『螺鈿迷宮(上・下)』 (著)海堂 尊
『螺鈿迷宮』は、『チーム・バチスタの栄光』に始まった”桜宮サーガ”の一つで、本流の『ナイチンゲールの沈黙』の次に発表された、支流(番外編)の位置にある作品。支流と本流の違いは”田口&白鳥”がコンビ”で活躍するかしないかであり、矢継ぎ早に発表された『ジェネラル・ルージュの凱旋』では再び本流に戻っている。こちらはほぼ『ナイチンゲール・・』と同時期に同時進行していた別の事件のお話。時系列的に言えば『螺鈿迷宮』は後の話であり、『ジェネラル・・』の後に発表されるのが自然だろうが、構想は『ナイチンゲール・・』より先に出来ていたとのことで、”出版社の違い”の含めて様々な”大人の事情”が働いたのだろうなぁ~と推測するところ。
『螺鈿迷宮』は、『ナイチンゲール・・』のラストで白鳥から田口に仄めかされている話の本線であり、支流ではあるけれど密接に関係している。よって(出版社は違えど)『ナイチンゲール・・』を読んだ後に(支流でも)『螺鈿迷宮』に行くのは順当に思う。ただ、第2弾として(いつの間にか)映画化が決定したのは『ジェネラル・ルージュの凱旋』だった。2つの本流作品は冒頭が被っており、『ナイチンゲール・・』は内容的にややオカルト的なことから、映画が『ジェネラル・・・』にとんだのも順当にも思う。とにかく、それぞれ単体として完成度が高いと言えるのだろう。ひたすら本流を進むもよし、時々支流へ流れて外堀を埋めるもよし、発表順が望ましいようには思うが、几帳面にこだわる必要もなさそうな”桜宮サーガ”だと私は思う。
『螺鈿迷宮』での主人公は、東城大医学部の学生:天馬大吉。落第を繰り返し、幼い頃に亡くした両親の遺産を食い潰している劣等生だ。そして、これまで名前だけが出ていた白鳥調査官の唯一の部下、氷姫こと「姫宮」の実体が初登場する。舞台は『ナイチンゲール・・』にて、疑惑が浮き上がり始めた”桜宮病院”。桜宮病院の(胡散臭い)行為が見え隠れし始め、国(厚生労働省)としても野放しにして置くわけにもいかなくなり、白羽の矢が立てられたのが白鳥。そして東城大医学部付属病院としても、喰うか喰われるかの未曾有の危機に直面することとなり、そこで利害が一致した白鳥と高階院長とが結託し、「桜宮病院は叩き潰してしまおう」と画策をはじめる事になる。そのミッションに天馬君が絡み、経過と事の顛末が描かれている。
”桜宮病院”で連続する、明らかに都合が良すぎる患者の不可解な死。最初から白黒ハッキリしているお話なので、読者は”組織ぐるみ”を確信しているわけで、徐々に明らかにされていく「システム」と「動機」を知るために先へ先へと読み進むことになる。そこには「死亡時医学検索」や「終末期医療制度」の光と闇、医療行政の実態などもリアルに絡められており、”海堂ワールド”炸裂な展開に引き込まれていく。ジャンルとしては「ミステリー?」と若干の疑問符が付くし、ネタがバレバレな展開も少なくないのだが、思いもよらない”因縁”などのサプライズもしっかり盛り込まれているので、読み応えはなかなかのもの。
エピローグでありながら現在進行形で終わるのも、次への期待も高まり、見事といえる。読後の満足感が得られる1冊だ。
さらに解説では、成長した「大吉クン」が再登場する作品構想もあるらしい・・と書かれていた。北の大地へ向かった(予想通りの)あの人の逆襲も気になるし、まだまだ広がり続けるだろう”桜宮サーガ”をこれからも追っていきたいと思っている。すでに『ジェネラル・ルージュの凱旋』にも取り掛かり始めた。コチラでも姫宮が初登場。いずれにしても『ナイチンゲール・・』、『ジェネラル・・・』、『螺鈿迷宮』はセットになってより楽しめるものだなーと思った。
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コメント
たいむ様、こんばんは!TBありがとうございました。
この作品は、純粋にミステリーとして読むと、???となりますが、現代医療の問題点なんかも浮き彫りにさせるお話で、なかなか読み応えありました。
また、白鳥の相棒の氷姫も登場し、白鳥に勝るとも劣らないトンデモキャラぶりが楽しめました。
今回のみのキャラクターかと思われた、大吉くんと葉子ちゃんも、もしかすると再登場があるかもしれないそうですねー。これもまた楽しみです。
投稿: Yuhi | 2009/02/03 22:56
ただの傍観者のようだった大吉も思いもよらなかった因縁があったりとなかなか惹きつけられる構成でしたね!
「ナイチンゲール~」でガクンとしちゃったけれど、その後2作続けて読んで面白くて、やっぱりいいですね海堂さん!
ちょっとメッセージ性が強すぎて後半尻つぼみのような気もしましたが、余韻あるラストで・・
いつか又出会えそうですね~♪
投稿: hito | 2009/02/04 11:02
■Yuhiさん、こんにちは
実メッセージは本業絡みなのだけど、ミステリ仕立てで書けるところが素晴らしいですよね。
>氷姫
キャリア!って感じで冷たそうなイメージだったのに、天然キャラで皮肉めいたネーミングだったのには一本取られた感じですねw
個人的には「ミス・ドミノ」が一番ぴったりと思ってますが(^^)
今後も海堂ワールドが見逃せませんね!
投稿: たいむ(管理人) | 2009/02/04 19:45
■hitoさん、こんにちは
大吉クンの過去がまさかこんな風に・・・って驚きでしたね。
メッセージ性の強さ・・・は、私は結構あの手の詭弁と葛藤が好き(というと語弊があるけど)なので、逆に尻上がりに加速した感じ(^^)
余韻あるラストは、予想通りでもあり、ニヤリでした。
あの人この人の再登場が楽しみですね!
投稿: たいむ(管理人) | 2009/02/04 19:59
こんにちは~♪
おお~!!ちょっとお邪魔するのが遅くなってしまった間にジェネラルの感想も書かれたんですね~後でお邪魔しちゃお
螺鈿は好き嫌いがありそうなお話でしたが、個人的にはしっかりハマりこんで堪能出来ました。
なかなか雰囲気も良くって映像化も出来るかも?!なんて思っています。
この後から海堂さんの作品は、東城大学を巡るエンタメ作品から医療問題についてガンガン主張する作品になっていきますが、、、何だか読みたくなっちゃうんですよね~(笑)
投稿: 由香 | 2009/02/07 15:58
■由香さん、こんにちは
ええ(^^)「ジェネラル」はあっという間に読んでしまいました!
私も「螺鈿」は結構好きです。「ナイチンゲール」が突飛過ぎましたが、見事に沈静化に成功してますし、巌雄じいちゃんの詭弁も大好きです(笑)
専門性に溢れていても、メッセージ性の強い作品は、2時間ドラマ用の気軽なミステリ探偵モノより全然好き!
「死因不明社会 Aiが拓く新しい医療 」も、高階先生がナビゲータだというし、読みたくなりました(^^)
投稿: たいむ(管理人) | 2009/02/07 17:46
たいむさん、こんにちは!
「チーム・バチスタの栄光」に比べ「ナイチンゲールの沈黙」はいまいちだったので、ちょっとハードルを低めにして、本作を読みました。
そのためだけでもないですが、けっこう楽しめました。
海堂さんの作品はちょっと普通じゃないキャラが魅力ですよね。
本作はやはり姫宮です。
やっと登場といった感じで、こんな人だったのかとやっとわかりました。
白鳥と組むにはこのくらいじゃないと役者不足なんでしょうね。
投稿: はらやん | 2009/02/14 14:10
■はらやんさん、こんにちは
>ちょっと普通じゃないキャラが魅力
ですよね♪。桜宮サーガのつくりといい、キャラに関しても京極ワールドに近いものを感じていますよね(^^)
>姫宮
こんなドジッ子とは思いませんでしたが、スイッチオンの姫宮への豹変ップリが好きです。
ホント白鳥相手は少しピンボケしてて、ネジが緩んでいるくらいないとダメなんですねー。
投稿: たいむ(管理人) | 2009/02/15 09:35
まいどどうもです
相変わらずミステリーのネタとしては
イマイチ判りやすかったですが
キャラの立て方とお話の繋ぎ方は流石でしたね
天才天然キャラの姫宮の活躍は可笑しかったです
続きもありそうですし
医者になった大吉君とか見てみたいです
投稿: くまんちゅう | 2009/05/22 00:12
■くまんちゅうさん、こんにちは
どのキャラも個性的で良いですよね。
姫宮がこんなに濃いキャラとは思っていませんでしたが、こんごもアチコチで活躍するようですし、シリーズの楽しみが増えましたね。
私も続編を楽しみにしています。
因縁の対決もまだ決着がついてませんしね(^^)
投稿: たいむ(管理人) | 2009/05/23 20:34