『うそうそ』 畠中 恵 〔著〕
『しゃばけ』『ぬしさまへ』『ねこのばば』『おまけのこ』に続く、”しゃばけシリーズ”の第5弾がこの作品。シリーズは第7弾までが既に発刊されているが、私はこのシリーズを「文庫化待ち」と決めたので、現在は11月に発刊されたばかりの『うそうそ』が文庫では最新刊だ。
『うそうそ』は11/29にTV放送されたのドラマの原作でもある。実はこれが私にとって誤算となった。昨年はじめてTVドラマ化された『しゃばけ』。その時点で第2弾までの制作決定は知っていたが、第2弾は順当に『ぬしさまへ』のはずだった。ところが実際は『うそうそ』に。「えーっ?!まだ読んでないじゃん!」である。発売と同時に購入はしていたものの、まさか『うそうそ』とは思わなんだから、のんびり構えていた私。本気で読めば何時間もかからない作品だが、丁度忙しくしていた時期で、結局放送には間に合わず、在宅なのにドラマを録画するハメになってしまった
長崎屋のひと粒種である一太郎(若だんな)は妖の血を引いている半妖。おかげで人ならぬモノたちを見る力があるけれど、(今のところ)力はそれだけ。逆にワケありな誕生だった分だけ”超虚弱体質”に生まれつき、コレまでの人生の半分以上が寝付いている有様だ。大事をとって一太郎が生まれた時に守り役として迎えられたのが仁吉と佐助の2人。一太郎も成長し、現在2人は守り役兼長崎屋の手代として働いているが、実は白択・犬神という正真正銘の妖である。
1人で外出する事もままならない、両親や守り役の過保護っぷりにはうんざり気味な一太郎だが、自分は皆に守られている事、恵まれた境遇に在る事、一朝一夕にして屈強になれるモノではない事をちゃんと理解しているから、必要以上に我侭を通したりはしない。それ以前に抵抗するだけの体力がない我が身のひ弱さ恨めしく思い、逆に無力感に苛まれている一太郎で、それが目下の悩みとなっているこの頃の一太郎だ。
・・以上が基本の設定。
さすがに第5弾ともなると、ご近所さんまでの外出くらいは自由になり始めた一太郎。コツコツと小さな努力を積み重ねた成果だろう。そしてなんと今回は、湯治を名目に箱根までの旅が許された一太郎だった。生まれてはじめての旅行にワクワクな一太郎だったが、地震は頻発するわ、旅路では兄ぃや達とははぐれるわ、誘拐されるわ、天狗に襲われるわ、神様に遭遇するわ、といった具合。そんな珍道中が描かれているのが『うそうそ』のお話だ。
お茶目な鳴家たちも良い仕事をしてくれているし、体力的にはまだまだだけど益々賢く成長している若だんなで、やわらかい物腰と温和な人柄が相変わらず好ましい。とにかく嫌なところが全くと言って無い穏やかな作品。それでいて山あり谷ありと様々な伏線が張り巡らされており、それこそひと山ふた山で終わる事なく最後まで堪能させてくれるお話が良く出来ている。サクっと読めるので、ドラマを気に入った方には是非オススメしたい。”朝顔”の扱いほか若干異なっている部分も多く、原作は原作で楽しめると思う。(ドラマはゲストキャラの活躍が多い為、シンプルに思うかもしれないけれど)
今回も何度となくピンチに見舞われる若だんなだが、程よく安心していられるのがこの作品のラクなところでもある。トコトン追い詰められるような展開から、憤りや嘆きの感情で揺さぶられる作品も嫌いじゃないが、お約束でも心地良い作品を好むこの頃の私。お約束でも安直ではないこのシリーズは、調度良い按配の作品だ。
シリーズを追う毎にどんどん文章や構成が上手くなっているのも分かる。シリーズの「文庫化待ち」は決めた事だが、畠中先生の別の作品を今度は読んで見ようと思っている。
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