『おおきく振りかぶって(11)』を読んで。
思惑どおりに3回戦をコールドゲームで勝利した三橋・阿倍バッテリーの西浦高校。11巻はぶっちゃけ5回戦ありきでの”つなぎ(伏線)エピソード”で纏められている。5回戦は更にぶっちゃけ致命的なトラブルが発生するとのことで、見事に”カウントダウン開始”の不穏な空気が漂い始めたところで終わる11巻だ。
11巻目にして初めて”1試合”が14ページほどで終了した4回戦の港南戦。しかも経過は他校視点(美丞大狭山監督&コーチの観察と分析)で描かれていた。これまでも、中心の西浦高校だけではなく、対戦校の内情にも深く踏み込んで描かれてきた『おおきく振りかぶって』だ。他校のナインにも感情移入できる作品として評価はしているが、三橋と阿倍以外の西浦ナインはほとんど背景となりちょっぴり寂しい11巻かもしれない。
いつもどおり三橋の心情に、いつも以上に阿倍の内面が描かれた11巻。
3回戦終了後の帰途での出来事から11巻は始まる。”敬遠”について語り合う(珍しく会話が成立)三橋と阿倍だ。会話から、少しだけ意志の疎通を感じて喜ぶ阿倍君だけど、実は食い違ったままだと知る私は阿倍君が不憫でならない。一から十まで指示を出して世話を焼きまくる阿倍君を、「自分は大事にされている。」と三橋君が思ってくれるようになった事がせめてもの救い。「期待に応えたい!」と思う三橋君でもあるから、完全には噛み合っていないのに、結果だけ噛み合ったように見えるから、余計に事態をややこしくしてしまうのではあるけれど・・・。
阿倍君に対してはすっかり”畏敬の念”を抱いてしまっている三橋君。花井君には”仲間として”懸命に会話を続けようとするなど努力が見えはじめ、成長は感じられるものの田島君の何気ない引っかけに動揺する三橋君でもあり、まだまだ大きな変化は見られない。(入学して3か月と思えばかなりの進歩とは思うが)
三橋の思考を一番正確ににキャッチできる田島君だけど、三橋の誤まった解釈を肯定する気はなさそうだ。「(阿倍君がいれば自分は負けない)阿倍君は いてくれる いつも」という三橋に対して「”いつも”」と返し、”本当に?”といったニュアンスを匂わせる。こと野球に関しては三橋君であろうとシビアな言葉をぶつけてくれる田島君だ。ニュアンス的な言い方なのは、感性から出たストレートな言葉だからで、実は素朴な感想を言葉にしただけとも思うが、なんであれ(方向性は同じでも)阿倍君とは違う、田島君の存在はとても有り難いことだ。
何も考えていないようでいて常にグルグル考えている三橋だということにまだ気が付いていない阿倍君。意思表示すらまともにできない三橋が元凶ではあるけれど、自分の思考が正道と思っている阿倍だからこそ、理解できない三橋の心情と思いこんでいるところが阿倍君の最大のミステイクだと思う。阿倍の優秀さは”固定概念”に縛られた上で成立しているように思う。阿倍のそんな「優秀」であることの自負が、阿倍と三橋の距離を縮めないと薄々思っていたが、”阿倍父”の登場から憶測が正解だった思え、ちょっと嬉しくなった。阿倍父は初対面でビクつく三橋に構わず「隆也のこと怖くない?」と質問をぶつける。(阿倍父も三橋君にとっては十分”怖い人”だと思うのだがw)そして答えられない三橋からバッテリーの関係と息子の壁をほぼ看破したようだ。どうやら伊達に阿倍君のオヤジをやっていない感じ。息子にはヒントしか与えないオヤジだろうと思うけれど、阿倍君にとっては”気づき”のチャンスとなりそうだ。まだまだ反発が先行するものの自分を見つめ直す阿倍君であり、なかなか良い傾向だ。
4回戦を突破し、西浦高校はベスト16入りを決める。しかし次なる5回戦:美丞大狭山戦では、もう一つ”阿倍の優秀さ”による危機が訪れた。美丞大狭山の監督:滝山とコーチ仲沢呂佳に分析されつくされた阿倍のリードパターン。一回の表にして3点を奪われてしまう三橋君だ。球種が読まれていることを察知した阿倍君の機転と対応は早かったが・・・、残念ながら11巻はここまで。”桐青戦”と同様に長丁場となるだろう”美丞大狭山戦”で、”悪夢”が待っているという今後の展開を思うと気が気でない。・・・とはいえ、美丞大狭山の分析が「阿倍」のみに絞られているとしたら、”悪夢”が逆に突破口へと転じる可能性が見え、やはり決勝は「西浦VS武蔵野第一」という私の夢が打ち砕かれることはなかろうと、希望が残された伏線を都合よく解釈させて貰うことにした。
半年前後先だろう12巻を、首を長くしつつ待ちたいと思う。
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