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2007/11/16

「新・日本語の現場」より、マニュアル:料理編(その1)

久しぶりに読売新聞の『新・日本語の現場』からの話題。
【マニュアル編】になってから、(私には)今ひとつ面白みに欠けていたこの連載だったが、”料理編”に入ってから、また興味がそそられる内容となり始めた。
料理のマニュアルといえば、当然料理本(レシピ)である。しかし、レシピがあれど料理の味付けとは繊細なものであり、また嗜好も深く関わることからもレシピに絶対は無く、その為か、嘗ての料理本には曖昧な表現が多用されていたようだ。そういえば、「コショウショウショウ(コショウ少々)」などは、子供時代、このフレーズが登場するだけで笑っていた覚えがある。
とはいえ、「少々」ってどのくらい?ではある。

「絶対にレシピがないと作れない」という人もたまにはいるが、料理本に齧り付きつつ”1グラム”まで厳密に計りながら料理をする人は稀だと思う。(お菓子のように正確さを要求されるものは別として) しかし、最近はより具体的な表現(数値化)が、レシピに求められる傾向があるとのことだった。
同じでも家庭料理が飽きない理由は、”目分量”という、失敗もあるが決して同じ味にならない(出来ない)微妙な変化を舌が察知しているからという事実がある。料理教室でも、最終的には「好みの味付けに調整すること」を基本にしているが、初心者に曖昧な表示(表現)は難しいらしく、また具体化の背景のひとつとして、特に退職後の男性の料理参入が関係あるらしい。
「手軽(簡単)に、誰(初心者)でも、美味しい(プロと同じ)料理が作れる本(レシピ)」が必要となれば、そのようにせざる得ない、と言ったところである。
例えば、【小さじ1/6】。小さじ1杯をすり切りし、「Y」の字に3等分してその2/3を取り除く。更に残った1/3を1/2にすればOKである。【小さじ1/8】ならば半分にして半分にして半分・・・ともっと簡単だ。・・が、少なくとも私は絶対にそんな面倒はしない(^^;;
分量のイメージを視覚的に掴む為には、一度くらいやってみるのも良いと思うが、”軽くひとつまみ”と分れば、それでいいじゃないか、てなもんである。

レシピの具体化から、”ひとつまみ”(=約1g)という表現が使われなくなったことと同時に、死語となりつつある”料理用語”が多数あるとのことだった。
「すが立つ」「こそぐ」「吸い口」「観音開き」「千六本」など、本来の意味を聞いたアンケートでの正答率は概ね30-50%。「千六本」は5%程度だそうだ。確かに”ダイコンの千切り”を「千六本」とは誰も言わなくなった。レシピでの表記もおそらく見たことが無い。となれば、言葉が消えていくのは必然。”語り部”を失った”伝承”と同じで、やがて全てが失われてしまうかもしれない。日本の古式ゆかしき料理の世界でも、”日本”は失われつつあるのかもしれない。なにやら寂しいような、情けないような・・・。

ところが、レシピからは消えても、”宣伝文句”として残り続けた用語があるとのこと。それが「とろ火」である。
レシピでは「弱火(極弱火)」に切り替わった「とろ火」。しかし保温から最大までの”火力”を高性能さをウリにする「商品」では、単なる弱・強ではインパクトが弱く、「強火からトロ火まで」という幅広さを感じさせるキャッチコピーが肝心と、図らずも「とろ火」が生き残ってしまった、というのが事の真相らしい。
では、何故本来の「とろ火」がレシピから消えたのか?であるが、元来「とろ火」とは、コトコトとゆっくりじっくり煮込める火力であり、”時間”をも含む「とろ火」という火力である。しかし、時間に追われる現代の家庭事情であり、圧力鍋や電子レンジ・オーブンの普及などにより、”煮込む時間”に”調理用具”による大幅な差異が生じる昨今では、もはや「とろ火」における概念が失われてしまったといっても過言ではないかもしれない。”まるで「とろ火」で煮込んだような食感”が再現できるのならば、”3分クッキング”が求められている現代のレシピに、本来の「とろ火」は登場しなくても良いのである。
けれど、本来の「とろ火」料理が一番美味しいことを誰もが忘れていない。今や、手間隙のかかったものが贅沢品(高級品)として君臨する今、宣伝文句としてでも「とろ火」が残りつづける理由がわかった気がする。それでも、言葉が消えてなくなるよりずっと良いことかもしれないが。

以上が先週から今週にかけての記事を、私なりに思ったこと交えて纏めたものである。
【料理編】はまだ連載途中。次は「塩」について興味深い内容となっているので、それは次回で紹介したいと思う。

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