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2007/11/29

DVD『秒速5センチメートル』みた。

5cm 劇場では見損ねてしまい、DVD化を待っていた作品。やっと見ることが出来た。
始まって直ぐに思ったことは、「ああ、まただ。」というもの。そして、予告編すら見たことがなかった為もあり、まるで意味不明だった”秒速5㎝”という速度の単位でしかないタイトルにおもいきり納得。「桜の花のおちるスピード」が”秒速5センチメートル”。
主題歌にすっかり中てられてしまい、胸の奥底から込みあがってくるモノであり、目頭にアツイものを感じた。けれど、とても良い作品だったけれど、それでも涙は溢れなかった。
その理由は、おそらくこの作品が納得できるモノだったから。ただし、甦ってしまった自分自身の想いは止められなかったって事なんだろうな。
以下、若干ネタに触れています。けれど、ネタバレと言うよりは、この作品を観た方、もしくは新海監督の過去の作品に触れたことのある方にしか分らないような感想になっているかもしれません。(しかも長文)

タカキとあかりの幼き日の出会い。甘ずっぱい初恋から、保護されるしかない「非力な子供なんだ」という自覚が「永遠」を約束させないという、”大人な心”の発露の描かれた、第1話「桜花抄」。
栃木のあかりと鹿児島(種子島)のタカキ。思春期にさしかかり、精神的に早熟だった彼らの間に生じた心の距離の広がりが加速する。相手を焦がれ求めながらも行動しない、できないという葛藤。タカキに想いを寄せる少女の幼い恋もまたしかり・・・という、第2話「コスモナウト」。
大学進学を期に物理的な距離を縮めるタカキ。社会人となり、もはや障害は何一つ残っていないはずだが、今度は「今更」という、「時間」と「心」の厚い壁が立ちはだかる。諦めの心と記憶に残るあかり姿を追い求め心の狭間に動けなくなるタカキ。すっかり過去を綺麗な思い出に変換して前進しているあかり。戻らない時間がそのまま結末となる、第3話「秒速5センチメートル」。
以上が、連作短編『秒速5センチメートル』という物語のすべて。

距離と時間と速度の重さがじんわりとのし掛かってくる作品。抗いようのない時の流れであり、物理的な隔たりが生じさせてしまう心の変化は、誰にも、自分自身でも止めることは不可能。誰であろうとその変化を責めることは出来ないし、逆に罪悪感を持つ必要もないもの。ただし、悲しいかな、変わっていく速度は人それぞれだということが、人の心を打ちのめす。過程において、時差や温度差が生じてしまうのは必然。これも誰にもどうすることの出来ないもの。
時差を生む最大の要因はそれぞれを取り巻く環境。環境が変化を加速させたり、鈍化させたりしてしまう。同じモノを見て、聞いて、話して・・・・人と人との親密度の大小は、どれだけ同じモノを共有出来るかによって左右されると私は思っている。タカキとあかりの場合にしても、たとえ2人の間に”物理的な距離”が立ちはだかっていたとしても、”心の距離”と”物理的な距離”を比例させない手段はいくらでもあったわけで、たとえ2人がいつも一緒にいることが出来ていたとしても、目の前の情報を共有出来なくなってしまうこともあるわけで、いずれにしても、甘んじて自らが「距離」を作らない(縮める)努力を怠り、距離感を打破出来ない場合、現実的にもいずれはこの作品と同じようになることを、きっと皆が知っているのだとも思っている。もし、この作品の結末に異議を唱える人がいるとしたら、おそらくその人は自身の何らかの経験によって”臆病なタカキ”とシンクロしているからではないかと想像する。自分自身が修復を願っているんだね、たぶん(^^)

まったく、溜め息がでるくらいツボを心得た作品だったと思う。
タカキとあかり程に切なくドラマチックなものは無くても、友人・恋人・もしかしたら夫婦でも、誰しも一度は「時間と距離」と、変化の速度による「温度差」を自覚・痛感した経験はあると思う。ぶっちゃけ、この『秒速5センチメートル』は、”自然消滅”という日常にあふれた、ありきたりな物語でもあり、けれど、時に”自然消滅”が痛いものであることも経験しているから、あかりには「振り返って欲しい、待っていて欲しい」と願ってしまうラストだったりもする。
あかりの現在と未来を知る第三者としては、あかりが振り返ったからといって、どうにかなるモノでは無いと思いつつも、長年のタカキの苦悩を知っているが故に、”擬似タカキ状態”でなくとも、つい、タカキを救ってあげたいと思ってしまうような感情が沸き起こってしまうのだね。だから、結末に納得できてもちょっぴり切なさが残る。何であれ、私もタカキもほのかな期待は打ち砕かれるのだけど、これでやっとタカキは前に進めるんだろうな、と確信できる結末と思えるので、ハッピーエンドとは言えずとも、(少なくとも私には)引っ掛かりの無い、納得の行くラストに感謝感謝というところである。
そんなラストシーンは、1話での幼き日の出来事を再現させた踏切のシーン。”流れた時間と開いた距離”を「電車の長さ」で表現するという演出がとても見事で、数秒が数分にも感じてしまうような”時間の見せ方”が実に上手かった。
まさかのすれ違い。踏み切りの幅たった数メートルという互いの距離を思い、閉じた踏切が開くまでのたった数十秒という時間を、果たして「居るのか?居ないのか?」と、緊張しながら見守ることになる。「やっと開けるか・・」と思った瞬間、1話には無かった対向車線に進入する別の電車に愕然。それによって”絶望”を強く予感してしまうのだけど、漸く開けた踏み切りの向こう側には人影を探してしまうんだなー。
3話の冒頭に”すれ違いまで”を見せておいて、後は主題歌「One more time,One more chance」(これが絶妙!)をBGMに”回想”で観るものの感情を高揚させて置きつつ、その”続き”をオーラスに持ってくる巧妙さに脱帽だった。

『ほしのこえ』とも、『雲のむこう、約束の場所』とも、同じであって違う作品。このような素敵な作品に出会えたことを嬉しく思う。
レンタルでありながら、「監督(ロング)インタビュー」が映像特典でしっかり付いていたことも嬉しい事だった。新海監督の真面目さであり、作品への取り組みの姿勢、繊細さみたいなものがひしひしと伝わってくるインタだった。
リアル感は追求しても、写実を追求していないという背景美術についても大いに納得。人の記憶に残る風景とは、決して写実的なものではなく、強く心に残る思い出は、心ならずも美化されてしまうもの。人間の記憶は都合よく改ざんされたりもするから、実際は四角が丸なんてこともあるわけで、人の描いた”線”を生かした画は、例え正解(正確)でなくてもリアルを感じる素晴らしいものだったと思う。(大宮駅のモニュメントには(よく見るだけに)思わず笑みがこぼれてしまったw)

・・・なんだか、何もかもを絶賛しているようになってしまったけれど、一つだけ「えー」というところがある。それは、1話の電車でのこと。急に昼から降り続いたあれだけの雪であり、夕刻には既に大幅に乱れ始めたダイヤであれば、大宮の辺りでその先は間違いなく運休ではないかと思う次第。ちょっと強引な気がした。
「もし」はないが、「もし」あの時出会うことが出来なかったら・・と考える。あの時すれ違ってしまっていたならば、逆に、きっと2人の距離は付かず離れずを繰り返していたような気がする。触れて初めて分った感覚を自覚しなければ、手紙が封印されることにはならなかっただろうから。良し悪しはともかくとして、なんだか皮肉なものだよね。

長くなったが、最後に余談としてひとつ。
”秒速5cm”とは、時速にすれば180m。1日で4㎞強、1年では約1600㎞を移動できるだけの速度だったりする。雪の日から、タカキとあかりが踏み切りですれ違うまでの間には、ほぼ地球を半周するくらいの時間と距離が出来てしまっていた事になる。根拠はないけど、多分そのくらいに思えた。だから、「なんだか、人の心の速度って”秒速5センチメートル”なのかな?」なんて、計算しつつツラツラと思った私だった。

気になる方は是非ご覧になってください。
長文にお付き合いありがとうございました。

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コメント

観たんですよ、劇場で。何に…ということもなく、なんだかトランス状態になったみたいになって、ぼんやりしながら帰宅したのを覚えてます。写実ではない、アニメーション、線画の人物、そういう表現の方が、観る側の想像力や感性に訴えてくる(良質な作品であれば、ですが)ものだと思っています。映画でしか表現できないこと、アニメーションでしか表現できないこと、とでもいうのかな。表現として、この媒体を選択する作家には、それなりのこだわりと意義を持っていて欲しいと思うんですよ。詳細な部分も、わずかな秒数のシーンにも、繊細な神経が感じられて、秀作だったと思います。

投稿: あかん隊 | 2007/11/29 23:33

たいむさん、こんばんは。
ラストの踏み切りのシーンは私もとても長く感じました。絶対に明里はいないだろう、とわかっていながらどこか期待してしまう。
そんな貴樹の想いそのままに、完全にシンクロしていました(^_^;
美化された背景は「世界はこんなに綺麗なのに心は苦しくせつない」という貴樹や花苗の心情とのギャップを強く印象付けたような気がします。
何だか自分自身のいろんな思い出も蘇る、そんな心に残る作品でした。

投稿: GAKU | 2007/11/30 01:32

ホント、観た後、トランス状態になりますね。

第1話と2話の時は、ずっと”胸に抱いていた初恋の話”だと思っていましたが、3話あたりでタカキ君は”現実の恋”を手に入れる気がサラサラないんじゃないか?と(笑)一生『あなたが今でも好きだけど、分かり合えないわ。さようなら』と、女に言われるタイプのアーティストだなぁ、なんて思ってしまいました(笑)恋にも似た熱情を一生追い求めるアーティストというか、何だか新海監督に重ねてしまいました。

あぁ、でも、すごく気に入ったのでDVDは買うつもりです。

投稿: あん | 2007/11/30 10:30

■あかん隊さん、こんにちは♪
>観たんですよ、劇場で。
確か、ご覧になったときに「出来れば観て!」ってオススメ頂いた覚えがありますw
ほんと観てよかったです!ありがとうございます。

>映画でしか表現できないこと、アニメーションでしか表現できないこと、
そうですよね。以前はアニメでしか出来なかったことが、実写でも出来るようになってきたこの頃ですけど、それでもやっぱりアニメの質感っていうのかな?アニメはアニメで勝負してほしいなって思うところがあるんですよね。
以前、あかん隊さんの言われていることを、神山監督自ら発言をされていたことがあったと、ふと思い出しました。やはり、さすがは神山監督ですよねー。わかってらっしゃる!


■GAKUさん、こんにちは♪
人間は思い出では生きていけないけど、時には、思い出が生かしてくれたりするんですよね(^^)
これほどまでに、キャラクターの心と背景がマッチする作品ってないような気がします。
今監督の写実画もすごいなって思いますけど、記憶の中の風景も良いですよね(^^)
素敵な作品でした。
そして、予告どおり?本日「雲・・」をレンタルしてきました(笑)

■あんさん、こんにちは♪
洗練されているといいましょうか、ストレートに心にはいりこんでくるんですよね。
ムダな説明がないので、自分に置き換えながらみてしまう、という気もしますが。

>タカキ君は”現実の恋”を手に入れる気がサラサラないんじゃないか?
貴樹くんってば、何を躊躇っているんだろう?って思っちゃいますよねw
よっほど雪の日の思い出が美しくも悔しいものだったのではないかと想像しましたけど、これでは「振られちゃうわよねー」と観終わって、現実に引き戻されたとたんに思う私でしたw

新海監督は・・・どうなんでしょ。それっぽいけどそうでもないらしいし。。(笑)

投稿: たいむ(管理人) | 2007/11/30 18:10

たいむさん、こんばんは。
公開の時は近所で上映がなく、DVDのレンタルもない地域なので(泣)
すっかり忘れていた作品でしたが、
WOWOWのおかげで観ることができました。

映像が綺麗とは聞いていたけれど、ここまで綺麗に表現できるものなのですねぇ。
『One more time,One more chance』が使われるということは、
ラストはきっと…と想像はつきながらも、
貴樹くんの想いが報われてほしいとやっぱり願ってしまいます。
いや、もう何というか…
すっかり昔の思い出が甦って、しばらく呆然としてしまいました。

投稿: 悠雅 | 2008/05/13 22:56

■悠雅さん、こんにちはsun
我が家はWOWOWは見られないのすが、番組表を見ていて放送していることを知り、DVDを見直したくなった次第ですw
本当は桜の時期に見たいと思っていたのだけど、忙しくってすっかり押せ押せになっていました(笑)

>『One more time,One more chance』
DVDには、監督のロングインタ(制作秘話)などが収録されています。
新海監督は、話し上手な監督ではありませんが、感慨深い内容になっていてとても良いです。
機会があれば是非!ってオススメしたいけど、レンタル、無いですか??

投稿: たいむ(管理人) | 2008/05/14 20:01

ようやく見ることができました。
そして見た当日にDVDをネットで予約、本日届きました。

この映画って63分と短いですが、感想は長くなってしまうほど見る者のいろんな思い出にリンクしてきますよね。

特に山崎まさよしさんの主題歌。『月とキャベツ』で使われていた時よりの素敵でしたよ。

投稿: にゃむばなな | 2008/09/02 22:07

■にゃむばななさん、こんにちはsun
>見た当日にDVDをネットで予約
その気持ち分かりますよ~・・といいつつ、私はインチキしてしまいましたが(^^;

>感想は長くなってしまうほど見る者のいろんな思い出にリンクしてきますよね。
まったくそのとおりで、ごらんのとおりの長文感想!今読むと恥ずかしくて顔から火が出そうですけど(笑)

投稿: たいむ(管理人) | 2008/09/03 19:52

前作は地元が舞台だった事もあってか『雲のむこう~』も凄い好きだったのですが、内容的には本作の方が上だったかもしれません。遠距離恋愛の末自然消滅というどこにでもありそうな出来事を淡々と描いているものの、登場人物の詩的な表現や、山崎まさよしの主題歌の使い方などが上手くてとてもドラマチックな作品に見えてしまいましたね~♪

特典のロングインタヴューを自分も見ましたが、途中新海監督の愛猫(?)がひょっこり出てくるのが面白かったですw

投稿: メビウス | 2008/10/30 20:29

■メビウスさん、こんにちはsun
>遠距離恋愛の末自然消滅
「ほしのこえ」もそうでしたけど、新海監督の真骨頂ですね。
この作品は特に音楽のポイントが高くって、『One more time,One more chance』がすべてといっても過言じゃない気がしました。
先日BSで放送されたのを見たばかりですが、また春になったら見たいと思います(^^)

ニャンコちゃんの乱入はめちゃめんこかったですね~~(^^)

投稿: たいむ(管理人) | 2008/10/31 17:56

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