« 『黒執事』ねぇ。 | トップページ | やればできるじゃん! »

2008/11/19

『黒塚-KUROZUKA-』 夢枕 獏(著)

Kurozuka 『陰陽師』シリーズなど、いくつかのシリーズは継続して読んでいる獏さんの小説だが、ノーマークだったのがこの『黒塚』。現在アニマックスで放送中のアニメ『黒塚-KUROZUKA-』の原作である。アニメの制作はマッドハウスで、映像のクオリティはとても高い。しかし、奇抜なストーリー構成には???な視聴者も多いのでは無いだろうか?とにかく毎回「一体何が何なんだぁ~」と困惑する私だ。普段ならば原作が”小説”である作品を放送中に読み始めることはないのだが、この作品には、どうにも補完せずにはいられなくなってしまった。

とても意味深なところなのに中途半端に「ブツっ」と終わり、あっけにとられた第1話。そして1話のラストに触れることなく異なったシチュエーションで始まり、途中1話の出来事に戻るようでありながら「バサッ!」と斬られ、様子は一見続きのようにも見えるその後だが場面は一変。そのまま「ブツっ」終わる第2話にまた呆然。3話は2話の続きで始まり、以降は一応連続した世界が描かれるものの、1・2話の世界とは繋がらない現在で、どう解釈して良いものやら混乱してしまう。一応、主人公の2人(黒蜜とクロウ)は不老不死の吸血鬼で、鎌倉・室町・戦国・江戸・明治・大正・昭和・平成そして近未来へと繋がる壮大な物語とだけは知っており、よって急激な場面の変化は「時代」をスキップしたものと推測でき、クロウの”生首と完全体”についてもなんとなく想像が付かないでもないが、さすがになんら説明がなされない据わりの悪い展開と終わり方の連続には、もはや笑って誤魔化すしかなくなった(^^;
しかし、投げ出してしまおうとは全く思わないのが面白いところ。難解というのではなく、余りの意味不明とブツギリに好奇心が刺激され、良い意味での逆効果が発揮されたようだ。なんだか制作陣の思惑にまんまと嵌められた?と邪推してしまう。

原作の大まかなあらすじは、【不老不死の謎の女:黒蜜によって、不死身の身体となったクロウ。同じように長き時を生きる2人でありながら、約100年に一度だけ、ごく僅かな時間を共有するのみでいつも離れ離れになってしまう黒蜜とクロウだ。再会の都度、何故かすべての記憶が朧気となるクロウ。よって黒蜜と別離した後は、”己の過去と秘密を知ると思われる謎の女”として、常に黒蜜を探すクロウとなる。そして最後の別離から120年後となった現在、様々な陰謀に巻き込まれながらも漸くクロウは黒蜜の元にたどり着き、遂に事の発端と顛末、真実に至る。】・・・というものだ。

ちなみに事の発端は以下の通り。
命を狙われ追われている九郎坊と大和坊は、人里離れた山奥で美しくも謎めいた女:黒蜜に出会う。過労によりその場で倒れた九郎坊で、条件付ながら暫くの間2人は黒蜜の家で匿われることになる。条件とは”決して黒蜜の閨(ねや)を覘かない”こと。
追われる身ゆえ、時折大和坊は偵察をかねて下界の様子を伺いに家を空けることあった。ひとりでも約束を守る九郎。やがて九郎と黒蜜は深く愛し合い結ばれる。しかし悲しいかな、遂に九郎は約束を破って閨を覗き、生血を啜る黒蜜の奇怪な行動を目撃してしまう。嘆く黒蜜。さらに運が悪いことに、時を同じくして九郎の追手が家に踏み込んできた。九郎は瀕死の重傷を負い、黒蜜共々山に逃げ込むことになる。九郎の命を救うべく、不老不死の我が身である事を明かし、血を分かち合う事を提案する黒蜜。受け入れる九郎。”吸血の儀式”はまもなく終わる筈だったが、そこにひとりの男が現れる。油断した刹那、九郎は首を落とされてしまう。

以上が原作での序章~二幕までで、ある程度原作を踏襲したアニメの第1・2話に描かれているエピソードだ。ところが三章は新たなる場面で始まる。とどのつまりが、原作も「バサッ!ブツ!」だったわけで、私の補完のための読書は意味をなさなかったことになる。でも、読み終えてみれば「首を落とされても復活するクロウ」がこの物語の全てであり、つまり「バサッ!ブツ!」は必要不可欠なモノで、経過を完全に省く展開もすべて計算だったということが分かった。(悪戯に混乱させた見せ方をしたアニメでもないということだ)。改めてアニメの1-3話を見てみると、ちゃんと辻褄が合っているし、意味不明に思われたひとつひとつに合点も行く。すっかり飲み込めてしまう私になっていた。(原作と異なる部分は別としてだが)。
アニメを抜きにした感想としては、黒蜜の”不老不死”に”八百比丘尼”の伝説が絡めてあったり、彼の男が”仁王立ち”で絶命するあたりには、”獏さんらしさ”が感じられてニッコリするところだった。また、「あとがき」を読んだ瞬間、霧が晴れるように嬉しくなった。アニメでも小説でも感じられた「居心地の悪さ」について、獏さん自身も「不条理」に近いものを確信していると書かれていたからだ。理由は「戯曲を小説にした弊害」とのことで、そもそも”戯曲”は時間的・空間的表現を立体的にすることが可能で、文字だけの小説よりも自由度がはるかに高いということだ。視覚で魅せることができる舞台では、余計な説明を省くことも、理屈を超えるすることもアリなのだ。そう考えれば、小説という媒体で良くぞここまで纏め上げたものと頭が下がる思いがする。また、「居心地の悪さ」はあってしかりで、私の読解力が劣っているワケではないと判ってほっとした。

ところで、読み進むと原作はアニメの設定とは大分異なりっていることに気が付く。アニメは同じパーツを使用しつつもカナリのアレンジを加えているようだ。(漫画は未読で比較できないが)。おかげで原作を読み終えて尚、アニメの続きを新鮮に観ることができそうで嬉しい。九郎坊と大和坊の正体が最後まで隠されていた原作と、最初から明らかにしていたアニメ(絵的に明かさないのは無理?)でもあり、この差異の影響は少なからずありそうで、異なるサプライズを期待したいところだ。

文庫本で600Pを超える長編大作。ややグロ系ではあるけれど、獏さんの文章はしつこくなくて読みやすいからサクサク読めると思う。アニメで興味を持った人はもちろんだが、小説として興味を持った人にもオススメ作品だ。

|

« 『黒執事』ねぇ。 | トップページ | やればできるじゃん! »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/106009/43156925

この記事へのトラックバック一覧です: 『黒塚-KUROZUKA-』 夢枕 獏(著):

» 「夢枕獏」の感想 [読書感想トラックバックセンター]
「夢枕獏(ゆめまくらばく)」著作品についての感想をトラックバックで募集しています。 *主な作品:餓狼伝シリーズ、魔獣狩りシリーズ、陰陽師シリーズ、神々の山嶺、格闘的日常生活、上弦の月を喰べる獅子、他 書評・評価・批評・レビュー等、感想文を含む記事・ブログから..... [続きを読む]

受信: 2008/11/20 14:01

« 『黒執事』ねぇ。 | トップページ | やればできるじゃん! »