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2008/10/14

『塩の街』 有川 浩 〔著〕

Shionomachi_2 有川浩先生のデヴュー作。といってもこちらは加筆修正及び続編までが収録された2007年発売の単行本。正真正銘のデヴューは2004年でライトノベルの電撃文庫から『塩の街-wish on my precious』として発表されている。改めての単行本化については”あとがき”にて経緯が説明されている。どうやら「第10回電撃ゲーム小説大賞」大賞受賞作になってしまったことからライトノベルでデヴューするしかなく、内部事情による紆余曲折があったらしいが、詳細が気になる方は本を手にとって確認して欲しい。文庫と単行本の相違点などにも触れられているし(^^)

有川自衛隊3部作:陸自編が『塩の街』。同じく空自編が『空の中』、海自編が『海の底』。自衛隊・・などど言うとお堅いイメージを持ちそうだが、『空の中』では成層圏に浮遊する未確認知的生命体が、『海の底』では海底に潜む巨大甲殻生物が登場するとバリバリSFファンタジー(&ラブ)だ。『塩の街』もまた、東京湾の埋め立て地に落下した巨大隕石は見た人間を”塩”にしてしまう結晶だった・・・という、これまた奇想天外な作品。(どことなく『銀河鉄道999』での”化石化ガス雲”や”ガラスのクレア”を彷彿する)。『図書館戦争』シリーズではさすがに”怪物系”は登場しないもののやはり「ありえねぇ」世界。なるほど『塩の街』はそんな有川作品の原点と思われ、デヴュー作から慣れ親しんでいれば突飛な発想に戸惑わずに済んだものと確信するところだ。

結晶によって人口の過半数を失う深刻な事態の中、偶々体調を崩して自宅で寝ていた為に落下直後の結晶を直視することなく生き残った高校生の真奈と、やはり結晶を見ていなかった為に生きていた青年:秋庭の2人は出会う(運命の出会いなんだろうなぁ)。ライフラインのほとんどが停止し、配給に頼る生活。世の混乱に乗じた男達の魔の手から間一髪真奈を救ったのが通りがかりの秋庭だ。以来、秋庭に拾われた形で生活を共にし始めた微妙な関係の2人となる。(もちろん秋庭に邪な思いはない。)しかし、やがて・・・なのはお約束。(^^)
出会いと別れと目の前の事実から、閉じていた自分の過ちと本当の気持ちに気が付く真奈。非常事態に陥り、真奈と出会い、初めて人との関わりを大切にしようと本気で思うようになる秋庭。そして、結晶の破壊に動き出した自衛隊から白羽の矢を立てられたの秋庭だった。

「愛は世界を救う」の「愛」は決して「博愛」などではない、というのがこの物語の肝。「非常事態は2人が出会って恋をする為のモノ。」だなんて犠牲の数を見たら言えない傲慢な言だけど、ロマンチックな逆転の発想に軽く衝撃を受けた。更に「世界を救うなんて大層なお題目の為に命を懸けるハズもなく、ただ愛する人を護ろうとしただけ。世界の皆が救われたというのなら、それはオマケでしかない。」という解釈にも唸った。「なるほど、理に適っている。むしろそのほうが自然?」・・と笑ってしまった。私のこれまでの”世界を救う”贔屓のキャラクター達は、私情に走らず身を犠牲にしてまで多くのものを守りたいと願う者ばかりだったから尚更だ。(正反対では、世界を守るために自分の犠牲はもちろん、愛する人をも「解ってくれる」と撃とうとしたヒーローもいたか・・^^;)。
命を懸けて守りたいモノの為に戦う覚悟を決めるところは同じでも、たった一人の愛する人だけの為に戦うことはなかったわけで、この動機と理屈はとにかく新鮮に感じてしまった。解釈としては、実は「一の為の万の犠牲」を辞さないエゴな動機だったりするものだけど、秋庭の場合は必ず世界のオマケが付くのが大前提。(最初からそれを狙って秋庭に作戦を強いる巧妙な作戦だし。)残るのは結果だけで、世界と恋人のどっちが先でもめでたしめでたしってね。それにしても黙っていれば英雄、告白すればエゴイストもどき。実に面白い事実と真実だよね。

『塩の街』は分別ある大人と高校生のカップリング。10歳の年齢差なだけにベタ甘とは行かないが、それでも片鱗はすでに見え隠れ(^^)。しかし続編は「その後」でありまったく期待どおりのベタ甘が待っていた♪。こうなると後発ファンでも納得の一冊間違しかな(^^)

「守っているつもりで、いかに守られているか。」にもヤラレタ。恋愛モノとしては少女マンガよろしく左程の作品じゃないけど、それでも思い当たる節があったりなかったり、目から鱗の部分には感動すら覚えた『塩の街』だったように思う。作品の発表順を遡る読み方となり、デヴュー作だからと未熟さ危惧していたが、どうしてどうして。表現がややワンパターン化する以後の有川作品なので、それ以前の固まっていない文体が返って良いんじゃない?とか思ったりもして?(^^;)

残るは『海の底』のみ。既に手元にあるのだが、有川作品の連続はそれこそワンパターンに疲れるので、少し時間を置いてから読みたいと思う。

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コメント

こんにちは♪
デビュー作からすでにキャラのパターンが出来上がってますよね。
それを知ることが出来ただけでもこのデビュー作を読んだ甲斐があったってもんです。

>私のこれまでの”世界を救う”贔屓のキャラクター達は、私情に走らず身を犠牲にしてまで多くのものを守りたいと願う者ばかりだった
なるほど~、そうだったんですね~。
多分それがたいむさんの好みでもあったのかな。

私は案外
>世界を救うなんて大層なお題目の為に命を懸けるハズもなく、ただ愛する人を護ろうとしただけ
こういうキャラが好きだったりします♪

投稿: ミチ | 2008/10/16 21:43

■ミチさん、こんにちはsun
ウハハ。一番の御贔屓さんはドンピシャに自己犠牲の人なので、そういうことになるのかな?
でも、そのキャラに対しては、「たまには自分の幸せも考えなさい!もっと我儘になってもいいんだよ。」ともどかしく思っているので(おそらくソコが萌えポイントでもあるのだけど)、ほどほどに・・・ではあるんです。
ということで、建前は”世界を救う”なのだけど、実は世界に尽くすことで愛する人を守りたいと思っているような感じがツボかもしれません。やっぱり愛する人のための犠牲ですよ(^^)。
でも流石に”世界がオマケ”な発想はとんと思いつきませんねー。
ま、アニメ(映画もかな?)の場合は、結局両方、もしくはみんなを救っちゃうんですけどね(笑)

行き着くまでに時間がかかったけれど、おっしゃる通り、原点が見られるデヴュー作を読んだ甲斐がありました!

投稿: たいむ(管理人) | 2008/10/16 22:22

まいどどうもです
単行本ではなくて本当のデビュー作として文庫を読みました。
最初の2章が伏線になってだんだんと緊張感が増していく感じが良かったです。
愛は地球を救えないって断言する入江が何気にお気に入りです。
>「守っているつもりで、いかに守られているか。」
コレも成る程って思いました
順次空とか海とか読んでみたいと思ってます

投稿: くまんちゅう | 2008/10/24 23:49

■くまんちゅうさん、こんにちはsun
冒頭の登場人物が主人公でないあたり、困惑しないではなかったけれど、最後まで伏線となっていて、私も上手いと思いました。

3部作、是非読んでくださいねw

投稿: たいむ(管理人) | 2008/10/25 16:22

ちょんまげぷりんを先に割り込んで読破したのでシアターが後まわしになりましたが、まずは塩の街読破。電撃の読者メインで設定変更した部分をいくばくかは単行本化で取り戻せたようですが、この規制ってモロに「図書館戦争」リアルにやってますね。(笑)
クライマックスでええわ~コレってダーダー泣いて番外編でケタケタ笑かしてくれる。有川さんの本は外で読めないや。
…入江のムチャクチャさの裏に今までの心の傷やら諦めの境地からくるひねくれた悟りを思ってむしろ好きになっちゃいました。身近にいてほしくないキャラだけどね。

投稿: Ageha | 2010/02/22 13:13

■Agehaさん、こんにちはsun
そうですね、「シアター」はちょっと大人向け?なので、ライトノベル仕様のデビュー作を先に読んで、とりあえず有川作品の原点を知るってのも良かったかもしれません。

有川作品は、どん底に落としてから盛り上げるのが得意。ダーダーと泣かせたあと、よかったよぉと、また泣かせて、更にもうひと救いしてくれるのが心地いんです♪

キャラ設定も、熱血大胆系と冷静沈着頭脳派系(でもウチは熱い)の登場率が異常に高い。微妙にどの本も違うんだけど、どれも同じ印象で、だから一度はまると全部ハマる公式成立(^^;

私は「図書館戦争」の小牧が好きなんです。今後Agehaさんの好みのキャラが変化するかどうか楽しみにしていますねw

投稿: たいむ(管理人) | 2010/02/22 19:59

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