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2008/03/17

『図書館革命』 有川 浩 〔著〕

Libralywer4『図書館戦争』シリーズも、第4弾『図書館革命』でラストを迎えた。最終巻の内容にふさわしく、あれこれと決着が見え(経過観察中もあるけれどw)すっきりとした後味に纏めてくれたことを嬉しく思う。(ィャ、甘いけど)
物語は、原発テロを切っ掛けに、図書館法ひいては図書館と図書館隊の存亡がかかった大事件へと発展し、最大級の作戦がベースとなって公私の様々な決着が描かれている。
劇中での争点はともかく、『図書館革命』の状況は現実の何かに置き換えて考えらるもので あり、単なるベタ甘ラブストーリーといえない社会的な面が感じられ、読み応えのある作品だった。

事件の発端は、福井の原発での同時多発テロ。その為に施行となった「テロ特措法(の拡大解釈)」を追い風に一気に”図書館つぶし”に掛かろうとするメディア良化委員会側との対決が今回のベースだ。発端をわかりやすく説明する為にシリーズ初の”プロローグ”がセットされ、「原発テロ」の概要のみが書かれている。そして、郁と堂上のデート?!でスタートする「図書館革命-1.その始まり」となる。
冒頭にのんびりムードを持ってくる当たり、直後に勃発する事件の激しさが予感され、緊急招集によって中断された2人の案件は、最後の最後まで棚上げになるだろうことが予想された。デートは、前巻での「次はお茶だな。」と言った堂上との約束を引き継いだもの。プロローグからも、いきなりコレがくるとは思っていなかっただけに少し驚いた。(私には、今ひとつハッキリしない堂上だったこともある。)・・・でも、おかげでハッキリした。郁と堂上でのシチュエーションは、いつも郁の視点でのみしか語られないから、一緒になってグラグラさせられるのけれど、今度はどう見ても堂上の本気が見て取れる(キーワードは「次」か)。どうやら堂上は恋愛にはそれほど奥手でもないようで、曖昧さは確信犯的。何故かは知らないが「王子様」を言わなくなった郁であり、もはや尻尾をブンブン振ってついて来るような郁の気持ちは堂上にはバレバレなのだね。だから可愛くって仕方が無い。わざと茶化してからかって(ある意味、報復?)いるのじゃないかな? 既に堂上自身は気持ちの整理がついていて、後はいつ切り出すか、という段階に見える。(30歳のいい年した大人の男だもんね。)上官モードで手を握るのも郁だから。おそらく他の誰にもそんなことはしない。落ち着かせる意味もあるけれど、郁を想う心が反射的にそうさせる。(周囲に突っ込まれて”上官として”で逃げられるし。) ・・ということで、全てが落ち着けばこっちは自然に纏まるものと確信するところだ。しっかし、最後まで「ずるいぞ、堂上!」とあえて言わせてもらおうか。結局何も言わないのはズルくないか?(態度で示すのもアリではあるけど。) でも、ま、何もかも郁より上手な堂上。主導権はいつだって堂上にあるわけで、全部ひっくるめて堂上が大好きな郁なのだから、郁の完敗は致し方なし。キチンと向き合えば誰よりも誠実に応えてくれる堂上だし、ここは潔い郁を「良くやった!」と褒めてあげなくちゃだね(^^)
小牧と毬江ちゃんは危なげなし。しかるべき時を待つばかりのようだ。柴崎と手塚は、慧の存在が2人の距離を詰めるし、手塚兄弟のクッション役が柴崎となれば、兄弟の雪解けもそう遠くなかろう。柴崎が曲者だけに手塚も一筋縄ではいかないが、こちらも(郁の分析によれば)手塚の覚悟次第のようで、いずれなるようになるだろうと思える。
ラスト、命を懸けた攻防戦の末、勝ち取った穏やかな日々でのエピローグ。注目すべきは郁と堂上。やはり収まるところに収まれば仕事が早い2人だね(^^)

ところで、5章のラストからエピローグの間には4年近い月日が流れている。郁と堂上の恋人時代は、喧嘩しながら犬も食わない・・なのだろうけど、そのベタ甘っぷりがスピンアウト本『別冊 図書館戦争』(4/10発売予定)で発表されるようだ。シリアスがかった「危機」と「革命」だっただけに、大爆笑を期待したいところ。
アニメ化(しかもキャスト)で興味を持った私だが、今となってはこの本(シリーズ)に導いてくれた事にとても感謝したい気分だ。とはいえ設定こそちょっぴり意識しての読書だったがまだ始まっていないアニメ。イメージはとりあえず私だけのものだ。先読みしたことでの吉凶は分からないが、アニメには、音と動きで臨場感に溢れた”アニメならでは”を期待している。制作が「I.G.9課」ならば間違いなかろうが、「別冊」の発売と併せて今から4月が楽しみだ。

・・・さて、以下は「事件」の経過と個人的感想。堅めの話題でしかも長文。興味のある方のみどうぞ。
良化委員会の目的は、テロの手口に極めて類似した小説「原発危機」の著作者である当麻蔵人を、”似ている”というだけでマニュアルの可能性を示唆して危険因子とみなし、身柄を拘束した挙句に著者の執筆活動を制限(剥奪)しようとするもの。更に当麻を前例に次々に作家と図書を狩り、なし崩し的に図書館側の形骸化を画策するものである。対する図書隊の使命は、「表現の自由」が日本国憲法によって保護されている、という常識は変っておらず、著作者の弾圧は「表現の自由」の侵害するものであり、良化委員会のもくろみは憲法抵触どころか違反そのものと言えるとし、よって当麻を保護する権利を有する図書隊としては、断固当麻の引渡しを拒絶するといったもの。ここに当麻をめぐる激しい攻防戦が始まることになる。
ぶっちゃけルールは簡単。当麻を守りきり、裁判で違憲を勝ち取れば図書隊側の勝ち、それだけ。しかし、当麻を奪われたら良化委員会の強行をとめる術は無いにも等しく、その時点で図書館の未来は潰えるという、完全に図書隊側に不利な状況だ。手塚慧率いる「未来企画」を含め、どれだけスパイが紛れているのか分からない図書館と図書隊の現状では、当麻の警護は困難を極める。信用の置ける限られたメンバーでの警護を任させれるのが堂上班だ。厳しい状況下だが小競り合いのひとつひひとつをクリアする堂上班。紆余曲折の中で「未来企画」と互いの利害を一致させ、共闘の道を開くのに一役買うのが柴崎というのがスゴイ。(手塚は渋るが)。やっと「一枚岩」の体制を整えた図書隊。やり無理復帰した玄田の采配が冴えた”パス報道作戦”は、世間の関心と理解を獲得し、署名活動などの一般市民からの援護射撃も集まり始める。しかし、「国民にテロの不安を煽る」という良化委員会の建前が立ちはだかり、裁判での「勝訴」という決め手が得られず形勢不利を覆すことが出来ない。「完全勝訴」でなければ意味がなく、一切の妥協許されない裁判。手詰まり感に士気が下がりはじめた時点において、打開策を発するのが郁の何気ない思い付きからの独り言、となるのはヒロインのお約束。郁の初案が正式に採用され、別角度からの予備策を同時に仕掛けながら、いよいよ最高裁判決によるラストバトルの幕開けとなる。・・・決着に至るまでの内容は省略するが、結局郁の発案は郁の手で達成されること、その過程は涙ナシでは進めない、とだけは言っておこうか(^^)
(余談:このシリーズは、伏線にあたるヒントが、どこかの会話に潜んでいることが良くある。郁の「亡命しちゃえば」も、雑談のなかで当麻が「もう日本では書けなくなるかもしれない」と呟く部分あり、それが郁の発想に繋がったかは定かでないが、読者にはピンと来るところ。このセリフが無きゃなーと、少し勿体無く思った。)

『図書館戦争』での戦いの根本にあるモノ。”メディア良化法”という馬鹿げた法律が、何故いとも簡単に制定されてしまったか、については何度となく触れられてきた。その中で何よりも「無関心」という言葉が一番重い。いつの世も、穴だらけの法律は世間の「無関心」を逆手にとった巧妙な手口で覆い隠されたまま成立する。「無関心」な法律は知らぬところで、都合よく穴埋めされていても「無関心」ゆえ気がつきもしない。それが現状として定着する。
好きなもの、あるいは嫌いなもの・許せないものにしか興味を見出さない人間の如何に多いことだろう。そして己が身に災いが降りかかって、はじめて知る事実に愕然とした経験は誰にでもあると思う。もちろん私も「見ず・聴かず・食わず嫌い」は多々ある。反省すべきことだ。確かに、ただ関係の無いもの、ただ興味の無いものを遮断したところで、生活にはなんら影響を感じることは無い。例え、まったくの無関係とはいえなくても、関心を示そうが示すまいが、自分がどう思ったところで世の中が変わる・変えられると思っていない部分がある。そして、闇に気付くことなく、いつのまにか閉ざされている世界を知らずに、あたりまえに生きているのかもしれない。おそらく現実にそうだと思う。
具体例を挙げれば、「年金問題」がまずそれであり、今なら「ガソリン税の暫定税率問題」がモロにそうなんだろうな。不景気で、原油高になって、ガソリンが高騰し始めて、やっと周知の問題となった事実であり法律。”道路特定財源”として必要だと撤廃を認めない与党と、平等を盾に撤廃を主張する野党。対立の構図はシリーズの争点とよく似ている。(前者には利権が絡むあたりもね。)
それはともかく『図書館戦争』シリーズは、こうした事実をとても分かりやすく解説しているように思う(手塚慧の談等、まさしく。) 「無関心」であることの怖さ、「無関心」が失わせるものの大きさ、いざ気が付いたところで後の祭りという理不尽さ・・・。といってもシリーズは、そこに絶望するのではなく、もう一度正すべく全力で闘うお話。戦いはやけに過激で荒唐無稽だけど、そのくらいの覚悟がなければ一度決定したものを覆すことなど出来やしないのだと、言われている気がする。また、力に力で対抗すること、その罪と罰。大義ありかと正義のありか。悪意のない正義の押し売りと正義の名を語る偽善。理想と欲望にまみれた歪んだ正論。愛とエゴの履き違えが引き起こす裏切りと密告。更にテロの意義etc・・・とまぁ、様々のモノが盛り込まれていたように思う。
基本的にシリーズは”激甘恋愛パート”が本線である(と思う)。小難しい設定はあれど、恋愛模様と職場のドタバタ劇で場が和む笑いが満載で、堅苦しくない作風が優しくて読みやすい。けれどシリーズ後半は「濃い事件の成り行き」も非常に気になる”2本立て構造”がめちゃくちゃ私を惹きつけたのは事実だ。
「戦争」の感想では「勢いとパワーがある。」と書いたが、その「パワー」はどんどん増すばかりだった。普段は文庫本1冊に1週間前後かかるノロノロ読書の私が、これほど短期間に4冊読破するのは異例。(特に「革命」は数時間での一気読み)。それ程の作品で、私にとって久々のクリーンヒット!とにかく凄く面白かった。作者に敬礼!
だだ、宣伝したくとも”乙女路線”が主流な為、万人に勧められないのがちょっと勿体無くて残念なところ、かな?(笑)

最後に、絶賛は絶賛なのだが、悔しいので不満をひとつ。エピローグではその後の世情や相関図の変化が垣間見れたのは良かったけれど、ならば尚の事ちょっと物足りない気がしている。ページ枚数から、登場しない誰もが相変わらずで円満だとして、割愛せざるなかったのだとしても、である。

・・以上、ここまでの長文にお付き合いありがとうございました。

※関連記事:『図書館戦争』『図書館内乱』『図書館危機』

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コメント

こんばんは♪
たいむさんがここまでこのシリーズにハマられるとは!
私はアニメには食指が動かないのですが(自分の中で姿形とか声とかイメージが固まっているので)、本当に題材といいキャラといい魅力的でしたよね~。
たいむさんの解釈とか読みに関してあれこれ自分の意見を述べる事ができるほどこの本を詳しく深く読んでいないのが残念です。
今度お会いした折にはまた噛み砕いて教えてくださいね!

投稿: ミチ | 2008/03/18 00:01

■ミチさん、こんにちは
中学生のころはコバルト文庫に嵌った私ですし、元来好きなんですねこの手のヤツは(^^)
それでも、今は小説だからこれだけ漬かれた気がしてます。

ミチさんはアニメ派じゃないですもんね。でも気持ちは分かりますよ。
私は両党ですけど、違和感があると嫌ですもん。本当はあまりミックスメディアを推奨していないのが本音です。

一見深そうな解釈とか感想は、没頭して短期間に制覇したから書きたくなって書けただけ。勢いだけなのでそのうち恥ずかしくて読み返せなくなります、たぶん(^^; 
けれど、連続で読めたことは幸せかも。ストレスがなかったし、一連の流れが良く分かりました。ただし弊害も。後付?って設定までもよく見えたしね(^^;
突っ込んでお話できると楽しそうですが、表面できゃあきゃあするのが一番楽しいかもしれませんよ(笑)

漫画の件、了解です。余暇が出来そうな時にでもご連絡ください。
オタクはオタクですけど、書籍の長期貸し出しは良くやってますよ。もちろん信頼の置ける人だけですが。
以前にも話ましたが、書籍は買う派です。けれど、予算の都合では古本屋も良く使います。
多少傷んでいても納得できれば買いますし、手袋して読めとは言いませんから大丈夫です(笑)


投稿: たいむ(管理人) | 2008/03/18 17:34

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{/book/}「図書館革命」有川浩 図書館シリーズ第四弾。 突然発生した原発テロ。敦賀原発に突っ込んだ二機のヘリコプターという図は9.11を思い起こさせてゾッとしました。そのテロ行動のテキストにされたと思われる一冊の本があったのです。再びその本がテロの教科書となってはたまらないと、その本の著者の表現の自由を制限する対テロ特措法が採択されます。そして、著者・当麻を守ろうとする我らが図書隊とメディア良化委員会との攻防が繰り広げらて行きます。 今までは、図書隊対良化委員会の組織同士の対決が主でした... [続きを読む]

受信: 2008/03/17 23:57

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