だったが、観終わっての余韻はずっしりと重い。そんな映画だった。
総評:★★★★☆ 好き度:★★★★☆ オススメ度:★★★★☆
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コメント
こんにちは。
>カタチが壊れて初めて真の愛情で結びつく
いやあ、うまい表現ですね。
このくだりを読んで
クローネンバーグ監督の傑作
『ザ・フライ』のラストを思い出しました。
投稿: えい | 2009/03/13 15:00
■えいさん、こんにちは
うはは。えいさんにお褒めの言葉を頂けるとは光栄です。
『ザ・フライ』のラストシーンがぱっとイメージできないのが悔しいのですが(^^;
ありそうであまりないこのジャンルでの大人な映画、次回作も楽しみです。
投稿: たいむ(管理人) | 2009/03/13 20:20
こんにちは、たいむさん♪
最初は年の差カップルのロマンス映画だと思っていたら、なかなかどうして!
見終わった後に『いい映画観たな〜』って思える良作でした♪
ラストシーンは、なかなかステキでしたわん。
>「まったく男って生き物は~」
根本的にダメな生き物なんですよ、男って(自虐? 笑)。
投稿: ともや | 2009/03/14 12:12
■ともやさん、こんにちは
私もこんなにスリルある?ものだとは思ってなかったので、みいっちゃってました。
コピーでは「ラストをどう思う?」みたいな感じでしたけど、素敵に思っちゃいますよね?
>根本的にダメな生き物
イヤ~、そんなことは思いませんが、イイ女とは、それほどまでに男の本能をかきたてるものかと思い、年齢に関わらず、本能のままに生きようとする男の我儘がスゴイなーって思うところです。
魔性の女だったようですね、コンスエラは(^^)
投稿: たいむ(管理人) | 2009/03/14 19:37