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2008/04/24

『医学のたまご』 (著)海堂 尊

Igakunotamago『医学のたまご』は、海堂尊の『チーム・バチスタの栄光』から始まる”東城大医学部シリーズ”の流れを(ちょっぴり)汲む本。田口や高階がほんのり登場。・・と言いつつ、実はシリーズで読了しているのは『ブラックペアン1987』のみだったりする。映画鑑賞後に『チーム・バチスタの栄光』を読もうと準備していたのだが、すっかり後回しになって未だに手付かず。(いろいろ割り込みがあったもので)
この本は「ブラックペアン」の読了直後に読んだもので、今更な感想UPなのだが、低年齢層向けながら、だからこそ基本的で教訓めいた内容が面白く、いつか紹介したいと思っていた。

東城大医学部とはいえ、主人公は中学生。「ゲーム理恵論」の第一人者である大学教授を父親に持つ、ごく普通(以下?)の中学生1年生の薫(男の子)だ。父親はマサチューセッツ大学に籍を置いている為、年の半分以上がアメリカ暮らしで不在。父親とのコミュニケーションは電子メールの往復がその大半を締め、離婚から母親はいない。双子の片割れが母親と共に暮らしているが、離婚当初から音信不通。生活の一切は家政婦頼みという特異な家庭の子だ。
このカオル少年、成り行きから「天才少年」として東城大医学部へ特別編入することになるのだが、実は平凡な少年でしかない。”答えを知っていたテスト”で最高点(日本一)を取ってしまうような、物事を深く考えることのない少年。「勝ちすぎ」は分不相応な高評価のレッテルをカオルに貼るが、ささやかな優越感とくだらないプライドが否定及び訂正の機会を喪失させ、実力も無いくせに流れに身を任せて”大人の都合と思惑”に飲み込まれてしまうカオルだ。
簡単に言えば、「自分で蒔いた種はきっちり自分で刈り取とらなければならない。」という教訓物語で、己の無知と愚行・勘違いを、身を持った体験からやっと認識し、それでも理不尽な事とは闘う勇気を得、学んでいくといった成長物語である。
カオルには「なんと浅はかな・・」と思うところだが、平凡な中坊の思考と思えば、カオルの悪気なき愚行は理解の範疇にある。しかしどこまでも嘘の上塗りを続けるカオルには、読んでいてイライラが募る。よく調べもしないでカオルをスカウトした藤田教授も、傲慢で見栄っ張り、部下の手柄は自分の手柄、自分の失敗は部下の失敗という人物でカナリ悪どく描かれているが、カオルの愚かさがそれに勝り、私にはまったく同情できなかったのが(作品として)痛いところと思う。英語も数学も勉強ができなくても、歴史が好きで、父親の教訓めいた名言をノートに書き取るくらいマメな子供なら、そこまでバカじゃないだろう?と設定に矛盾を感じてしまうしね(「三国志」等は教訓だらけで答えまでしっかりあるというのに)。・・とにかく、主人公に感情移入できない物語はキツイ。成長過程とはいえ、あまりにお調子者で浮かれた少年として描かれているカオルが不憫だったかな。
ともかく、金と名誉の為に功績を急ぐ藤田教授の思惑に勝手に担ぎ出され、最終的に何もしていないのに、何も分からぬまま窮地に立たされるカオル。”自分の過ち”を認め、事実を明らかにして自分を正そうと決意はしたが、そうはさせじと立ちはだかる教授の壁に萎えるカオル。善悪では無く、カオルが自分で起つことが重要で、そこが物語のクライマックスへと繋がるのだが、救世主の登場と用意周到な救済策には、これまでの鬱々が嘘のように消え、爽快感が味わえた。更に事の顛末には涙をこぼすことになるから、「くっ、ヤラレた!?」とか思うのだけど、総合的には少し出来すぎな物語として印象が強い。
何を隠そうカオルを窮地に追い込んだ元凶(発端の発端)は父親の迂闊さと考えられ、子供の心理を失念していた父親の行いが引き金となってしまった事件・事故と言えるわけで、やはり若干冷めた目線を向けてしまうところがある。けれど、子を守ろうとする父親の行動は迅速かつ適切、日頃の父子のやり取りからも強い信頼関係が伺われて、上ったり下がったり、結果的に「終わりよければ・・」な好感度が勝る奇妙な作品だったように思う。(父親の機転は本当に素晴らしいし)
ダメダメ評価だったカオルはやっぱりダメダメなのだけど、これを期に「医学」に興味を持つなど、一から精進してくれるのでは?とか思え(あとがきにて続編も示唆されていたし)、読了後は予想外に清清しさが残るものとなった。

雑誌連載をそのまま掲載とのことで、珍しい左表紙の横書きの本。優しい文章でサクサク読める、子供向けの子供に紹介したい本には違いないが、”章タイトル”であるパパの言葉は大人も頷かせる名言であり、大人でも楽しめる、内容のある物語だと思う。
「扉は開けたときには、勝負がついている。」、「エラー気付いた瞬間に直すのが、最速で最良だ。」、「世の中で一番大変なのはゴールの見えない我慢だ。」など等、心の片隅にでも留めておきたい言葉だと思う。

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コメント

こんばんは!
TB&コメントありがとうございました。
今週は超多忙で、ストック記事をアップしてブログを放っておいてしまいました。
お返事が遅れて申し訳ないです。

この本は、中高生向けということで、ちょっと教訓めいたところもありますが、なかなか楽しめましたね~
私は薫君は可愛いなぁ~と思いましたが、確かにお調子者でいい加減なところもあったと思います。
でも、男の子を持っているせいか、幾分過保護気味の目線で読んじゃって、、、とにかく藤田教授が憎たらしくて仕方ありませんでした(笑)
中学生が医学部に!!という設定は面白かったと思いますが、蓋を開けてみたら、、、臨床は皆無で(当り前でしょうが)、実験云々ばかりだったのはちょっと不満でした。
もし続編でもあれば、本当の病と医学に向き合う薫君に会えるかもしれませんね♪

投稿: 由香 | 2008/06/07 23:05

■由香さん、こんにちはsun
思いの外楽しめましたね。というか、私のレベルはこれで十分です(笑)

息子さんをお持ちならば、感情移入しちゃうって当然かもしれませんね。元気な男の子は、調子良いくらいでちょうど良い感じですしw

私は実験の方が好きなので、そこに不満は無かったです。バスでの出来事にはヤラレちゃいましたがw

続編があればこちらこそ本当に面白くなりそうな気がします。救世主?の少年ともいいコンビになりそうですしw

投稿: たいむ(管理人) | 2008/06/08 00:13

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受信: 2008/06/07 23:06

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