『三匹のおっさん』 有川 浩 〔著〕
『ラブコメ今昔』から9か月。有川先生の新作『3匹のおっさん』が3/14に発売された。今回は有川作品の十八番である「ベタ甘」は控えめ。それというのも、主人公の3匹は”還暦”を迎えた”おっさん”たちだから。また、コチラも十八番である自衛隊や特殊部隊も登場しない。・・が、なんとこのおっさん達が(謎の)自警団を結成し、地域限定で身の回りにある小さな犯罪を未然に防止するために隠密裏に活動しているというお話だから、時にはちょっとした戦闘(?)ならば見られたりする。
このおっさん達が実にカッコイイ!読み出したら止まらないほどに魅力的な”3匹のおっさん”。とにかく面白かった!!
(以下、若干ネタばれを含んでいるのでご注意ください)
物語は、清田清一(キヨさん)の定年退職から始まる。キヨさんは、サラリーマンをしながら自宅の剣道道場では師範を務めるツワモノで、「定年」といえども頭も身体も「まだまだ若いものには負けん!」と自負するほどに達者な御仁だ。しかし、哀しいかな同じ年に門下生全員が卒業してしまい道場は休業、定年後は長年務めた地元ゼネコン会社の系列会社(アミューズメント施設)に経理担当の嘱託として週3.4日出勤する毎日を送ることになっている。家族は3つ年下の妻(芳江)と二世帯住宅で暮らす息子夫婦に孫息子(祐希)が1人。
キヨさんには、同じ歳の2人の幼馴染みがいる。1人は”元”居酒屋のオヤジの立花重雄(シゲさん)。営んできた居酒屋を息子夫婦に譲り、仕込み等では手を貸すものの表舞台からは引退して楽隠居生活をしている。ちなみにシゲさんも武闘派で黒帯柔道家。若き頃には輝かしい成績を飾った豪腕だ。同じ歳の妻と居酒屋の2階で暮らし、息子夫婦は通い。仕事中は幼い孫娘の面倒を妻が見ている。
もう1人は有村則夫(ノリさん)。腕っぷしはからっきしだが、頭脳派で名のある大学の工学部を卒業し、優秀な頭脳と手先の器用さを生かして自宅で細々と工場を営んでいる。仕事は大手企業の下請けとはいえ、専門的な職人技を必要とする受注専門で、食いぱぐれるコトはないようだ。身体の弱かった妻は流産を繰り返した後、40過ぎに漸く授かった娘(早苗)を産んで他界。以来「愛娘命」であり、見事なまでの溺愛っぷり。機械いじりと改造が趣味でちょっとした危険な武器をあっという間に作り上げてしまう、(祐希曰く)「一番アブナイおっさん」。娘にちょっかいを出そうものならば、命の保障があるのかないのか・・・というところだ。
ツルんでは”ちょっとイイコト”をやらかす悪ガキだった3匹は、時を越えて再び結託。言いだしっぺはシゲさん。「定年の日を境にパッキリ世間からジジイ扱いされてなるものか。」とのたまうキヨさんの愚痴から、「自分達は自営なだけにはっきりとした境目を体験する事はないが、確かにソレは面白くないと自分も思っていたところ。だが、おかげで都合の良く自由にできる時間がある自分らで(ってか暇を持て余しているともいう)、その時間でちょっとイイコトやらないか?」と提案したものだった。それには一も二もなく同意するキヨさんとノリさん。大昔とは”ちょっとイイコト”の内容が変わるだけの「三つ子の魂、百まで」である。こうして”3匹のおっさん”は結成された。
さてこの本は1章読み切り、全6章で構成されており、1章は発端であり、キヨさんの孫息子の祐希が大きく関わる事になる。
鷹がトンビを産み、トンビがまた鷹を産んだような清田家。実は円満とは言い難い。デキ婚で甘く、世間知らずな母親と、母に言い成りな父親をうざったく思い始めた多感な高校生の祐希は一見イマドキのチャラ男。生真面目なジーサンは煩わしく、息子夫婦を良く思ってないバーサンは嫌いじゃないが滅多に近寄る事もない。ところが何の偶然か、祐希のバイト先にジーサンが出向してきた事で、祖父と孫の関係は思わぬ方向へと流れ始める。
祐希のバイト先のゲーセン周囲では度々不祥事が発生していた。キヨさんは経理収支に異常を感じて店長に事実確認をしたところ、不可抗力を装った常習性の匂いを察知する。また偶然にもカツアゲの現場を目撃し、一連の不祥事を関連付けた捜査を開始する3匹となる。目撃したカツアゲはキヨさんの威厳で退散させたが、その場に居合わせたバイトが「ムカつくジジイの孫」と小悪党に知られた事を掴み、3匹は祐希への危害を阻止すべく、密かに警護を始める。しかし、それでも3匹は不意を突かれ、とうとう事が起こってしまう。・・・という話。
思いがけずジーサン達の活躍を目の当たりにし、ジーサンパワーとカッコ良さから(密かに)3匹には一目置くようになる祐希。それでもイマドキの高校生で言う事成す事イチイチ小生意気なのは変わりなし。とはいえさすがに小学生まで剣道を習い、勘が良く、それなりの礼儀も身に付けた、心根は優しく思いやりのある祐希。3匹に服従する気は毛頭ないが、老け込むのを嫌いながら、最悪のファッションセンスで自ら老けこんでいるジーサンを見かねて助言をはじめるなど、若々しいジーサンの裏稼業に敬意を示すかのように何気に応援し始める。
そんな頃、痴漢騒動(強姦未遂事件)が町内を震撼させ始めていた。第2章では、ノリさんの娘:早苗が関わることになる。
「痴漢警報」に3匹の出動をそれとなく察知した祐希。いつしか3匹の裏稼業に関わりたいと思い始めているのは「流石キヨさんの孫」なのだが、3匹には子供扱いされるばかりで、「蚊帳の外」には少々フテ気味だ。夜回りを強化してもなかなか尻尾を掴ませない狡猾な犯人だったが、やっとこ手がかりを掴む3匹。(もちろん祐希は教えて貰えない)。ある日、祐希はバイトに向かう途中に、不自然に横転し荷物が散乱した所有者不在の自転車を発見する。即座にキヨさんに通報するが、「待っていたら間に合わない」と果敢にも一人で立ち向かうおうとしてしまう。・・・という感じ。
実は相手は屈強な男であり、とてもじゃないが祐希がどうこうできる相手ではなく、結果的にも男として非力を悔やむ祐希となった。相変わらずキヨさんと祐希は憎まれ口の叩きあいだが、祐希は子供っぽい反抗心を極力控えるようになり、「ただ見ているのはイヤだ」とばかりに再び剣道の教えを請いたいとキヨさんに申し出で、ちょっと嬉しい祖父と孫は、新たなる関係を築き始めることになる。
そして3章は、シゲさんの、なんと家庭崩壊か?という事件が発覚する。「オレオレ詐欺」ならぬ「初恋詐欺」?。以前”熟年離婚”という言葉がマスコミを賑わしていたが、そこにも少し踏み込んだ、でもちょっとイイ話になっている。・・しかし、これ以上のネタバレは無粋なので、4.5.6章については読んでのお楽しみにして欲しい。
有川作品のスゴイところは、いつもどんなキャラクターも個性的かつ魅力的でキャラ立ちしているところ。3匹も祐希も早苗ちゃんも、出番こそ多くないがキヨさんの妻:芳江さんも実に良い。誰にでも感情移入できるし、嫌いなキャラが存在しないのが気持ち良い。みんな好きだけど、強いて言うなら、私の一番のお気に入りはキヨさんで、やはり清田家に注目するところ。牽制しあった祖父と孫のじゃれあいに(解ってて)ツッコミを入れる芳江、という図が大好きだ。
それから、今回は挿絵がとてもおちゃめでスゴク気に入っている。(申し訳ないことに知らなかったが)現役の漫画家:須藤真澄さんの手によるモノとのこと。まずカバー表紙の折り返し前後に描かれたカットが気に入った♪祐希のアドバイスを取り入れた”使用前(右)使用後(左)”が実にgood→
そして、愛嬌たっぷりのキャラクター達によってストーリーが表現された章の扉絵に、章末に添えられた描きおろしのワンカットがとても微笑ましく、心地よい読後感を添えてくれている。
ライトノベル感覚でありながら、恐喝・婦女暴行・振り込め詐欺・動物虐待・スカウト詐欺・悪徳商法という、我が身や家族が被害に遭わないとは言い切れない、身近で根深くて困った社会問題を盛り込み、家族の絆や友情・個人の成長(&ラブ)を絡めて同時進行で楽しませる作風はいつもどおりで「さすがは有川作品」だった。また今回は”おっさん”が主人公で、尚且つリアルな内容だったことから(実際に応用できそうな対処法は有り難いし)、今まで以上に性別や年齢といった読者層を選ばない作品だと思った。(”あとがき”でもそのように書かれていて、「やっぱり?」とニヤリ)
笑いあり、ホロリあり、緩急の付け所が非常にうまく、一気に読まずにいられない面白さ。3匹の活躍はもとより、祐希&早苗ちゃんの成長ももう少し見守りたい。別冊「文芸春秋」連載の作品とのことだが、「是非にも続編を!」と声高に訴えたいと思う。
余談:もしドラマ化されたら、3匹を誰にしようかな?・・とツラツラ考えてみる。
余談2:4/25に『海の底』の文庫版が発売予定だが、『空の中』に続き、またしても”番外編”が収録されるとのこと。『クジラの彼』の2篇とは異なるとなれば、読まないわけにはいかない。立ち読みでなんとかなるページなら嬉しいのだけどなぁ。
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コメント
うっ。これはタイトルだけでも読みたいっすね!『図書館〜』原作は手つかずなので、これを有川作品デビューにしようかしら。
しかしイマドキは60歳でも“おっさん”で通るのですね。ちょっとホッとしたかな?
さすがに50代後半になればジジイ、じいさんでも仕方ないと思ってたから…同様に30歳なかばになったら“おっさん”を名乗るべきだと思ってますしね……と、50前のオヤジは思うわけですよ。
投稿: よろづ屋TOM | 2009/03/19 11:50
■よろづ屋TOMさん、こんにちは
このタイトルには惹かれますよね(^^)
本当に世代を選ばず好評だったようですし、老若男女、誰にでもオススメできるので是非に(^^)
『図書館・・』は長いですしね~、良いかもしれません。
・・でなければ、『阪急電車』がオススメです。コチラも短編が組み合わされた感じなので、読みやすいですし。
最近の60歳は若いですよ。老けこむ人は、自分から老けこんでるんじゃないかな?って思います(^^)
それにしても、私はイヤですよ、30そこそこでオバサン呼ばわりは。アラフォーでやっと許容できるって感じですね。でもお姉さんと呼ばれるには努力が必要なんですよねぇ(^^)
投稿: たいむ(管理人) | 2009/03/19 16:57
たしかたいむさんの書かれた『阪急電車』のレビューを読んだ記憶が。
てか、なんで阪急?と記事タイトルに惹かれて立ち寄ったような…
いや、記憶はかなりボケてきてますよってに間違ってたらすみません。
ところで女性がおばさんと呼ばれるのは「んまっ、失礼な」があると思うんですが、野郎がおっさんと呼ばれるのは一種の“ある程度いっちょまえの男”の称号ではないかと。
「おい、にいちゃん」と「おい、おっさん」は少なからずオッサンの方が目線が上?みたいな?
(;´д`;)負け惜しみかなー。
いつになるかわかりませんが、この本読んだら私も配役考えてみたいな。そーゆー“なんちゃってプロデュース”大好きです。
投稿: よろづ屋TOM | 2009/03/20 01:26
■よろづ屋TOMさん、こんにちは
ええ、書いてますよ、感想(^^)
オバサンとおっさんの感覚の違い、そういうことでしたらわかる気がします。
関東と関西、それ以外。同じ言葉でも土地や文化によって違うかもしれないし、不用意には使えないナーとは思いますが、理由がわかれば納得ですね(^^)
投稿: たいむ(管理人) | 2009/03/20 18:17
こんにちは♪
ようやく読みましたよー!
最近見たい映画が全く無くて寂しい限りです。
関西人の夫によると、「おっさん」よりも「おっちゃん」がいいんじゃないかなぁとのこと。
それはともかく、相変わらずキャラクター設定が上手いですよね。
ノリさんのエレクトリカルパレードーーーーっ☆には笑いました。
祐希をイジりたおすノリさんも好きです。
「ガンダムナイト」は今から録画を見ます。
楽しみです♪
投稿: ミチ | 2009/07/27 08:40
■ミチさん、こんにちは
7月後半はぱったり見たい映画が無くって、私も退屈してます。
でも、ガンダム週間に入ったので、今日からとても忙しくなりますけどw
>「おっさん」よりも「おっちゃん」がいい
なるほどねー。響きは確かに「おっちゃん」が良いかもw
>ノリさんのエレクトリカルパレードーーーーっ☆
一番肉体的に非力なノリさんが、一番過激でコワイおっさんってトコも笑えますよねー。
おや?ミチさんはノリさんがお好みかな??w
「ガンダム・ナイト」は素人さんでもきっとOK!
もしミチさんが感想なんか書いたら、みんなびっくりしちゃううんじゃないかな?
暇ネタでいかが?反響を見てみたい気も・・?(笑)
投稿: たいむ(管理人) | 2009/07/27 17:08
たいむさん、こんにちはー
面白かったですー途中でとまりません(笑)
事件は残酷な痛ましいものも多いですが、愛すべき三匹のおっさんの活躍が爽快でとても心地よく読み進められますよね。
これは是非是非続編書いてもらいたいですー
まだまだみんなの今後が知りたくてたまりませんっ!
投稿: hito | 2010/10/25 12:03
■hitoさん、こんにちは
一気読みですよね、これ!
以前にも言いましたが、必ずと言ってよいほどひどい事件が絡んでいるのが有川作品の特徴で、私はベタ甘と社会派のツートップだと思ってます。
でも、毎度キャラクターの魅力で持ってかれちゃうんですよね~。
登場人物の全てをここまで立たせる作家って少ないと思います。続編、欲しいですねーw
投稿: たいむ(管理人) | 2010/10/26 19:01
3巻は、出ないんですかねー
投稿: | 2012/11/17 22:16
■名無しさん、こんにちは
更なる続編、書いていただけたら嬉しいですね。
投稿: たいむ(管理人) | 2012/11/17 23:18